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175 第164話

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「久しぶり。トシさん。」
取調室の中に入ってきたのは片倉だった。
それを目で追いながら古田が言った。
「なんや、なんでお前がここに居るんや。」
「いろいろあってな。」
「ちっ。」
古田は舌打ちして片倉から目をそらした。
「何け。」
「お前もあれか。」
「何?あれって。」
「おめぇもワシのこと厄介払いしとるんか。」
片倉はあきれ顔を見せた。
「まー厄介や。」
「あん?」
「厄介やわいや、んな直ぐ一歩歩いたらさっきのこと忘れるんやしな。」
「おいおめぇ人のこと呆け老人呼ばわりしやがって。」
「トシさん。俺だって受け入れるのに苦労しとれんて。」
「ふざけんなや!くそったれが!」
「待て待て!」
古田は立ち上がり部屋から出ようとする。しかしそれは片倉によって力ずくで押さえ込まれた。
「トシさんだけじゃねぇんげんて。」
「は?」
「石大病院通院者にトシさんのような症状でとる人間多数。」
「え…何やって…。」
「おそらくこれはすべて光定公信による人体実験の影響や。」
「人体実験?」
片倉の制止を振り切ろうとしていた古田だったが、ひとまず落ち着きを取り戻した。片倉の手を振り払って彼は席に着いた。
「悪い、俺もなんかイライラしてトシさん煽るようなこと言っちまった。」
「んと感じ悪いわ。」
「すまん。」
「…第2小早川研究所の件か。」
「何でそれを…。」
「ワシなりの捜査網に引っかかった。」
「恐れ入るわ…。」
ふうーっと息をついた古田は両手で頭を抱えた。
「なんでワシが…。」
「わからん。けど光定が自分のとこの患者を利用して鍋島能力の実験をしとったのは明らかや。」
「いや、待てま。わし光定に診てもらったことなんかないぞ。そもそもあいつ心療内科とか脳神経のほうやろう。」
「でも現にその症状が出とる。」
「…。」
「原因はひとまず置いとかんけ。とにかくトシさんには認知症状がでとる。こいつはトシさんと絡んだ連中がみな口をそろえて言っとるところから明らかや。」
古田はうなだれた。
「トシさん、俺はトシさんを責めとるわけじゃないんや。ファクトを抑えてからトシさんと一緒に動こうとしとるんや。そこんところだけは信じてくれ。」
「一緒に動く?」
「ああトシさんの長年の勘が必要や。」
「暇出したくせにか。」
「そうや。」
「ムシのいい話やな。」
「ほうや。ムシのいい話や。」
「断ると言ったら。」
「そんときはこの国が破滅への一歩を踏み出すことになる。」
「はぁ?」
「誇張じゃない。」
明日、金沢駅でテロが計画されている。それは朝戸に依るものだけでなく、ヤドルチェンコとウ・ダバが絡んだ大規模なものになるはずだ。一方それを潰すためにアルミヤプラボスディアというツヴァイスタン系の民間軍事会社が動いている。これは日本を舞台にしたツヴァイスタンの秘密警察オフラーナと軍の代理抗争としての様相を呈してきた。ここで金沢駅テロの首謀者である椎名賢明が警察に出頭。ヤドルチェンコ達をテロ直前に一斉検挙できるよう協力すると言ってきた。現在このテロ対策本部はその協力者椎名を司令塔として機能している。
片倉はこのテロ対策本部の現況をこう古田に説明した。
「オフラーナはウチら公安特課。アルミヤプラボスディアは自衛隊ってふうに線引きして相互不干渉で行くって話やったんやけど、今ほどのほらあれ。」
「アパートに居るはずのそいつらが居らんくなっとったやつか。」
「そう、それ。トシさんがあそこで動かんかったら、いまも自衛隊は空っぽのあそこを監視しとるとこやった。結構な人員を割いてな。」
「そりゃ偶々やわいや。」
「偶々でもいい。トシさんの動きがきっかけになったのは確か。で、自衛隊と公安特課は縦割りじゃなくて連携していこうってなった。」
「どっちが音頭とるんや。」
「基本の動きは今まで通り。お互いのもっとる情報を共有する感じや。ただ実力行使に関してはウチらは専門外。あくまでもウチらはテロを未然に防ぐとか、関係者の一斉検挙に力を注ぐ。」
「いざの時は、自衛隊が出る。」
「そう。そうなったら俺らは解散。ってかその後はどうなるか全く想像ができん。なにせこの国始まって以来の事態になるからな。」
事態はそこまで切迫していたのか。事の次第を把握した古田は諦めた様子で片倉への協力を了承した。
「その椎名はもちろんワシらの範疇で食い止める算段なんやろうな。」
「そうあってほしい。」
「そうあってほしい?」
「ああ。」
「信用がおけんのか。」
「おけるわけないやろ。ついさっきまでテロの指揮を執っとった奴やぞ。普通の感覚ならんなもん重用せん。」
「じゃあなんでそんな輩を。」
「理事官の判断や。」
「百目鬼理事官か。」
「あぁ…でも理事官のお考えも納得できる。ウチらに打てる有力な手はない。ほやから敢えて毒を飲んだ。」
「ワシはその椎名と会うことは出来るんか。」
「できん。椎名は隔離した。隔離された場所からネット経由で俺らとコミュニケーションをとる方法をとっとる。直接あいつと会えるのは理事官と俺、そして岡田。この三名以外にはあいつの身の回りの世話をする人間ひとりや。」
「どうして絞る。」
「アルミヤプラボスディアはオフラーナの企てを潰そうと動いとる。オフラーナの企てはその椎名が全て。あいつを排除するように動くのは自明の理。だから接触ができないよう物理的な壁をつくっとる。」
「なんや気に食わんな。」
「ん?」
「個室でこそこそなんかしとるんじゃないやろうな、その椎名は。」
「充分に考えられる。が、もちろんその部屋にもカメラを設置しとる。勝手なことはできんはず。」
「で、ワシは何を。」
「トシさんにはマルトクのレーダーになってほしい。」
「レーダー?」
「ああ、いまのアパート突入みたいに長年の勘で敵方の情勢を捕捉し、逮捕や。」
「でもテロの直前まで相手を惹きつけるんやろ。」
「いきなり敵方がわあっって出てきてもらっても、こちらとして対応ができん。事前にどういう連中がどういう風に動いとるかをある程度把握しとらんと、準備っちゅうもんがあるやろ。」
「わしひとりでんほんなもんできんわ。」
「強力な協力者を用意した。」
「誰や。」
「仁熊会。」
「神谷か。」
「ああ。仁熊会には朝戸を拉致することとアルミヤプラボスディアへの備えを指示してある。」
「え?」
「確かに自衛隊は不測の事態への備え。しかしこちらも明日のテロまで指くわえて待っとるわけにはいかん。しかるべき時に朝戸は拉致する。んで自衛隊が動く前にアルミヤプラボスディアの妨害をする。」
「それは自衛隊は知っとるんか。」
「知るわけないやろ。」
「そいつはマズいやろ。」
「確かにマズい。でもこれくらいの手を打っておかんと、本当のいざというときに公安特課は無能のそしりを受けることになる。」
「なるほど…椎名賢明を信頼できんが故に打つ極秘の策ってことか。」
「ご明察。」
「わかった。ワシは神谷のところと合流する。」
「いや、トシさんはもう一人の協力者と合流して欲しい。」
「もう一人?誰や。」
「相馬や。」
「相馬…。」
「ああ。相馬にはトシさんと同じような任務を与えとる。トシさんは相馬と共に自分らなりの判断でテロ防止に全てを注いで欲しい。」
「わかった。」
「相馬は俺らとは別で独自に自衛隊との連携を取り始めた。このテロ対は一応こんだけの所帯や。意思決定とか実行の面で多少の時間的ラグが出る可能性が高い。非常の際は現場判断でなんでもやってくれ。」
「思い切った指示やな。」
「何でもかんでも自分で制御できん。これもそれだけ切羽詰まっとると理解してもらえれば。」
「要は好きにやれ、っちゅうことやな。」
「そういうこと。」
ようやく片倉は笑みを浮かべた。
「しかし、トシさん。今んところあんたとこうやって話しとっても認知症的な感じは微塵にもないげんけど。」
「ふっ…。」
「え、なに?」
「片倉。ワシやって自分の様子がおかしいって知っとるんや。」
「え…。」
「んでその症状が出るときもあれば、出んときもあるのもなんとなく分かる。いつも通り記憶を引き出せるときもあれば、それがさっぱりなときもある。それには大体、頭痛が絡んどる。」
「頭痛?」
「ああ。たぶんこいつがその鍋島能力の影響なんやろうな。こんな頭痛、いままで全くなかった。」
「頭痛か…。」
「実はこの認知症のことで気になる事があってな。」
「なんや。」
「天宮憲行おったやろう。」
「おう。」
「あいつワシと会ったときにそれっぽい症状を見せとった。」
「え?それ俺聞いたっけ。」
「ワシもお前に言ったかどうか分からん。この頭やし。」
片倉は苦笑いした。
「冗談は置いておくとして、天宮の記憶から曽我のことがすっぽり消えとったんや。」
「記憶にございません的なアレじゃなくて?」
「ああ、あれは完全に記憶から消えた感じやった。で、これを似たようなもんをワシは立て続けに目撃する。」
「なんや。」
「千種。」
「千種?あれかトシさんの目の前で車に轢かれた医学生。」
「あいつ、自分の名前を忘れとった。」
「自分の名前?」
「おう。あいつの名前は千種賢哉や。それが自分の名前を千種錬やと言うんや。」
「え?なんで?」
「わからん。わからんがやって。とにかくのそのときの千種も天宮同様、何か演技をしとる感じでなくて、完全にそう思い込んどる的な感じやったんや。で、このふたりがワシに同じ問いかけをする。」
「なんやって言んや。」
「あんた認知症の疑いがありますねって。」
「…。」
「ワシからしたらあんたらの方が認知症やろって感じやったんや。そしたら本当にワシは認知症状が出とったってオチ。」
「笑えんな。」
「あぁ笑えん。」
「その話、なんか繋がってそうやな。光定の人体実験と。」
「何が繋がっとるって?」
「いや光定の人体実験がその天宮とか千種にもされとったってこと。」
「人体実験?片倉、お前なに妙なこと言っとれんて。お前頭大丈夫か?」
「え?」
「あ…痛た…。たたた…。」
古田はこめかみの辺りを指で押さえて机の上に突っ伏し出した。
「おい大丈夫かトシさん。」
「あ…。」
「しっかりしろ!トシさん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を開けると男がこちらの顔をのぞき込んでいるのが分かった。
「マサさんか…。」
「自分の事が分かるようで何よりです。」
身を起こそうとするも頭痛が走ったため、古田はそのまま横になった。
「ゆっくりしとってくださいな。」
「すまん…。」
ポケットの中から鍵をとりだした富樫はそれを机の上にことりと置いた。
「ご返却いたします。」
「…。」
「古田さんとは以後、もう会うことは無いと思ってましたが、また同じように働けるなら自分がこいつを持っている必要は無いでしょう。これは古田さんが持っていてください。」
「しかしマサさん、ワシに万が一のことがあれば…。」
「そのときはそのときです。自分以外にも多くの仲間が居ます。自分以外の人間がちゃんと対応してくれますよ。」
「…。」
「それにここまで来れば自分が生き延びれる保証もありませんから。」
「…そんなにか。」
「ええ。今回ばかりは先が見えません。今までの公安マターとは別種の事件です。」
「そうやな…。」
「しかも自分らの指揮官があの椎名と来ています。」
「ふぅ…マサさんとしては複雑やな。」
「本当に複雑ですよ。こっちは命からがらツヴァイスタンから逃げてきた拉致被害者の仁川征爾を匿っとった立場ですから。もちろん椎名がツヴァイスタンの工作員である可能性を常に考えて接してましたけど、まさか本当にそうやったとは…。」
「誰もが工作員の可能性を想定しとったやろうが、多分本当にそうやと思っとった奴はおらんよ。あんたがそうやったんや。」
「悔しい。」
「ワシも悔しい。」
「しかもあいつの言うとおりにサツは振り回されとる。」
「ああ。でもそれしか方法がいまのところ無いのも事実。」
「だから悔しいんです。」
富樫は椎名の身の回りを洗うために、彼が所持していた携帯電話とパソコンの中身を調べていた。結果、彼が編集していたと思われる動画データとテロの関係者と連絡を取るために使用されたと思われるアプリの痕跡を発見した。動画データはちゃんねるフリーダムで配信予定のもの3部作。アプリの方は復元を試みるも何らかの要因で不可能であった。
「椎名の動画、がっつり入っていましたよ。サブリミナル。」
「ほうか。」
「こいつが仕上げやったんでしょうね。こいつを流して不特定多数のトリガーを引く。すると方々で「ぶっ壊せ」という指示に沿ったなんらかの破壊行動が起こる。」
「あと一歩のところやったってことか。」
「はい。」
古田は天を仰ぐ。
「そこが合点いかんところなんですよ…。」
「と言うと?」
「だって後は仕上げってところまで行っていたんですよ。日本に来て5年か6年、この日のために椎名はワシの目をかいくぐって準備してきたんです。それが直前になって、良心の呵責に耐えかねて出頭です。おかしいでしょう。」
「あからさまに嘘。」
「そうです。どうしてそれに上は乗ったのか。」
「なんらかの意図があるんやろう。」
チッと富樫は舌打ちした。
「仮にテロの首謀者が寝返ったのが、本当の意味でのテロ成功のためのシナリオやったとしても、最後は力業で抑え込めればそれで良いってのもあるんじゃねぇか。」
「力で…ですか。」
「おう。もうここまできたらなりふり構わずいくしかないやろ。なんや民間軍事会社もいっちょ噛みしとるみたいやがいや。」
「ええ。」
古田は身を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫ですか。」
「ちょいふらっと来たけど問題なさそうや。」
「頭痛ですか?」
「ああ、なんか認知症状とか頭痛とかや。」
富樫は気の毒そうな顔をする。
それをよそに古田は身支度を始めた。
「マサさん。あんたには言ったと思うが、やっぱりワシ数日後の自分の姿が想像できん。いまでもや。」
「古田さん…。」
「流れを変えないかん。このままやとテンパっとる相手に振り込んでしまうぞ。」
「自分は何を。」
「自分で考えて動くんや。」
「ですね。」
「相手の手をちょん切ってでも自摸らせるのを止める。それくらいせないかんげんろうな。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【Twitter】
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ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。
皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。
すべてのご意見に目を通させていただきます。
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取調室の中に入ってきたのは片倉だった。
それを目で追いながら古田が言った。
「なんや、なんでお前がここに居るんや。」
「いろいろあってな。」
「ちっ。」
古田は舌打ちして片倉から目をそらした。
「何け。」
「お前もあれか。」
「何?あれって。」
「おめぇもワシのこと厄介払いしとるんか。」
片倉はあきれ顔を見せた。
「まー厄介や。」
「あん?」
「厄介やわいや、んな直ぐ一歩歩いたらさっきのこと忘れるんやしな。」
「おいおめぇ人のこと呆け老人呼ばわりしやがって。」
「トシさん。俺だって受け入れるのに苦労しとれんて。」
「ふざけんなや!くそったれが!」
「待て待て!」
古田は立ち上がり部屋から出ようとする。しかしそれは片倉によって力ずくで押さえ込まれた。
「トシさんだけじゃねぇんげんて。」
「は?」
「石大病院通院者にトシさんのような症状でとる人間多数。」
「え…何やって…。」
「おそらくこれはすべて光定公信による人体実験の影響や。」
「人体実験?」
片倉の制止を振り切ろうとしていた古田だったが、ひとまず落ち着きを取り戻した。片倉の手を振り払って彼は席に着いた。
「悪い、俺もなんかイライラしてトシさん煽るようなこと言っちまった。」
「んと感じ悪いわ。」
「すまん。」
「…第2小早川研究所の件か。」
「何でそれを…。」
「ワシなりの捜査網に引っかかった。」
「恐れ入るわ…。」
ふうーっと息をついた古田は両手で頭を抱えた。
「なんでワシが…。」
「わからん。けど光定が自分のとこの患者を利用して鍋島能力の実験をしとったのは明らかや。」
「いや、待てま。わし光定に診てもらったことなんかないぞ。そもそもあいつ心療内科とか脳神経のほうやろう。」
「でも現にその症状が出とる。」
「…。」
「原因はひとまず置いとかんけ。とにかくトシさんには認知症状がでとる。こいつはトシさんと絡んだ連中がみな口をそろえて言っとるところから明らかや。」
古田はうなだれた。
「トシさん、俺はトシさんを責めとるわけじゃないんや。ファクトを抑えてからトシさんと一緒に動こうとしとるんや。そこんところだけは信じてくれ。」
「一緒に動く?」
「ああトシさんの長年の勘が必要や。」
「暇出したくせにか。」
「そうや。」
「ムシのいい話やな。」
「ほうや。ムシのいい話や。」
「断ると言ったら。」
「そんときはこの国が破滅への一歩を踏み出すことになる。」
「はぁ?」
「誇張じゃない。」
明日、金沢駅でテロが計画されている。それは朝戸に依るものだけでなく、ヤドルチェンコとウ・ダバが絡んだ大規模なものになるはずだ。一方それを潰すためにアルミヤプラボスディアというツヴァイスタン系の民間軍事会社が動いている。これは日本を舞台にしたツヴァイスタンの秘密警察オフラーナと軍の代理抗争としての様相を呈してきた。ここで金沢駅テロの首謀者である椎名賢明が警察に出頭。ヤドルチェンコ達をテロ直前に一斉検挙できるよう協力すると言ってきた。現在このテロ対策本部はその協力者椎名を司令塔として機能している。
片倉はこのテロ対策本部の現況をこう古田に説明した。
「オフラーナはウチら公安特課。アルミヤプラボスディアは自衛隊ってふうに線引きして相互不干渉で行くって話やったんやけど、今ほどのほらあれ。」
「アパートに居るはずのそいつらが居らんくなっとったやつか。」
「そう、それ。トシさんがあそこで動かんかったら、いまも自衛隊は空っぽのあそこを監視しとるとこやった。結構な人員を割いてな。」
「そりゃ偶々やわいや。」
「偶々でもいい。トシさんの動きがきっかけになったのは確か。で、自衛隊と公安特課は縦割りじゃなくて連携していこうってなった。」
「どっちが音頭とるんや。」
「基本の動きは今まで通り。お互いのもっとる情報を共有する感じや。ただ実力行使に関してはウチらは専門外。あくまでもウチらはテロを未然に防ぐとか、関係者の一斉検挙に力を注ぐ。」
「いざの時は、自衛隊が出る。」
「そう。そうなったら俺らは解散。ってかその後はどうなるか全く想像ができん。なにせこの国始まって以来の事態になるからな。」
事態はそこまで切迫していたのか。事の次第を把握した古田は諦めた様子で片倉への協力を了承した。
「その椎名はもちろんワシらの範疇で食い止める算段なんやろうな。」
「そうあってほしい。」
「そうあってほしい?」
「ああ。」
「信用がおけんのか。」
「おけるわけないやろ。ついさっきまでテロの指揮を執っとった奴やぞ。普通の感覚ならんなもん重用せん。」
「じゃあなんでそんな輩を。」
「理事官の判断や。」
「百目鬼理事官か。」
「あぁ…でも理事官のお考えも納得できる。ウチらに打てる有力な手はない。ほやから敢えて毒を飲んだ。」
「ワシはその椎名と会うことは出来るんか。」
「できん。椎名は隔離した。隔離された場所からネット経由で俺らとコミュニケーションをとる方法をとっとる。直接あいつと会えるのは理事官と俺、そして岡田。この三名以外にはあいつの身の回りの世話をする人間ひとりや。」
「どうして絞る。」
「アルミヤプラボスディアはオフラーナの企てを潰そうと動いとる。オフラーナの企てはその椎名が全て。あいつを排除するように動くのは自明の理。だから接触ができないよう物理的な壁をつくっとる。」
「なんや気に食わんな。」
「ん?」
「個室でこそこそなんかしとるんじゃないやろうな、その椎名は。」
「充分に考えられる。が、もちろんその部屋にもカメラを設置しとる。勝手なことはできんはず。」
「で、ワシは何を。」
「トシさんにはマルトクのレーダーになってほしい。」
「レーダー?」
「ああ、いまのアパート突入みたいに長年の勘で敵方の情勢を捕捉し、逮捕や。」
「でもテロの直前まで相手を惹きつけるんやろ。」
「いきなり敵方がわあっって出てきてもらっても、こちらとして対応ができん。事前にどういう連中がどういう風に動いとるかをある程度把握しとらんと、準備っちゅうもんがあるやろ。」
「わしひとりでんほんなもんできんわ。」
「強力な協力者を用意した。」
「誰や。」
「仁熊会。」
「神谷か。」
「ああ。仁熊会には朝戸を拉致することとアルミヤプラボスディアへの備えを指示してある。」
「え?」
「確かに自衛隊は不測の事態への備え。しかしこちらも明日のテロまで指くわえて待っとるわけにはいかん。しかるべき時に朝戸は拉致する。んで自衛隊が動く前にアルミヤプラボスディアの妨害をする。」
「それは自衛隊は知っとるんか。」
「知るわけないやろ。」
「そいつはマズいやろ。」
「確かにマズい。でもこれくらいの手を打っておかんと、本当のいざというときに公安特課は無能のそしりを受けることになる。」
「なるほど…椎名賢明を信頼できんが故に打つ極秘の策ってことか。」
「ご明察。」
「わかった。ワシは神谷のところと合流する。」
「いや、トシさんはもう一人の協力者と合流して欲しい。」
「もう一人?誰や。」
「相馬や。」
「相馬…。」
「ああ。相馬にはトシさんと同じような任務を与えとる。トシさんは相馬と共に自分らなりの判断でテロ防止に全てを注いで欲しい。」
「わかった。」
「相馬は俺らとは別で独自に自衛隊との連携を取り始めた。このテロ対は一応こんだけの所帯や。意思決定とか実行の面で多少の時間的ラグが出る可能性が高い。非常の際は現場判断でなんでもやってくれ。」
「思い切った指示やな。」
「何でもかんでも自分で制御できん。これもそれだけ切羽詰まっとると理解してもらえれば。」
「要は好きにやれ、っちゅうことやな。」
「そういうこと。」
ようやく片倉は笑みを浮かべた。
「しかし、トシさん。今んところあんたとこうやって話しとっても認知症的な感じは微塵にもないげんけど。」
「ふっ…。」
「え、なに?」
「片倉。ワシやって自分の様子がおかしいって知っとるんや。」
「え…。」
「んでその症状が出るときもあれば、出んときもあるのもなんとなく分かる。いつも通り記憶を引き出せるときもあれば、それがさっぱりなときもある。それには大体、頭痛が絡んどる。」
「頭痛?」
「ああ。たぶんこいつがその鍋島能力の影響なんやろうな。こんな頭痛、いままで全くなかった。」
「頭痛か…。」
「実はこの認知症のことで気になる事があってな。」
「なんや。」
「天宮憲行おったやろう。」
「おう。」
「あいつワシと会ったときにそれっぽい症状を見せとった。」
「え?それ俺聞いたっけ。」
「ワシもお前に言ったかどうか分からん。この頭やし。」
片倉は苦笑いした。
「冗談は置いておくとして、天宮の記憶から曽我のことがすっぽり消えとったんや。」
「記憶にございません的なアレじゃなくて?」
「ああ、あれは完全に記憶から消えた感じやった。で、これを似たようなもんをワシは立て続けに目撃する。」
「なんや。」
「千種。」
「千種?あれかトシさんの目の前で車に轢かれた医学生。」
「あいつ、自分の名前を忘れとった。」
「自分の名前?」
「おう。あいつの名前は千種賢哉や。それが自分の名前を千種錬やと言うんや。」
「え?なんで?」
「わからん。わからんがやって。とにかくのそのときの千種も天宮同様、何か演技をしとる感じでなくて、完全にそう思い込んどる的な感じやったんや。で、このふたりがワシに同じ問いかけをする。」
「なんやって言んや。」
「あんた認知症の疑いがありますねって。」
「…。」
「ワシからしたらあんたらの方が認知症やろって感じやったんや。そしたら本当にワシは認知症状が出とったってオチ。」
「笑えんな。」
「あぁ笑えん。」
「その話、なんか繋がってそうやな。光定の人体実験と。」
「何が繋がっとるって?」
「いや光定の人体実験がその天宮とか千種にもされとったってこと。」
「人体実験?片倉、お前なに妙なこと言っとれんて。お前頭大丈夫か?」
「え?」
「あ…痛た…。たたた…。」
古田はこめかみの辺りを指で押さえて机の上に突っ伏し出した。
「おい大丈夫かトシさん。」
「あ…。」
「しっかりしろ!トシさん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を開けると男がこちらの顔をのぞき込んでいるのが分かった。
「マサさんか…。」
「自分の事が分かるようで何よりです。」
身を起こそうとするも頭痛が走ったため、古田はそのまま横になった。
「ゆっくりしとってくださいな。」
「すまん…。」
ポケットの中から鍵をとりだした富樫はそれを机の上にことりと置いた。
「ご返却いたします。」
「…。」
「古田さんとは以後、もう会うことは無いと思ってましたが、また同じように働けるなら自分がこいつを持っている必要は無いでしょう。これは古田さんが持っていてください。」
「しかしマサさん、ワシに万が一のことがあれば…。」
「そのときはそのときです。自分以外にも多くの仲間が居ます。自分以外の人間がちゃんと対応してくれますよ。」
「…。」
「それにここまで来れば自分が生き延びれる保証もありませんから。」
「…そんなにか。」
「ええ。今回ばかりは先が見えません。今までの公安マターとは別種の事件です。」
「そうやな…。」
「しかも自分らの指揮官があの椎名と来ています。」
「ふぅ…マサさんとしては複雑やな。」
「本当に複雑ですよ。こっちは命からがらツヴァイスタンから逃げてきた拉致被害者の仁川征爾を匿っとった立場ですから。もちろん椎名がツヴァイスタンの工作員である可能性を常に考えて接してましたけど、まさか本当にそうやったとは…。」
「誰もが工作員の可能性を想定しとったやろうが、多分本当にそうやと思っとった奴はおらんよ。あんたがそうやったんや。」
「悔しい。」
「ワシも悔しい。」
「しかもあいつの言うとおりにサツは振り回されとる。」
「ああ。でもそれしか方法がいまのところ無いのも事実。」
「だから悔しいんです。」
富樫は椎名の身の回りを洗うために、彼が所持していた携帯電話とパソコンの中身を調べていた。結果、彼が編集していたと思われる動画データとテロの関係者と連絡を取るために使用されたと思われるアプリの痕跡を発見した。動画データはちゃんねるフリーダムで配信予定のもの3部作。アプリの方は復元を試みるも何らかの要因で不可能であった。
「椎名の動画、がっつり入っていましたよ。サブリミナル。」
「ほうか。」
「こいつが仕上げやったんでしょうね。こいつを流して不特定多数のトリガーを引く。すると方々で「ぶっ壊せ」という指示に沿ったなんらかの破壊行動が起こる。」
「あと一歩のところやったってことか。」
「はい。」
古田は天を仰ぐ。
「そこが合点いかんところなんですよ…。」
「と言うと?」
「だって後は仕上げってところまで行っていたんですよ。日本に来て5年か6年、この日のために椎名はワシの目をかいくぐって準備してきたんです。それが直前になって、良心の呵責に耐えかねて出頭です。おかしいでしょう。」
「あからさまに嘘。」
「そうです。どうしてそれに上は乗ったのか。」
「なんらかの意図があるんやろう。」
チッと富樫は舌打ちした。
「仮にテロの首謀者が寝返ったのが、本当の意味でのテロ成功のためのシナリオやったとしても、最後は力業で抑え込めればそれで良いってのもあるんじゃねぇか。」
「力で…ですか。」
「おう。もうここまできたらなりふり構わずいくしかないやろ。なんや民間軍事会社もいっちょ噛みしとるみたいやがいや。」
「ええ。」
古田は身を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫ですか。」
「ちょいふらっと来たけど問題なさそうや。」
「頭痛ですか?」
「ああ、なんか認知症状とか頭痛とかや。」
富樫は気の毒そうな顔をする。
それをよそに古田は身支度を始めた。
「マサさん。あんたには言ったと思うが、やっぱりワシ数日後の自分の姿が想像できん。いまでもや。」
「古田さん…。」
「流れを変えないかん。このままやとテンパっとる相手に振り込んでしまうぞ。」
「自分は何を。」
「自分で考えて動くんや。」
「ですね。」
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