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176.1 第165話【前編】

15:26
 
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四畳半程度の部屋の真ん中にあるデスクでラップトップ型PCを向かい合うのは椎名賢明だ。インカムをつけた彼はビデオ会議ツールで外の捜査本部のスタッフとコミュニケーションをとっていた。
ドアをノックする音
「はい。」
資料ですと言って、男が紙の束を持ってきた。
椎名はそれをご苦労様ですと受け取った。
続けて彼は紙コップに入ったコーヒーを椎名の前に差し出した。
これには椎名は紙コップに目を落とし「ありがとうございます」とだけ言ってそれを受け取った。
男は頭をぺこりと下げ、椎名とはなんの会話もせずにそのままこの場から立ち去った。
「何や。コーヒー頼んでいたのか。」
片倉の声がイヤホンから聞こえた。
「はい。」
椎名がこう応えても片倉は何も言わなかった。
コーヒーをすする音
視線を部屋の隅に移す。そこにはこちらの様子を覗うカメラがあった。
「今のところ、チェス組の動きはどうや。」
「空閑はホテルで待機、朝戸は例の民泊にまだ滞在しています。」
片倉は岡田を見た。椎名の証言が現在公安特課が把握している現状と一致していたため、岡田は首を縦に振った。
「ヤドルチェンコはどうや。」
「彼の居場所は把握できませんが、ウ・ダバがそろそろ動く時間です。」
「ウ・ダバが動く?」
「はい。」
「何をする。」
「物資の補給です。」
「なんや物資って。」
「武器です。」
「どこで受け渡しする。」
「それはわかりません。」
「なんや…それもわからんのか…。」
「はい。」
「クソが…。」
片倉は歯がゆそうな声を出した。
「現段階で我々に出来ることはありません。奴らが準備万端、整うまではなにもできない。」
「居場所を特定しておけば即応できるやろうが。」
「こちらがあいつらの居場所を押さえるって事は、向こうにもこちらの出方を知られるって事になります。」
「そんなヘマ、マルトクはせん。」
「したらどうなりますか?」
「…俺らを信用せんって言うんか。」
「信用するかしないかの問題じゃありません。リスク回避です。」
不毛だ。このやりとりはなんの生産性もない。片倉は再び黙った。
「自衛隊との連携の方はどうなんですか。」
「調整中。」
「いつ結論が出ますか。」
「わからん。急がせとる。」
「見込みは。」
「それもわからん。」
それよりもお前が警察方に寝返ったことは、ツヴァイスタン本国にまだバレていないのかと片倉は尋ねた。
「おそらくまだかと。バレてたら既に私を消しに来ています。」
「消すって言っても、お前はまさに今、公安特課の一室で厳重に管理されている。さすがにそう易々と侵入されんよ。」
「自分が寝返ったとなれば、オフラーナはおそらく空閑と接触をするでしょう。しかしこの空閑がオフラーナと接触した様子もありません。先ほども言ったように、自分が寝返ったことを私の監視役が知ったとしても、保身を図る必要があります。そのため動けてないものと判断します。」
「しかしその状況はいつまでも続くものじゃない。」
「はい。ですが一日程度は稼げます。そのあたりを考慮した今回の作戦です。」
一体、何手先を読んでいるんだ。彼の計画は想像を遙かに超えてくる。神算鬼謀と言うがこれがそうなのか。ツヴァイスタンのオフラーナという組織にはこのような人材が多数いるとでも言うのか。それともこの椎名が特殊な人材なのか。モニターに映し出される椎名は、コーヒーカップを机の脇にそっと置いてパソコンの画面を見ていた。
「椎名のパソコン画面を映してくれ。」
「はい。」
スタッフが映像をスイッチングした。
「何見とるんや。」
「SNSですね。立憲自由クラブ系のポストをフィルタリングして見ているようです。」
「立憲自由クラブ…。」
「はい。」
「どんな流れや。」
スタッフは手元のパソコンを操作して椎名が見ている画面と同じような情報を表示させた。
「5.2決起! 防衛軍創設を求める全国運動 金沢駅…やと…。」
「明後日ですね…。」
「そいつは残念。中止やわ。」
「相変わらず反米右翼丸出し。徹底的にアジっています。結構な閲覧数ですよ関連ポストは。」
「どれだけや。」
「平均5万から10万ですか。」
「それ多いんか。」
「少なくありません。と言って多いとも言えません。…いや、待ってください。」
スタッフの顔色が変わった。
「どうした。」
「いや…これはマズい。」
彼は画面をスクロールしながら、その大きな手で顔を拭う。
「なんねん。」
「明日、その決起集会のリハ的なものをするから興味ある人は来るようにって呼びかけています。」
「え?明日?どこで?」
「金沢駅です。」
「金沢駅!?」
「あぁ…これはマズい。結構な賛同者いますね…。金沢が大雨だからそのままボランティア活動をしようとか呼びかけている連中もいます。」
「おいおいおいおい。」
片倉はマイクに口を近づけた。
「椎名。」
「はい。」
「それはマズいぞ。」
「マズいと思って見ていました。」
「チェス組、ウ・ダバ、アルミヤプラボスディアが集結するような場所に反米右翼連中が乱入なんて、地獄以外の何物でも無い。なんとかできんのか。」
「大川に止めてもらいましょう。」
「大川?いまさら?んなもん聞くか?」
「やらないよりかやってもらった方が良いのでは。」
「それはそうやが、もういっそ規制かけたほうがすっきりするがいや。」
「駄目です。それでは一斉検挙はできません。」
「くそっ!」
年季が入った拳で拳叩かれた机の振動は、横に座っているスタッフの身体にも伝わった。
「椎名。お前大川とはどうなんや。」
「大川とは連絡を取ったことがありません。空閑が大川の担当です。」
「じゃあ空閑に言ってなんとかさせろ。」
「わかりました。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「しばらくぶりやな相馬。」
「古田さん。大丈夫なんですか。」
「あ?ここ?」
古田は自分の頭を指さした。
あまりに自虐的でジョークとも受け止められない。相馬は閉口した。
「大丈夫っていったら嘘や。」
「じゃあ。」
「ほやからっていって、じっとしとることもできんやろ。」
「まぁ。」
「足手まといか?」
「いえそういうことを言っているわけではありません。」
「まぁワシのことがウザいってなったら、そんときはそんときでお互いが好きにやれば良いと思うぞ。ほやけど一応命令でワシお前さんと合流したんやから、そこんところよろしく。」
「承知しています。」
「で、ここで何をしとるんや。」
「現場はここです。ここで何かが起こるんですからそれに備えるだけです。とりあえず自分は自衛隊の動きを見て考えようと思いました。」
「自衛隊?」
相馬は顎をしゃくった。ふたりは金沢駅東口の交番の中に居る。ここからは外の様子がよく見える。正面には石川県立音楽堂がある。その隣にホテルがあり、その側には吉川と児玉が乗る車がまだ止まっていた。
「あれか。」
「はい。」
「あのふたりはなんやって言ってあそこに張り込んどるんや。」
「わかりません。わかりませんが多分、アルミヤプラボスディアの関係者があのホテルに居るんじゃないですかね。」
古田はホテルとは対極にある鼓門の方を見た。先ほどの大雨を受けてか、送迎車両が列をなしていた。
「あの雨のせいで電車とかバスもダイヤぐちゃぐちゃやろうな。」
「でしょうね。」
「でもいつもこんなもんですよ。」
交番に詰めている若手の警部補がふたりに応えた。
時刻は18時。帰宅ラッシュ時だ。毎度この時刻は送迎の車でかなり混雑するらしい。
「雨の日は特にですよ。こいつが週末になれば…どうなることやら…。」
言わずもがなである。この場の古田と相馬、そしてこの警部補の喉仏が動いた。
「マルバクはありませんよ。機動隊がどれだけ調べてもそれらしいもんがない。」
「ですね。」
「良くも悪くも金沢は都会と違って田舎です。地域の結びつきが都会と違って強い。少しでも変やなって思うことがあれば、人を介して明るみになるもんです。わたしもこの交番に来て3年ですが、正直言ってそんなもんを人目につかずに設置できるなんて考えられない。」
古田は彼の言うことに理解を示すように相槌を打った。
「3年間この場所から金沢駅を見てきたあんたに聞くが、ここで大々的なテロ行うとしたら何が良いと思う?」
「マルバクはなしですよね。」
「おう。」
警部補は外を眺める。
「ここには金沢の象徴になっている鼓門があります。こいつを破壊することは地元の人間の心を痛めつけるのに良いんでしょうが、爆発物を使わずに破壊なんてできっこないでしょ。」
「ほうやなぁ。」
「まぁこの通り、この時間帯は人がたくさん居ますからねぇ…。人がたくさん居るところでやることは何だって衝撃的じゃないでしょうか。」
「確かに…。」
「ただ単に無差別に人を殺すとか。」
「やっぱりそう思うか。」
「どうしても駅というと地下鉄サリン事件を思い出します。」
「ほうやよな。」
「人ひとりが殺されても騒ぎになります。それが無差別となると…。」
考えるだけでもおぞましい。その可能性が24時間後に現実のものになる。そう考えると三人とも身がすくむ思いだった。
「仮にそういう事態が起こったとして、どういう対応が考えられますか。」
相馬が警部補に聞いた。
「どこでどうやってテロが発生するか分かりませんので、なんとも言えませんが、とにかく避難経路を確保せねばならんでしょう。」
「どういう避難経路が適当だと思いますか。」
「無差別殺傷を行い、かつテロとしてのメッセージ性を出すなら、やはりこの鼓門の下辺りが良いでしょう。テロの動画を撮影すれば必然的に鼓門が映り込みますから、あとで拡散にも使いやすい。」
「なるほど。」
警部補は立ち上がって鼓門と駅の構内を接続するガラス張りのドームであるもてなしドームを見つめた。
「四方八方散り散りに逃げるってのも良いですが、確実に安全を確保できる場所を作っておくのも必要かと思います。そこへいざというときに市民を誘導するのはどうでしょうか。」
「どこなら安全を確保できるでしょうか。」
「そこの音楽堂はどうでしょう。かなりの人数を収容できると思います。」
「わかりました。機動隊に手配します。」
「あの…私はもしもの時の話をしていますが…。」
「はい、もしもの時の話です。」
「…どうなんですか。その可能性が高まっているんですか。」
「予告されているテロの期日が近づいているという意味で、テロの危険性は高まっています。ですがテロ対としては依然としてそれは未然に防ぐ予定です。」
「では…。」
「可能性は全て潰さねばなりません。これが公安特課の仕事ですから。」
こう言ったときのことだ。身をかがめながら送迎場まで歩くひとりの白人男性の姿が相馬の目に映った。
「…。」
「どうした相馬。」
突然黙った相馬に古田が声をかけた。
「あのサングラスの白人、気になる。」
「何が?」
ちょっと行ってくると言って相馬は交番を後にした。
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「はい。」
資料ですと言って、男が紙の束を持ってきた。
椎名はそれをご苦労様ですと受け取った。
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これには椎名は紙コップに目を落とし「ありがとうございます」とだけ言ってそれを受け取った。
男は頭をぺこりと下げ、椎名とはなんの会話もせずにそのままこの場から立ち去った。
「何や。コーヒー頼んでいたのか。」
片倉の声がイヤホンから聞こえた。
「はい。」
椎名がこう応えても片倉は何も言わなかった。
コーヒーをすする音
視線を部屋の隅に移す。そこにはこちらの様子を覗うカメラがあった。
「今のところ、チェス組の動きはどうや。」
「空閑はホテルで待機、朝戸は例の民泊にまだ滞在しています。」
片倉は岡田を見た。椎名の証言が現在公安特課が把握している現状と一致していたため、岡田は首を縦に振った。
「ヤドルチェンコはどうや。」
「彼の居場所は把握できませんが、ウ・ダバがそろそろ動く時間です。」
「ウ・ダバが動く?」
「はい。」
「何をする。」
「物資の補給です。」
「なんや物資って。」
「武器です。」
「どこで受け渡しする。」
「それはわかりません。」
「なんや…それもわからんのか…。」
「はい。」
「クソが…。」
片倉は歯がゆそうな声を出した。
「現段階で我々に出来ることはありません。奴らが準備万端、整うまではなにもできない。」
「居場所を特定しておけば即応できるやろうが。」
「こちらがあいつらの居場所を押さえるって事は、向こうにもこちらの出方を知られるって事になります。」
「そんなヘマ、マルトクはせん。」
「したらどうなりますか?」
「…俺らを信用せんって言うんか。」
「信用するかしないかの問題じゃありません。リスク回避です。」
不毛だ。このやりとりはなんの生産性もない。片倉は再び黙った。
「自衛隊との連携の方はどうなんですか。」
「調整中。」
「いつ結論が出ますか。」
「わからん。急がせとる。」
「見込みは。」
「それもわからん。」
それよりもお前が警察方に寝返ったことは、ツヴァイスタン本国にまだバレていないのかと片倉は尋ねた。
「おそらくまだかと。バレてたら既に私を消しに来ています。」
「消すって言っても、お前はまさに今、公安特課の一室で厳重に管理されている。さすがにそう易々と侵入されんよ。」
「自分が寝返ったとなれば、オフラーナはおそらく空閑と接触をするでしょう。しかしこの空閑がオフラーナと接触した様子もありません。先ほども言ったように、自分が寝返ったことを私の監視役が知ったとしても、保身を図る必要があります。そのため動けてないものと判断します。」
「しかしその状況はいつまでも続くものじゃない。」
「はい。ですが一日程度は稼げます。そのあたりを考慮した今回の作戦です。」
一体、何手先を読んでいるんだ。彼の計画は想像を遙かに超えてくる。神算鬼謀と言うがこれがそうなのか。ツヴァイスタンのオフラーナという組織にはこのような人材が多数いるとでも言うのか。それともこの椎名が特殊な人材なのか。モニターに映し出される椎名は、コーヒーカップを机の脇にそっと置いてパソコンの画面を見ていた。
「椎名のパソコン画面を映してくれ。」
「はい。」
スタッフが映像をスイッチングした。
「何見とるんや。」
「SNSですね。立憲自由クラブ系のポストをフィルタリングして見ているようです。」
「立憲自由クラブ…。」
「はい。」
「どんな流れや。」
スタッフは手元のパソコンを操作して椎名が見ている画面と同じような情報を表示させた。
「5.2決起! 防衛軍創設を求める全国運動 金沢駅…やと…。」
「明後日ですね…。」
「そいつは残念。中止やわ。」
「相変わらず反米右翼丸出し。徹底的にアジっています。結構な閲覧数ですよ関連ポストは。」
「どれだけや。」
「平均5万から10万ですか。」
「それ多いんか。」
「少なくありません。と言って多いとも言えません。…いや、待ってください。」
スタッフの顔色が変わった。
「どうした。」
「いや…これはマズい。」
彼は画面をスクロールしながら、その大きな手で顔を拭う。
「なんねん。」
「明日、その決起集会のリハ的なものをするから興味ある人は来るようにって呼びかけています。」
「え?明日?どこで?」
「金沢駅です。」
「金沢駅!?」
「あぁ…これはマズい。結構な賛同者いますね…。金沢が大雨だからそのままボランティア活動をしようとか呼びかけている連中もいます。」
「おいおいおいおい。」
片倉はマイクに口を近づけた。
「椎名。」
「はい。」
「それはマズいぞ。」
「マズいと思って見ていました。」
「チェス組、ウ・ダバ、アルミヤプラボスディアが集結するような場所に反米右翼連中が乱入なんて、地獄以外の何物でも無い。なんとかできんのか。」
「大川に止めてもらいましょう。」
「大川?いまさら?んなもん聞くか?」
「やらないよりかやってもらった方が良いのでは。」
「それはそうやが、もういっそ規制かけたほうがすっきりするがいや。」
「駄目です。それでは一斉検挙はできません。」
「くそっ!」
年季が入った拳で拳叩かれた机の振動は、横に座っているスタッフの身体にも伝わった。
「椎名。お前大川とはどうなんや。」
「大川とは連絡を取ったことがありません。空閑が大川の担当です。」
「じゃあ空閑に言ってなんとかさせろ。」
「わかりました。」
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「しばらくぶりやな相馬。」
「古田さん。大丈夫なんですか。」
「あ?ここ?」
古田は自分の頭を指さした。
あまりに自虐的でジョークとも受け止められない。相馬は閉口した。
「大丈夫っていったら嘘や。」
「じゃあ。」
「ほやからっていって、じっとしとることもできんやろ。」
「まぁ。」
「足手まといか?」
「いえそういうことを言っているわけではありません。」
「まぁワシのことがウザいってなったら、そんときはそんときでお互いが好きにやれば良いと思うぞ。ほやけど一応命令でワシお前さんと合流したんやから、そこんところよろしく。」
「承知しています。」
「で、ここで何をしとるんや。」
「現場はここです。ここで何かが起こるんですからそれに備えるだけです。とりあえず自分は自衛隊の動きを見て考えようと思いました。」
「自衛隊?」
相馬は顎をしゃくった。ふたりは金沢駅東口の交番の中に居る。ここからは外の様子がよく見える。正面には石川県立音楽堂がある。その隣にホテルがあり、その側には吉川と児玉が乗る車がまだ止まっていた。
「あれか。」
「はい。」
「あのふたりはなんやって言ってあそこに張り込んどるんや。」
「わかりません。わかりませんが多分、アルミヤプラボスディアの関係者があのホテルに居るんじゃないですかね。」
古田はホテルとは対極にある鼓門の方を見た。先ほどの大雨を受けてか、送迎車両が列をなしていた。
「あの雨のせいで電車とかバスもダイヤぐちゃぐちゃやろうな。」
「でしょうね。」
「でもいつもこんなもんですよ。」
交番に詰めている若手の警部補がふたりに応えた。
時刻は18時。帰宅ラッシュ時だ。毎度この時刻は送迎の車でかなり混雑するらしい。
「雨の日は特にですよ。こいつが週末になれば…どうなることやら…。」
言わずもがなである。この場の古田と相馬、そしてこの警部補の喉仏が動いた。
「マルバクはありませんよ。機動隊がどれだけ調べてもそれらしいもんがない。」
「ですね。」
「良くも悪くも金沢は都会と違って田舎です。地域の結びつきが都会と違って強い。少しでも変やなって思うことがあれば、人を介して明るみになるもんです。わたしもこの交番に来て3年ですが、正直言ってそんなもんを人目につかずに設置できるなんて考えられない。」
古田は彼の言うことに理解を示すように相槌を打った。
「3年間この場所から金沢駅を見てきたあんたに聞くが、ここで大々的なテロ行うとしたら何が良いと思う?」
「マルバクはなしですよね。」
「おう。」
警部補は外を眺める。
「ここには金沢の象徴になっている鼓門があります。こいつを破壊することは地元の人間の心を痛めつけるのに良いんでしょうが、爆発物を使わずに破壊なんてできっこないでしょ。」
「ほうやなぁ。」
「まぁこの通り、この時間帯は人がたくさん居ますからねぇ…。人がたくさん居るところでやることは何だって衝撃的じゃないでしょうか。」
「確かに…。」
「ただ単に無差別に人を殺すとか。」
「やっぱりそう思うか。」
「どうしても駅というと地下鉄サリン事件を思い出します。」
「ほうやよな。」
「人ひとりが殺されても騒ぎになります。それが無差別となると…。」
考えるだけでもおぞましい。その可能性が24時間後に現実のものになる。そう考えると三人とも身がすくむ思いだった。
「仮にそういう事態が起こったとして、どういう対応が考えられますか。」
相馬が警部補に聞いた。
「どこでどうやってテロが発生するか分かりませんので、なんとも言えませんが、とにかく避難経路を確保せねばならんでしょう。」
「どういう避難経路が適当だと思いますか。」
「無差別殺傷を行い、かつテロとしてのメッセージ性を出すなら、やはりこの鼓門の下辺りが良いでしょう。テロの動画を撮影すれば必然的に鼓門が映り込みますから、あとで拡散にも使いやすい。」
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「四方八方散り散りに逃げるってのも良いですが、確実に安全を確保できる場所を作っておくのも必要かと思います。そこへいざというときに市民を誘導するのはどうでしょうか。」
「どこなら安全を確保できるでしょうか。」
「そこの音楽堂はどうでしょう。かなりの人数を収容できると思います。」
「わかりました。機動隊に手配します。」
「あの…私はもしもの時の話をしていますが…。」
「はい、もしもの時の話です。」
「…どうなんですか。その可能性が高まっているんですか。」
「予告されているテロの期日が近づいているという意味で、テロの危険性は高まっています。ですがテロ対としては依然としてそれは未然に防ぐ予定です。」
「では…。」
「可能性は全て潰さねばなりません。これが公安特課の仕事ですから。」
こう言ったときのことだ。身をかがめながら送迎場まで歩くひとりの白人男性の姿が相馬の目に映った。
「…。」
「どうした相馬。」
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