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177.1 第166話【前編】

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立憲自由クラブによる明日の 金沢駅での決起集会の予行演習。これを阻止せよ。そう椎名に指示を出して1時間ほど経過した。
現在は4月30日木曜。時刻は20時になろうとしていた。
「片倉班長。」
岡田が片倉の側にやってきた。彼はベネシュが乗ったと思われるハイエースの動きを捕捉するべく、相馬からの情報を元に所轄署との連携をとっていた。
「相馬の抑えたハイエースですが…。」
岡田の表情が成果を物語っていた。
「駄目やったか。」
「早々に乗り捨てられてました。」
敵も然る者。そう片倉は言った。
「こちらの動き、気づかれたか。」
「それは分かりません。車が乗り捨てられていたのは金沢駅から1キロ程度離れた病院の駐車場です。発進から間もない地点での移動手段の変更ですから、当初から予定されていたものかもしれません。」
「やるな…。」
で、相馬は今何をしてると片倉は聞いた。
「彼は古田さんと自衛隊の連中とで金沢駅のPBに居ます。」
「PBで何をしとる。」
「予想されるテロ行為への対応可能性を協議しています。」
「ほう…。」
「機動隊の協力が欲しいとの申し出でしたので、私から機動隊へ繋いでおきました。」
「しかし…県警だけやと無理じゃないか。」
「と言いますと?」
「想定されることから逆算して。県警の所帯だけじゃ役不足にならんか。」
「それは…。」
「まぁ心配すんな。そのあたりはいま松永課長が手を回しとる。」
「えっ?」
「広域の警察からの応援を要請、既に中国四国管区から出発したと連絡がはいっとる。明日の朝には石川に入れる。」
いつの間に。岡田は特高の秘匿性の高さと手際の良さを痛感した。
「警備部長には人員的なモンは心配すんなって言っておいてくれ。どんな警備体制も敷けるように察庁と警視庁が人的、設備的バックアップをしていますってな。」
「ありがたい。」
「岡田、お前はあくまでも公安特課や。お前が機動隊の調整に手を取られるとケントクが制御きかんくなってしまうやろ。本来の役割に専念してくれ。」
岡田は意味ありげな表情で笑った。
それはそれとしてと、片倉は言った。
「さっき百目鬼理事官から連絡が入った。自衛隊との連携の話や。」
椎名の情報をベースに考えればテロが予定されているのは明日の帰宅時間あたり。場所は金沢駅辺りだ。
それは自衛隊としても独自の情報網で共通の情報を把握していたようだ。
「基本路線は今までと変わらん。公安特課はテロ防止と関係者の一斉検挙。自衛隊はもしもの時に実力でねじ伏せる。今回、その詳細が詰められた。」
「と言いますと。」
「自衛隊は独自のタイミングで動く。あいつらが動いた時点で俺らはあいつらの指揮下にはいる。」
岡田は驚きを隠せないでいた。
「この運用は政府において決定された。」
「政府が?」
「ああ。いまさら国会がどうとか言ってられん。この運用をしくじると選挙どころか政府自体が吹っ飛ぶ。その事の重大さは流石に先生方もご理解いただけたようや。」
「とんでもないことになってきていますね。」
「あぁとんでもない。平和呆けのツケが一気にこの瞬間に回ってきたわ。」
岡田はにじみ出てきた汗を拭う。
「市民の安全確保などは自衛隊には出来ん。治安の維持は警察が請け負う。これはいままでと変わらん。ほやけど公安特課みたいな防諜機関は自衛隊の特務とかぶる部分があるから、それは事態が発生次第、指揮系 統を一本化するってことになった。具体的には自衛隊情報本部の下に公安特課は置かれる。」
「それは片倉さんの特高もですか。」
「ほうや。今回のケースはな。」
「しかし…どうにも手続きごとが多くなるだけのような気がするんですが…。」
「そこんところを百目鬼理事官と松永理事官が調整なさった。」
「と言いますと。」
「組織的には公安特課の上に自衛隊特務がある感じになるって言ったな。」
「はい。」
「つまり俺らは一時的に軍に編入されるって事や。」
「軍に…。」
「岡田、軍と治安組織の違いは?」
「それは…。」
「主権防衛と民間防衛。National DefenceとCivil Defence。俺らは主権防衛の方に回る。敵の撃破と国家の独立と領域を守ることに徹する。それを実現するために警察と軍隊とでは、その運用に明確な違いがあるのは知っとるよな。」
「ポジティブリストとネガティブリストですね。」
日本政府は6年前の朝倉事件をきっかけに安全保障体制整備の政策転換を打ち出した。
防衛予算を倍増させると同時に自衛隊の運用面での充実を図るため、自衛隊法を改正。現行の自衛隊のポジティブリストによる運用からネガティブリストでの運用に切り替えた。
ポジティブリストとは許可事項列挙型であり、個人の権利をみだりに侵害せしめないよう配慮された、平時対応の法律文である。一方ネガティブリストとは禁止事項列挙型で、敗北を避けるため最大限の措置が可能な戦時対応の法律文となっている。警察や消防はポジリスト、軍隊においてはネガリストでの運用が国際的に通例となっている。
「そう。軍に編入されるって事はネガリストになるわけやから、お前、さっき言っとった手続きごとが面倒になるんじゃないの的な懸念は払拭される。」
「…。」
「これはつまり岡田…どういうことか分かるな。」
片倉の言葉を聞く岡田の顔は冴えない。
「そのときは俺らも躊躇うことなく、敵を殺傷せんといかん。」
これが岡田の顔を曇らせている原因だった。
「軍隊ってモンは国家そのものや。政権とか官庁とかの括りじゃない。そこんところの頭を切り替えられんと…。」
片倉は真剣なまなざしで岡田を見つめる。5秒、10秒、沈黙の時間が続いた。
「死ぬぞ。全員。」
「全員…。」
「ああ、全員や。お前だけじゃない。俺も、お前も、守られるべき民間人も。みんな死ぬ。」
この場に沈黙が流れた。
片倉自身が自分に言い聞かせるように言っている。おそらく彼もまだ心の整理が付けられていないのだろう。
「ほやから止めなならんがや…。」
「なんとしても…。」
「ほうや。」
「片倉さん。」
自分の名前を呼びかける声が聞こえた。
椎名だった。
「どうした。」
「立憲自由クラブの流れ、少しだけ変わってきましたよ。」
本当かと言って片倉はタイムラインを見た。
デモンストレーションの予定地である金沢駅の周辺では、今回の大雨で被害が出ている地域があり、そのような状況でデモ活動をするのは、被災者の感情を逆なでするものである。そう大川自身がSNSで中止を訴えていた。
これに対して立憲自由クラブの反応は二つに割れていた。
主催者がそう言うんだからそうしようという、至って従順で聞き分けの良い派閥。彼らは金沢の大雨被害の義援金をクラウドファンディングを利用して集めようと言い出している。
一方、今までこの日のために準備し、煽りに煽っていた運営側のほとんどは、主催者を急に日和ったと断罪。この土壇場での日和が現在の我が国の病巣そのものであると批判し、デモの中止はないとしていた。
「完全に分裂やな。よくやった椎名。」
「私ではありません。空閑の力です。」
「特別なコミュニケーション…ね。」
片倉のこの言葉に椎名は意味ありげに沈黙を作った。
「ここでたたみかけましょう。」
「たたみかける?」
「デモ推進派と中止派の双方を煽ります。」
「どうやって。」
「富樫さんの力が必要です。」
「なに…?」
片倉と岡田は言葉を失った。
「富樫さんは既にSNSの監視をなさって、誰がどういった影響をもっているか私よりもご存じですから。」
「なぜ、それを…。」
「時間はありません。理由を探るよりも先に富樫さんに指示を出してください。」
岡田はその場から電話をかけた。
「椎名。お前さん何をどこまで知っとるんや。」
「何をどこまで話せば、片倉さんの信頼を得られるんでしょうか。」
「てめぇ…。」
岡田が片倉の二の腕を掴んで、気持ちを落ち着かせるようなだめる。
「私は何も知りません。ただなぜかそういった情報が私の元に入ってくるだけです。」
何やら感情を煽るような言葉だ。
流石の片倉もこれは椎名の罠であると感じとったのか、無言を決め込んだ。
「椎名。富樫さんにはSNSの対立を煽るよう指示を出した。」
岡田がマイクに向かって言う。
「ありがとうございます。しかしこの対立がデモを中止にまで持って行けるとは限りません。おそらく一部の先鋭化した連中が行動を起こすでしょう。ですが当初の予定されていたよりも大幅に少ない人員になることが見込まれます。そうすれば明日の影響は少ないものに止めることが出来るでしょう。立憲自由クラブのSNSを常時監視して、主催者の動きを注視してください。」
「了解した。」
通話はここで終わり、椎名はトイレへと席を外した。
「全部知っとる。そう思って接しましょう。いちいち反応しとったら身が持ちませんよ。」
「そうやな。」
「バケモンです。俺らはバケモンと対峙しとるんです。」
「ああバケモンや。」
「問題は、このバケモンが組織の一部ってところ。我が国はとうとうこのバケモンらと向かい合って戦う。」
片倉はため息をつく。
「なぁ岡田。」
「はい。」
「これまるで漫画やな。」
「漫画…ですか。」
「あぁ少年ステップってあったやろ。あそこの漫画って、ラスボス倒したら次のシーズンで更に強いラスボス登場やがいや。」
「あぁ…。ラスボスの無限ループですか。」
「そうそう。」
「もしもそうだとしたら、この連載はいつ終わるんでしょうか。」
「作者次第じゃないのかね。」
「作者って誰なんでしょうかね。」
「普通に考えたら、椎名の背後にあるオフラーナであり、その上のツヴァイスタンの指導部って事になる。」
岡田は黙る。
「どうした。」
「片倉さん。それって普通に戦争ですよ。ツヴァイスタンと我が国の。」
「そうやな。」
「今日日正直言って国と国とが戦うって考えられません。あの国に何の得があるって言うんですか?実際、ツヴァイスタンと我が国は現状友好ムードが漂っていたじゃないですか。」
「それを隠れ蓑に奇襲とか。」
いやいやと岡田は彼の意見を否定した。
「そもそもツヴァイスタンと日本は地理的にも離れてます。歴史的にもそんなにつながりがありません。冷戦時にツヴァイスタンは一方的に我が国を敵国認定。これは宗主国であるソ連の差し金だったと言われています。」
「…。」
「基本受け身なんです。ツヴァイスタンは。独力で何でも出来るような国じゃありません。ソ連崩壊して独立したとは言え、あの国は旧ソ連の手助け無しでは何も出来ません。ツヴァイスタンが我が国戦争をふっかけるって事はロシアがそれを望んでいるってことになります。そして我が国に戦争をふっかけることは同時にアメリカにも宣戦を布告するって事になりますよ。」
ツヴァイスタンの秘密警察が計画したテロ。これが成功、もしくは実行されたとすれば岡田の言うとおりになる。
それは特定の地域の紛争に留まらず、最悪の場合米露を巻き込んだ大戦の火蓋が切って落とされることになる。
こんなものツヴァイスタンも旧宗主国のロシアも望んでいないのは明らかだ。
冷静に考えれば考えるほど、明日に予定されているテロの意図するものが見えない。そもそも椎名はなぜこのテロを実行するに至ったのか。もちろん彼はツヴァイスタンの一つの駒に過ぎず、テロの意味するもの、戦略的なものまでは知らされていないだろう。
「わからん…。」
いつになく力ない様子で片倉は呟いた。
「慢性的な人材不足を補うために教育水準の高い優秀な人材を獲得する。それが日本人の拉致。そういう説もあります。それくらいどうにもならない国なんです、あそこは。」
「確かにそうや。」
「でも確かにこのテロの筋書き、一体誰が作者なんでしょうかね…。」
「指導部じゃないとしたら…。」
「一部の暴発…。」
片倉はSNSのタイムラインを見ていた。立憲自由クラブの中は二つの意見に割れていた。
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「片倉班長。」
岡田が片倉の側にやってきた。彼はベネシュが乗ったと思われるハイエースの動きを捕捉するべく、相馬からの情報を元に所轄署との連携をとっていた。
「相馬の抑えたハイエースですが…。」
岡田の表情が成果を物語っていた。
「駄目やったか。」
「早々に乗り捨てられてました。」
敵も然る者。そう片倉は言った。
「こちらの動き、気づかれたか。」
「それは分かりません。車が乗り捨てられていたのは金沢駅から1キロ程度離れた病院の駐車場です。発進から間もない地点での移動手段の変更ですから、当初から予定されていたものかもしれません。」
「やるな…。」
で、相馬は今何をしてると片倉は聞いた。
「彼は古田さんと自衛隊の連中とで金沢駅のPBに居ます。」
「PBで何をしとる。」
「予想されるテロ行為への対応可能性を協議しています。」
「ほう…。」
「機動隊の協力が欲しいとの申し出でしたので、私から機動隊へ繋いでおきました。」
「しかし…県警だけやと無理じゃないか。」
「と言いますと?」
「想定されることから逆算して。県警の所帯だけじゃ役不足にならんか。」
「それは…。」
「まぁ心配すんな。そのあたりはいま松永課長が手を回しとる。」
「えっ?」
「広域の警察からの応援を要請、既に中国四国管区から出発したと連絡がはいっとる。明日の朝には石川に入れる。」
いつの間に。岡田は特高の秘匿性の高さと手際の良さを痛感した。
「警備部長には人員的なモンは心配すんなって言っておいてくれ。どんな警備体制も敷けるように察庁と警視庁が人的、設備的バックアップをしていますってな。」
「ありがたい。」
「岡田、お前はあくまでも公安特課や。お前が機動隊の調整に手を取られるとケントクが制御きかんくなってしまうやろ。本来の役割に専念してくれ。」
岡田は意味ありげな表情で笑った。
それはそれとしてと、片倉は言った。
「さっき百目鬼理事官から連絡が入った。自衛隊との連携の話や。」
椎名の情報をベースに考えればテロが予定されているのは明日の帰宅時間あたり。場所は金沢駅辺りだ。
それは自衛隊としても独自の情報網で共通の情報を把握していたようだ。
「基本路線は今までと変わらん。公安特課はテロ防止と関係者の一斉検挙。自衛隊はもしもの時に実力でねじ伏せる。今回、その詳細が詰められた。」
「と言いますと。」
「自衛隊は独自のタイミングで動く。あいつらが動いた時点で俺らはあいつらの指揮下にはいる。」
岡田は驚きを隠せないでいた。
「この運用は政府において決定された。」
「政府が?」
「ああ。いまさら国会がどうとか言ってられん。この運用をしくじると選挙どころか政府自体が吹っ飛ぶ。その事の重大さは流石に先生方もご理解いただけたようや。」
「とんでもないことになってきていますね。」
「あぁとんでもない。平和呆けのツケが一気にこの瞬間に回ってきたわ。」
岡田はにじみ出てきた汗を拭う。
「市民の安全確保などは自衛隊には出来ん。治安の維持は警察が請け負う。これはいままでと変わらん。ほやけど公安特課みたいな防諜機関は自衛隊の特務とかぶる部分があるから、それは事態が発生次第、指揮系 統を一本化するってことになった。具体的には自衛隊情報本部の下に公安特課は置かれる。」
「それは片倉さんの特高もですか。」
「ほうや。今回のケースはな。」
「しかし…どうにも手続きごとが多くなるだけのような気がするんですが…。」
「そこんところを百目鬼理事官と松永理事官が調整なさった。」
「と言いますと。」
「組織的には公安特課の上に自衛隊特務がある感じになるって言ったな。」
「はい。」
「つまり俺らは一時的に軍に編入されるって事や。」
「軍に…。」
「岡田、軍と治安組織の違いは?」
「それは…。」
「主権防衛と民間防衛。National DefenceとCivil Defence。俺らは主権防衛の方に回る。敵の撃破と国家の独立と領域を守ることに徹する。それを実現するために警察と軍隊とでは、その運用に明確な違いがあるのは知っとるよな。」
「ポジティブリストとネガティブリストですね。」
日本政府は6年前の朝倉事件をきっかけに安全保障体制整備の政策転換を打ち出した。
防衛予算を倍増させると同時に自衛隊の運用面での充実を図るため、自衛隊法を改正。現行の自衛隊のポジティブリストによる運用からネガティブリストでの運用に切り替えた。
ポジティブリストとは許可事項列挙型であり、個人の権利をみだりに侵害せしめないよう配慮された、平時対応の法律文である。一方ネガティブリストとは禁止事項列挙型で、敗北を避けるため最大限の措置が可能な戦時対応の法律文となっている。警察や消防はポジリスト、軍隊においてはネガリストでの運用が国際的に通例となっている。
「そう。軍に編入されるって事はネガリストになるわけやから、お前、さっき言っとった手続きごとが面倒になるんじゃないの的な懸念は払拭される。」
「…。」
「これはつまり岡田…どういうことか分かるな。」
片倉の言葉を聞く岡田の顔は冴えない。
「そのときは俺らも躊躇うことなく、敵を殺傷せんといかん。」
これが岡田の顔を曇らせている原因だった。
「軍隊ってモンは国家そのものや。政権とか官庁とかの括りじゃない。そこんところの頭を切り替えられんと…。」
片倉は真剣なまなざしで岡田を見つめる。5秒、10秒、沈黙の時間が続いた。
「死ぬぞ。全員。」
「全員…。」
「ああ、全員や。お前だけじゃない。俺も、お前も、守られるべき民間人も。みんな死ぬ。」
この場に沈黙が流れた。
片倉自身が自分に言い聞かせるように言っている。おそらく彼もまだ心の整理が付けられていないのだろう。
「ほやから止めなならんがや…。」
「なんとしても…。」
「ほうや。」
「片倉さん。」
自分の名前を呼びかける声が聞こえた。
椎名だった。
「どうした。」
「立憲自由クラブの流れ、少しだけ変わってきましたよ。」
本当かと言って片倉はタイムラインを見た。
デモンストレーションの予定地である金沢駅の周辺では、今回の大雨で被害が出ている地域があり、そのような状況でデモ活動をするのは、被災者の感情を逆なでするものである。そう大川自身がSNSで中止を訴えていた。
これに対して立憲自由クラブの反応は二つに割れていた。
主催者がそう言うんだからそうしようという、至って従順で聞き分けの良い派閥。彼らは金沢の大雨被害の義援金をクラウドファンディングを利用して集めようと言い出している。
一方、今までこの日のために準備し、煽りに煽っていた運営側のほとんどは、主催者を急に日和ったと断罪。この土壇場での日和が現在の我が国の病巣そのものであると批判し、デモの中止はないとしていた。
「完全に分裂やな。よくやった椎名。」
「私ではありません。空閑の力です。」
「特別なコミュニケーション…ね。」
片倉のこの言葉に椎名は意味ありげに沈黙を作った。
「ここでたたみかけましょう。」
「たたみかける?」
「デモ推進派と中止派の双方を煽ります。」
「どうやって。」
「富樫さんの力が必要です。」
「なに…?」
片倉と岡田は言葉を失った。
「富樫さんは既にSNSの監視をなさって、誰がどういった影響をもっているか私よりもご存じですから。」
「なぜ、それを…。」
「時間はありません。理由を探るよりも先に富樫さんに指示を出してください。」
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「椎名。お前さん何をどこまで知っとるんや。」
「何をどこまで話せば、片倉さんの信頼を得られるんでしょうか。」
「てめぇ…。」
岡田が片倉の二の腕を掴んで、気持ちを落ち着かせるようなだめる。
「私は何も知りません。ただなぜかそういった情報が私の元に入ってくるだけです。」
何やら感情を煽るような言葉だ。
流石の片倉もこれは椎名の罠であると感じとったのか、無言を決め込んだ。
「椎名。富樫さんにはSNSの対立を煽るよう指示を出した。」
岡田がマイクに向かって言う。
「ありがとうございます。しかしこの対立がデモを中止にまで持って行けるとは限りません。おそらく一部の先鋭化した連中が行動を起こすでしょう。ですが当初の予定されていたよりも大幅に少ない人員になることが見込まれます。そうすれば明日の影響は少ないものに止めることが出来るでしょう。立憲自由クラブのSNSを常時監視して、主催者の動きを注視してください。」
「了解した。」
通話はここで終わり、椎名はトイレへと席を外した。
「全部知っとる。そう思って接しましょう。いちいち反応しとったら身が持ちませんよ。」
「そうやな。」
「バケモンです。俺らはバケモンと対峙しとるんです。」
「ああバケモンや。」
「問題は、このバケモンが組織の一部ってところ。我が国はとうとうこのバケモンらと向かい合って戦う。」
片倉はため息をつく。
「なぁ岡田。」
「はい。」
「これまるで漫画やな。」
「漫画…ですか。」
「あぁ少年ステップってあったやろ。あそこの漫画って、ラスボス倒したら次のシーズンで更に強いラスボス登場やがいや。」
「あぁ…。ラスボスの無限ループですか。」
「そうそう。」
「もしもそうだとしたら、この連載はいつ終わるんでしょうか。」
「作者次第じゃないのかね。」
「作者って誰なんでしょうかね。」
「普通に考えたら、椎名の背後にあるオフラーナであり、その上のツヴァイスタンの指導部って事になる。」
岡田は黙る。
「どうした。」
「片倉さん。それって普通に戦争ですよ。ツヴァイスタンと我が国の。」
「そうやな。」
「今日日正直言って国と国とが戦うって考えられません。あの国に何の得があるって言うんですか?実際、ツヴァイスタンと我が国は現状友好ムードが漂っていたじゃないですか。」
「それを隠れ蓑に奇襲とか。」
いやいやと岡田は彼の意見を否定した。
「そもそもツヴァイスタンと日本は地理的にも離れてます。歴史的にもそんなにつながりがありません。冷戦時にツヴァイスタンは一方的に我が国を敵国認定。これは宗主国であるソ連の差し金だったと言われています。」
「…。」
「基本受け身なんです。ツヴァイスタンは。独力で何でも出来るような国じゃありません。ソ連崩壊して独立したとは言え、あの国は旧ソ連の手助け無しでは何も出来ません。ツヴァイスタンが我が国戦争をふっかけるって事はロシアがそれを望んでいるってことになります。そして我が国に戦争をふっかけることは同時にアメリカにも宣戦を布告するって事になりますよ。」
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こんなものツヴァイスタンも旧宗主国のロシアも望んでいないのは明らかだ。
冷静に考えれば考えるほど、明日に予定されているテロの意図するものが見えない。そもそも椎名はなぜこのテロを実行するに至ったのか。もちろん彼はツヴァイスタンの一つの駒に過ぎず、テロの意味するもの、戦略的なものまでは知らされていないだろう。
「わからん…。」
いつになく力ない様子で片倉は呟いた。
「慢性的な人材不足を補うために教育水準の高い優秀な人材を獲得する。それが日本人の拉致。そういう説もあります。それくらいどうにもならない国なんです、あそこは。」
「確かにそうや。」
「でも確かにこのテロの筋書き、一体誰が作者なんでしょうかね…。」
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片倉はSNSのタイムラインを見ていた。立憲自由クラブの中は二つの意見に割れていた。
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