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179 第168話

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アーカイブされたシリーズ ("無効なフィード" status)

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深夜、都内の静かな高級ホテルの一室で、緊迫した会議が行われていた。
窓の外は漆黒の闇に包まれ、部屋の中の緊張が余計に際立っている。
ツヴァイスタンの代表者、エレナ・ペトロワとイワン・スミルノフは、不安と戸惑いを隠せずにいた。彼らの目的は、日本でのオフラーナと人民軍の対立を終わらせることだったが、予期せぬ展開に直面していた。
一方、日本政府側の代表、内閣情報調査室の関孝雄と陶晴宗は、冷静な表情を崩さずにいた。
特に陶は、この状況における重要な駒であることが明らかになっていた。
「彼は貴国のオフラーナの協力者です。」
こう関が静かに告げたとき、エレナとイワンの表情には驚きが浮かんだ。
彼らは日本国内で起こり得るオフラーナと人民軍との抗争を止めるための情報を求めていたが、この新たな事実によって彼らの計画は複雑なものとなった。
エレナが陶に質問を投げかけると、彼からの答えは静かながらも重いものだった。
朝倉忠敏という名前が話題に上がり、彼の影響力がツヴァイスタンにまで及んでいることが明かされた。朝倉は、日本国内でのオフラーナの活動に深く関わっており、その力は計り知れないものだった。
陶の話はさらに続いた。彼は朝倉の後継者としての地位を確立しようとしていたが、ウ・ダバを利用したテロ計画が日本の治安機関に露見し、彼はその場で全てを白状したという。
深夜に行われるこの会議は、それぞれの代表者が持つ複雑な思惑と計算によって、さらに重苦しい雰囲気を帯びていた。
夜の静寂が、部屋の中の緊張感をより一層高めていた。
「どうしてここでオフラーナの協力者を同席させたのですか」
エレナが関に問いかけると、関は鋭い眼差しで応じた。
「我々日本政府は貴国の手の内を世に出すこともできるということです。」
関の言葉は、その場にいる全員の緊張感を一層高めた。
日本におけるオフラーナの非合法活動が公になれば、国際的な非難を浴びることは避けられない。エレナの心は複雑な思考で満ちていた。さらに日本人拉致問題がこのタイミングで改めて明るみに出れば、日本の反応は予測不能だ。
今の自衛隊は、名実ともに強力な軍事力を持つ。もし奪還作戦を行うとなれば…
彼女の目は一瞬、イワンの方に移り、その後、再び関に向けられた。
「今回、ツヴァイスタン外務省から日本政府に提案があります。」
部屋には重苦しい空気が流れ、時計の秒針の音だけが、時間の経過を刻んでいた。エレナの心は、緊迫した交渉の行方と、ツヴァイスタンと日本の未来を案じていた。
深夜に行われる会議の重圧は、彼女たちの肩に重くのしかかっていた。そして、それぞれの心には、それぞれの国の運命を背負った思いがあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「王志強?」
「はい。解放軍の関係者の可能性があります。」
「解放軍か…。」
神谷からの連絡を受けた片倉は思わず顔を拭った。彼の大きな手が顔をなぞる仕草には、疲労と緊張が混じり合っていた。
「これ以上はちょっとウチでは無理です。」
「わかった。ありがとう。」
隣にいた岡田に向かって片倉は頷くと、彼はそのまま別室の方へ向かっていった。
「こちらの準備は整いました。いつでも動けます。」
「よし。今のところは待機。おそらく明日の朝には動いてもらうことになる。それまでは休んでくれ。」
「了解。」
どこか神谷の声の様子がおかしい。そう感じた片倉は「どうした」と気にかけた。
すると彼は
「正直、震えています。」
「おう。俺も震えとる。」
「片倉さんもですか…。」
「ああよく考えたら晩飯食ってない。低血糖かね。」
こう言って、彼はポケットのなからナイロンの薄い袋に包まれた茶褐色のあめ玉を取り出して、それを口に入れた。
カラカラと口の中で転がす音が電話越しに神谷に伝わった。張り詰めていたものがどこか緩んだのか、彼のこわばった声が変わった気がした。
「ふっ…片倉さん。飯はちゃんと食べてくださいよ。」
「おう。」
「俺はカツ丼とりました。」
「え?験担ぎ?そんなベタな…。」
「何か?」
「いや…いいんじゃねぇの。」
おれもカツ丼にしようかと言って片倉は神谷との電話を切った。
彼の前のモニターには椎名が映し出されている。相変わらず彼の表情に目立った変化はない。
「おい椎名。」
椎名は直ぐさま彼の呼びかけに反応した。
「なんですか。」
「立憲自由クラブの離間策は順調や。どうや。晩飯でも食わんけ。」
時計の針は22時を回っていた。
「飯すら食わせんってなると、ただの虐待や。ってか俺も食っていない。カツ丼なんかどうや。」
「カツ丼?」
「おう。」
「まるで刑事ドラマですね。」
「あぁあれはドラマの話。調べ室にカツ丼なんか持ち込まんけどね。」
「お願いします。警察で俺、マジでカツ丼食べたって、後でネタにもなりますんで。」
「いいねぇジョーク言えるじゃん。」
「少し慣れました。」
椎名に若干の人間味を感じた片倉は少しほっとした。
「ところで椎名。王志強って人間知っとるか。」
「え?」
椎名から表情が消えた。
「おう…しきょう…?」
「ああ王志強。」
「中国人ですか。」
「ああ解放軍の軍人らしい。」
「解放軍?どうして解放軍が?」
どうやら椎名は王志強の事は知らないらしい。彼の表情が物語っている。となると椎名は白銀の本当の情報を持ち合わせていないと判断できる。
「その王志強がどうしたんですか。」
「いや、とある捜査線上に出てきたんやわ。お前が知らんがやったらほんでいい。何でも知っとる椎名さんやし、とりあえず聞いてみただけや。」
「しかし今、解放軍って言いましたね。」
「おう。」
「解放軍が何か?」
食いつきが良い。しかし片倉の方もたいした情報を持ち合わせていないため、彼は椎名の言葉をいなした。
すると岡田が部屋に戻ってきた。
「自衛隊には王志強の情報を伝えました。」
「どうやった。」
「少なくともこの金沢駐屯地の方ではあずかり知らない情報のようで、情報本部の方で調査をするとのことでした。」
「そうか。百目鬼理事官は?」
「いま別室で食事中です。」
「なに食っとる?」
「カツ丼のようです。」
理事官も験担ぎか。ここまで来ると天命頼りということか。
岡田、お前も食事はまだだろと言って、片倉は自分と椎名の分と合わせてカツ丼を3つ手配せよと彼に命じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カツ丼を食べる百目鬼の下に片倉からのメッセージが届く。
「王志強…人民解放軍総参謀部第七情報分析局…。」
残りわずかの飯をかき込み、味噌汁でそれを彼は胃に流し込んだ。
「知らんなぁ…。」
彼は片倉から届いたメッセージをある場所に転送した。そして腕時計に目を落とす。時刻は22時半を回っている。
「さてツヴァイスタン外務省はどう動くかね…。」
こう言ってスマホの画面をスライドさせた彼は、表示された画像に目を落とす。
「今まさにこいつが交渉役で、関と陶に対峙してるって訳か…。」
「アナスタシア・ペトロワの妹、エレナ・ペトロワ…。」
部屋にあるモニターには椎名賢明の姿が映し出されていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
金沢駅の交番に詰めている相馬の携帯にも王志強に関する情報が入ってきていた。
「どうした?」
難しそうな顔をして携帯電話を見る相馬を気にかけた古田は声をかけた。
「片倉班長からです。この人物について情報は無いか聞いてくれって。」
「うん?誰に?」
相馬は奥の休憩室で横になって休んでいる児玉と吉川の方に顎をしゃくった。
二人は死んだように寝ている。
「ずっと寝てなかったらしいな。」
「そうみたいですね。」
「寝返りすらうってないしな。二人とも1時間前と同じ格好で寝とる。」
相馬は児玉の身体を揺らした。するとパチッと目を開いて彼はすっくと起き上がった。
そして腕時計を見る。
「1時間も!」
児玉は慌てて横になっている吉川を叩いた。
30分の仮眠のつもりが1時間も寝てしまった。しかも二人とも。
「死んでるのかと思いました。冗談抜きで。」
「すまない…。休みすぎた。」
「いえ。しっかり休息をとらないと、肝心の時に動けません。」
マクシーミリアン・ベネシュを取り逃がした児玉と吉川は、その旨を本部に報告。上官からの叱責を受けた。
しかし警察と自衛隊の連携は機能しており、県警側で緊急配備を敷き、ベネシュの捜索に協力をしてくれている。したがって児玉と吉川はそのまま現地警察と連携し、アルミヤプラボスディアに関する情報収集と、その作戦行動の阻止に全力を注げとの命令を受けた。これによりこの交番では相馬、古田、児玉、吉川の警察と自衛隊の混合チームが結成されていた。
「王志強だと?」
相馬からの情報を聞いた児玉は驚きを見せた。
「知ってるんですか。」
「あぁ知ってる。といっても仄聞だが。」
数年前、国防関係者が集う会合があり、そこに出席した児玉は解放軍関係者と知己(ちき)を得た。そのときに彼から聞いたのは軍制改革のことだ。関係者曰く、正直張りぼて感が否めない解放軍も今後は実質的に動ける軍にせねばならない。その為には軍内部の腐敗防止は最優先事項ということで、規律の引き締めは過去にないものとなっているというのである。
「それでもすぐに実力を伴う軍隊って訳にはいかない。軍制改革には時間がかかる。おれら自衛隊だって6年の月日を経てようやくここまで来たんだ。これでも急ピッチでできたほうだよ。」
しかしその鈍重な改革を共産党指導部、いや張頴華(ちょうえいか)主席は良しとしない。従って彼の意に即応できる新たな部隊が編成されたと言うのだ。
「この部隊の創設に活躍したのが王志強という名の学者上がりの軍人だと、当時そいつから聞いた。」
「その新たな部隊はいま動いているんですか。」
児玉は頷いて応える。
「どうせ張主席のご機嫌取りのパフォーマンスでぽしゃるだろうって思ってたけど、最近、界隈ではよく聞く。」
「この間、米軍との意見交換の時も影龍特務隊について言及があった。」
起きた吉川が口を挟んだ。
「エイリュウ特務隊?」
「ああエイは影のエイ。リュウはドラゴンの龍だ。こいつは極秘の作戦に従事する特殊部隊だ。高度な訓練を受けた隊員は、情報収集、サイバー戦、さらには対テロ作戦にも対応する。」
「極秘の作戦に従事するってのがミソで、この極秘ってのがつまり張主席の密命って噂。」
児玉が言葉を付け足し、吉川が続ける。
「その王志強は主席の意に即応できる部隊を実際に編成することに成功したって訳だ。」
「だが影龍特務隊もその性格から情報が少ない。ただ米軍の情報機関は彼らが関わったであろうと思われる事案についてある程度把握しているようだ。だから時折、影龍特務隊についての情報交換もある。」
「王志強についてはこれ以上の情報は我々でには無い。ひょっとすると我々の上層部で把握しているものがあるかもしれない。」
この王志強が今回の事件に何の関係があるのかと二人は相馬に尋ねた。
しかし相馬もそれについては知らされていないとして、影龍特務隊の情報だけを片倉に返信した。
「しかし、何だな…。」
吉川がぼそりと呟く。
「話がでかくなりすぎるぞ。ここで影龍特務隊が絡んでくると…。」
「チェス組、ウ・ダバによるテロ事件ってだけでも日本では前代未聞の事件。そこにツヴァイスタンの秘密警察、軍、民間軍事会社アルミヤプラボスディア、ツヴァイスタンの宗主国ロシア、そして影龍特務隊…。」
「あ、そこに更にややこしくなるもんがひとつ加わるから、わしから先に言っとくわ。」
古田が口を挟んだ。
「更にややこしくなる?」
「ああ。」
「なんですか…。」
恐る恐る相馬は尋ねる。
「仁熊会。」
「え?」
相馬はまさかという顔つきだ。
「なんですか?仁熊会って。」
児玉が古田に聞く。
「石川の反社や。」
「え!?反社が何で!?」
「まぁ反社っちゅうのは世を忍ぶ仮の姿。その実、民間軍事会社やわ。」
「え、ウソでしょ日本に民間軍事会社なんかないはずです。」
児玉が即座に古田の言葉を否定する。
「ほうや。ない。表向き民間警備会社って言っとるから。」
「…反社なのか警備会社なのかどっちなんですか。」
「どっちもや。」
児玉も吉川も古田の発言がおかしいと困惑した表情だ。
「仁熊会ってのは公安特課の協力企業。公安特課じゃできん汚れ仕事をやってくれる優良企業や。そのためあいつらの銃の携行についてはワシらは目をつぶっとる。」
「嘘だろ…ってまさか…。」
「明日の件はワシら警察サイドだけではどうにもならん場合が発生する可能性がある。従って協力企業に協力を要請した。」
「要請内容は。」
「アルミヤプラボスディアの制圧。」
「無理だ。」
「どうして。」
「火力が桁違いだ。」
「火力は心配ない。最新の武器を揃えとる。」
「人材はどうなんだ。ただの暴力団だろう、その仁熊会は。」
「あんたら卯辰兄弟って知っとるか。」
古田の発言に児玉と吉川は驚きのあまり言葉を失ったようだ。
「自衛隊特務の教官とか言ったっけ?」
「嘘だろ…。」
「本当や。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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窓の外は漆黒の闇に包まれ、部屋の中の緊張が余計に際立っている。
ツヴァイスタンの代表者、エレナ・ペトロワとイワン・スミルノフは、不安と戸惑いを隠せずにいた。彼らの目的は、日本でのオフラーナと人民軍の対立を終わらせることだったが、予期せぬ展開に直面していた。
一方、日本政府側の代表、内閣情報調査室の関孝雄と陶晴宗は、冷静な表情を崩さずにいた。
特に陶は、この状況における重要な駒であることが明らかになっていた。
「彼は貴国のオフラーナの協力者です。」
こう関が静かに告げたとき、エレナとイワンの表情には驚きが浮かんだ。
彼らは日本国内で起こり得るオフラーナと人民軍との抗争を止めるための情報を求めていたが、この新たな事実によって彼らの計画は複雑なものとなった。
エレナが陶に質問を投げかけると、彼からの答えは静かながらも重いものだった。
朝倉忠敏という名前が話題に上がり、彼の影響力がツヴァイスタンにまで及んでいることが明かされた。朝倉は、日本国内でのオフラーナの活動に深く関わっており、その力は計り知れないものだった。
陶の話はさらに続いた。彼は朝倉の後継者としての地位を確立しようとしていたが、ウ・ダバを利用したテロ計画が日本の治安機関に露見し、彼はその場で全てを白状したという。
深夜に行われるこの会議は、それぞれの代表者が持つ複雑な思惑と計算によって、さらに重苦しい雰囲気を帯びていた。
夜の静寂が、部屋の中の緊張感をより一層高めていた。
「どうしてここでオフラーナの協力者を同席させたのですか」
エレナが関に問いかけると、関は鋭い眼差しで応じた。
「我々日本政府は貴国の手の内を世に出すこともできるということです。」
関の言葉は、その場にいる全員の緊張感を一層高めた。
日本におけるオフラーナの非合法活動が公になれば、国際的な非難を浴びることは避けられない。エレナの心は複雑な思考で満ちていた。さらに日本人拉致問題がこのタイミングで改めて明るみに出れば、日本の反応は予測不能だ。
今の自衛隊は、名実ともに強力な軍事力を持つ。もし奪還作戦を行うとなれば…
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「今回、ツヴァイスタン外務省から日本政府に提案があります。」
部屋には重苦しい空気が流れ、時計の秒針の音だけが、時間の経過を刻んでいた。エレナの心は、緊迫した交渉の行方と、ツヴァイスタンと日本の未来を案じていた。
深夜に行われる会議の重圧は、彼女たちの肩に重くのしかかっていた。そして、それぞれの心には、それぞれの国の運命を背負った思いがあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「王志強?」
「はい。解放軍の関係者の可能性があります。」
「解放軍か…。」
神谷からの連絡を受けた片倉は思わず顔を拭った。彼の大きな手が顔をなぞる仕草には、疲労と緊張が混じり合っていた。
「これ以上はちょっとウチでは無理です。」
「わかった。ありがとう。」
隣にいた岡田に向かって片倉は頷くと、彼はそのまま別室の方へ向かっていった。
「こちらの準備は整いました。いつでも動けます。」
「よし。今のところは待機。おそらく明日の朝には動いてもらうことになる。それまでは休んでくれ。」
「了解。」
どこか神谷の声の様子がおかしい。そう感じた片倉は「どうした」と気にかけた。
すると彼は
「正直、震えています。」
「おう。俺も震えとる。」
「片倉さんもですか…。」
「ああよく考えたら晩飯食ってない。低血糖かね。」
こう言って、彼はポケットのなからナイロンの薄い袋に包まれた茶褐色のあめ玉を取り出して、それを口に入れた。
カラカラと口の中で転がす音が電話越しに神谷に伝わった。張り詰めていたものがどこか緩んだのか、彼のこわばった声が変わった気がした。
「ふっ…片倉さん。飯はちゃんと食べてくださいよ。」
「おう。」
「俺はカツ丼とりました。」
「え?験担ぎ?そんなベタな…。」
「何か?」
「いや…いいんじゃねぇの。」
おれもカツ丼にしようかと言って片倉は神谷との電話を切った。
彼の前のモニターには椎名が映し出されている。相変わらず彼の表情に目立った変化はない。
「おい椎名。」
椎名は直ぐさま彼の呼びかけに反応した。
「なんですか。」
「立憲自由クラブの離間策は順調や。どうや。晩飯でも食わんけ。」
時計の針は22時を回っていた。
「飯すら食わせんってなると、ただの虐待や。ってか俺も食っていない。カツ丼なんかどうや。」
「カツ丼?」
「おう。」
「まるで刑事ドラマですね。」
「あぁあれはドラマの話。調べ室にカツ丼なんか持ち込まんけどね。」
「お願いします。警察で俺、マジでカツ丼食べたって、後でネタにもなりますんで。」
「いいねぇジョーク言えるじゃん。」
「少し慣れました。」
椎名に若干の人間味を感じた片倉は少しほっとした。
「ところで椎名。王志強って人間知っとるか。」
「え?」
椎名から表情が消えた。
「おう…しきょう…?」
「ああ王志強。」
「中国人ですか。」
「ああ解放軍の軍人らしい。」
「解放軍?どうして解放軍が?」
どうやら椎名は王志強の事は知らないらしい。彼の表情が物語っている。となると椎名は白銀の本当の情報を持ち合わせていないと判断できる。
「その王志強がどうしたんですか。」
「いや、とある捜査線上に出てきたんやわ。お前が知らんがやったらほんでいい。何でも知っとる椎名さんやし、とりあえず聞いてみただけや。」
「しかし今、解放軍って言いましたね。」
「おう。」
「解放軍が何か?」
食いつきが良い。しかし片倉の方もたいした情報を持ち合わせていないため、彼は椎名の言葉をいなした。
すると岡田が部屋に戻ってきた。
「自衛隊には王志強の情報を伝えました。」
「どうやった。」
「少なくともこの金沢駐屯地の方ではあずかり知らない情報のようで、情報本部の方で調査をするとのことでした。」
「そうか。百目鬼理事官は?」
「いま別室で食事中です。」
「なに食っとる?」
「カツ丼のようです。」
理事官も験担ぎか。ここまで来ると天命頼りということか。
岡田、お前も食事はまだだろと言って、片倉は自分と椎名の分と合わせてカツ丼を3つ手配せよと彼に命じた。
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カツ丼を食べる百目鬼の下に片倉からのメッセージが届く。
「王志強…人民解放軍総参謀部第七情報分析局…。」
残りわずかの飯をかき込み、味噌汁でそれを彼は胃に流し込んだ。
「知らんなぁ…。」
彼は片倉から届いたメッセージをある場所に転送した。そして腕時計に目を落とす。時刻は22時半を回っている。
「さてツヴァイスタン外務省はどう動くかね…。」
こう言ってスマホの画面をスライドさせた彼は、表示された画像に目を落とす。
「今まさにこいつが交渉役で、関と陶に対峙してるって訳か…。」
「アナスタシア・ペトロワの妹、エレナ・ペトロワ…。」
部屋にあるモニターには椎名賢明の姿が映し出されていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
金沢駅の交番に詰めている相馬の携帯にも王志強に関する情報が入ってきていた。
「どうした?」
難しそうな顔をして携帯電話を見る相馬を気にかけた古田は声をかけた。
「片倉班長からです。この人物について情報は無いか聞いてくれって。」
「うん?誰に?」
相馬は奥の休憩室で横になって休んでいる児玉と吉川の方に顎をしゃくった。
二人は死んだように寝ている。
「ずっと寝てなかったらしいな。」
「そうみたいですね。」
「寝返りすらうってないしな。二人とも1時間前と同じ格好で寝とる。」
相馬は児玉の身体を揺らした。するとパチッと目を開いて彼はすっくと起き上がった。
そして腕時計を見る。
「1時間も!」
児玉は慌てて横になっている吉川を叩いた。
30分の仮眠のつもりが1時間も寝てしまった。しかも二人とも。
「死んでるのかと思いました。冗談抜きで。」
「すまない…。休みすぎた。」
「いえ。しっかり休息をとらないと、肝心の時に動けません。」
マクシーミリアン・ベネシュを取り逃がした児玉と吉川は、その旨を本部に報告。上官からの叱責を受けた。
しかし警察と自衛隊の連携は機能しており、県警側で緊急配備を敷き、ベネシュの捜索に協力をしてくれている。したがって児玉と吉川はそのまま現地警察と連携し、アルミヤプラボスディアに関する情報収集と、その作戦行動の阻止に全力を注げとの命令を受けた。これによりこの交番では相馬、古田、児玉、吉川の警察と自衛隊の混合チームが結成されていた。
「王志強だと?」
相馬からの情報を聞いた児玉は驚きを見せた。
「知ってるんですか。」
「あぁ知ってる。といっても仄聞だが。」
数年前、国防関係者が集う会合があり、そこに出席した児玉は解放軍関係者と知己(ちき)を得た。そのときに彼から聞いたのは軍制改革のことだ。関係者曰く、正直張りぼて感が否めない解放軍も今後は実質的に動ける軍にせねばならない。その為には軍内部の腐敗防止は最優先事項ということで、規律の引き締めは過去にないものとなっているというのである。
「それでもすぐに実力を伴う軍隊って訳にはいかない。軍制改革には時間がかかる。おれら自衛隊だって6年の月日を経てようやくここまで来たんだ。これでも急ピッチでできたほうだよ。」
しかしその鈍重な改革を共産党指導部、いや張頴華(ちょうえいか)主席は良しとしない。従って彼の意に即応できる新たな部隊が編成されたと言うのだ。
「この部隊の創設に活躍したのが王志強という名の学者上がりの軍人だと、当時そいつから聞いた。」
「その新たな部隊はいま動いているんですか。」
児玉は頷いて応える。
「どうせ張主席のご機嫌取りのパフォーマンスでぽしゃるだろうって思ってたけど、最近、界隈ではよく聞く。」
「この間、米軍との意見交換の時も影龍特務隊について言及があった。」
起きた吉川が口を挟んだ。
「エイリュウ特務隊?」
「ああエイは影のエイ。リュウはドラゴンの龍だ。こいつは極秘の作戦に従事する特殊部隊だ。高度な訓練を受けた隊員は、情報収集、サイバー戦、さらには対テロ作戦にも対応する。」
「極秘の作戦に従事するってのがミソで、この極秘ってのがつまり張主席の密命って噂。」
児玉が言葉を付け足し、吉川が続ける。
「その王志強は主席の意に即応できる部隊を実際に編成することに成功したって訳だ。」
「だが影龍特務隊もその性格から情報が少ない。ただ米軍の情報機関は彼らが関わったであろうと思われる事案についてある程度把握しているようだ。だから時折、影龍特務隊についての情報交換もある。」
「王志強についてはこれ以上の情報は我々でには無い。ひょっとすると我々の上層部で把握しているものがあるかもしれない。」
この王志強が今回の事件に何の関係があるのかと二人は相馬に尋ねた。
しかし相馬もそれについては知らされていないとして、影龍特務隊の情報だけを片倉に返信した。
「しかし、何だな…。」
吉川がぼそりと呟く。
「話がでかくなりすぎるぞ。ここで影龍特務隊が絡んでくると…。」
「チェス組、ウ・ダバによるテロ事件ってだけでも日本では前代未聞の事件。そこにツヴァイスタンの秘密警察、軍、民間軍事会社アルミヤプラボスディア、ツヴァイスタンの宗主国ロシア、そして影龍特務隊…。」
「あ、そこに更にややこしくなるもんがひとつ加わるから、わしから先に言っとくわ。」
古田が口を挟んだ。
「更にややこしくなる?」
「ああ。」
「なんですか…。」
恐る恐る相馬は尋ねる。
「仁熊会。」
「え?」
相馬はまさかという顔つきだ。
「なんですか?仁熊会って。」
児玉が古田に聞く。
「石川の反社や。」
「え!?反社が何で!?」
「まぁ反社っちゅうのは世を忍ぶ仮の姿。その実、民間軍事会社やわ。」
「え、ウソでしょ日本に民間軍事会社なんかないはずです。」
児玉が即座に古田の言葉を否定する。
「ほうや。ない。表向き民間警備会社って言っとるから。」
「…反社なのか警備会社なのかどっちなんですか。」
「どっちもや。」
児玉も吉川も古田の発言がおかしいと困惑した表情だ。
「仁熊会ってのは公安特課の協力企業。公安特課じゃできん汚れ仕事をやってくれる優良企業や。そのためあいつらの銃の携行についてはワシらは目をつぶっとる。」
「嘘だろ…ってまさか…。」
「明日の件はワシら警察サイドだけではどうにもならん場合が発生する可能性がある。従って協力企業に協力を要請した。」
「要請内容は。」
「アルミヤプラボスディアの制圧。」
「無理だ。」
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「人材はどうなんだ。ただの暴力団だろう、その仁熊会は。」
「あんたら卯辰兄弟って知っとるか。」
古田の発言に児玉と吉川は驚きのあまり言葉を失ったようだ。
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「嘘だろ…。」
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