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155 第144話

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「本部から各局 ケントク捜査員冴木亮の逃走事案につき
6時47分 6時47分
鞍月1丁目1番地中心の10キロ圏警戒態勢を発令する。
実施署は金沢北、金沢南、松任、野々市、津幡中央、川北、寺井、辰口 の各署とし同一に体制はいずれも甲号とする。」
「ケントク岡田から相馬。」
「はい相馬。」
「いまの無線の通りだ。相馬も冴木亮の警戒に当たって欲しい。」
「わかりました。」
「いま何やってる。」
「石大病院の様子を伺っています。」
「人体実験の件か。」
「はい。」
「あまりそれには首を突っ込むなとの指示のはずだが。」
「上層部の調整はいかがでしょうか。」
「厚生省との調整を図っているとだけは聞いている。それ以外情報は無い。」
「酷い状況です。」
「…そんなにか。」
「外来は混乱しています。全然捌けていません。連携先に協力を仰いでいるようですがうまくいっていないようです。」
「くそったれ…。」
「冴木の件了解しました。すぐに動きます。しかしこの石大の状況はなんとかしないと…。」
「暴動に発展する…ということか?」
「可能性は十分にあります。怒号が飛び交っています。」
「マジか…。」
「警察が万が一に備えた方が良いかもしれません。」
「わかった。」
「あともうひとつ気になる事が。」
「なんだ。」
「マスコミがいません。」
「ん?」
「こんな騒動が起きてるってのに、マスコミの姿がありません。」
「なぜ?」
「それはこちらが聞きたいくらいです。」
「…ったく…しょうもない話は取り上げるくせに、肝心なときに機能せんよ…。」
「どういう事情か分かりませんが、この状況は世間に知ってもらうのが一番だと思います。」
「しかし混乱を助長することになりやしないか。」
「おそらく石大が連携先の協力を取り付けられていないのは、この状況が世の中に知られていないからじゃないでしょうか。この状況を見て黙殺する医療機関なんてないでしょう。むしろこれを見て、我関せずを貫く医療機関はむしろ患者から捨てられる。」
「そうだな。」
「なので自分、さっき匿名でちゃんフリに動画送りました。ネットやSNSはここから火がつくと思います。あとは地上波です。」
「よしそれはこっちで対応する。」
「では自分は冴木確保に動きます。」
「すまない。」
無線を切った相馬は電話をかける。
「お疲れ様です相馬です。」
「あぁ…。」
「どうしたんですか。元気がありませんよ片倉班長。」
「いま病院なんだよ。」
「え?」
彼は自分の周囲を見る。
まさか片倉がここにいるというのか。
「あの、自分も病院ですが。」
「は?どこの。」
「石大病院です。班長は。」
「警察病院。」
もしや片倉がここにいるのではと思ったが、その期待は瞬時に砕かれた。
「ちょっと色々あってな。詳しい話はまた今度ってことで。…で、なんや。」
「石大病院が大変なことになっています。」
「どう。」
「例の人体実験の被害者と思われる患者が押し寄せています。」
「…そうか。」
「岡田課長には私から暴動に備えた方が良いのではと進言しました。」
「そんなにか。」
「はい。患者は別として、その家族の不満は相当のものです。」
「ふうむ…。」
「上の調整はどうなっていますか。」
「それは俺まで下りてこんげんわ。」
「と言うと?」
「察庁とかの話。」
「でもこれヤバいですよ。」
「ほうやな。」
「どうすれば良いでしょうか。」
「相馬。お前岡田に言ってんろ。警察は準備した方が良いって。」
「はい。」
「お前としてはそれで十分や。お前はお前の事だけを考えてベストを尽くせ。」
「あ…はい…。」
「その為にお前を岡田にレンタルしとるんや。お前は岡田を信じて動け。」
「…。」
「岡田はやる男やぞ。」
「…わかっています。」
電話を切った相馬は顔を上げる。
外来に押し寄せた群衆と病院職員が押し合いへし合いしていた。
「責任者出せ!受付すら出来んってどういうことなんや!」
「一体どれだけ待たせるのよ!」
「近くの医者に行っても予約してもらわんとの一点張りやからここに駆け込んどれんに、ほったらかしかいや!」
患者の群衆からは苦情の怒号が投げられる。
「あーうるさい!うるさい!黙れ!静まれ!静まれー!」
病院職員の一人が群衆に叫んだ。
先ほどまですいませんだとか、申し訳ございません。お待ちください、順番ですからと丁寧な言葉遣いを駆使して、なんとかその場を制止しようとしていた病院側だったが、ここで強い言葉を発する者が現れた。
「順番やって言っとるがいや!順番つけば診る!」
「こんなに人居るげんにいつになったら診てくれるんや!」
「んなもん知らんわ!こっちはあんたら診れる先生、ひとりしか居らんがや!ほやから他当たった方が良いぞって言っとるやろうが。」
「ひとり?ひとりしか居らんがか?」
「おいや。あんたらもテレビで見たやろ。あんたら診る先生が死んでしもうたんや。」
「どいや大学の附属病院やろうが。それっぽい人間たくさん居るやろうが。」
「あのな。あの人が主力なんやって。雑魚ばっか集めたって役に立たんわ。それに普通の状況でさえ人が足りんげんぞ。そこにこんなバーゲンセールみたいにいっぺんに来られても、対応できる訳ねぇやろ。」
「だからてったいとかは学生でも出来るやろって話しとるんや。」
「いくら手伝いつけても診る先生居らんかったら話ならんやろうが!何遍言わせるんや!順番付けって!順番に診るー!どんだけ時間かかるか分からんけど。」
病院側が強い言葉を発することで、群衆の反応がエスカレート。最悪の事態に発展することも想定された。
しかしやがて自然と群衆は列を形成しだした。
「ん?どした?」
群衆の中に携帯を見ている者が散見される。彼ら彼女らはそれを見るや冷静さを取り戻し、順番をつくよう他者にも働きかけているようだった。
「なんか分からんけど、一先ずヨシ。…で良いんかな。」
場を後にしようとしたとき、電話をする相馬の姿が彼の視界に入ってきた。
「あの野郎、この騒ぎもちゃっかり東一に報告しとるんけ?クッソ…チョロチョロしやがって。」
吐き捨てると、携帯が鳴った。
「病院長…。なんねん…こっちはそれどころじゃないんやって…。」
渋々彼はそれに出た。
「お疲れ様です。坊山です。」
「よくやった。」
「へ?」
「何言ってんだ。坊山、お前が場を静めたんだろう。」
「え?あ…あぁ…。まぁ。」
ー情報はやっ…。
遠くに見える相馬は電話を終えており、こちらに向かってガッツポーズをした。
「なんじゃありゃ。」
「どうした?」
「あ、いえ…。」
「プロも最大級の評価をしていたぞ。」
「は?プロ?」
「あ…いや…。ま、と、とにかく…よくやった。ありがとう。」
「あ、いえ…。」
電話切る音
シャツの袖口で自分の額を拭った坊山の視界からは相馬の姿は無くなっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「脳神経の先生が死んだタイミングで、その診療科に患者が殺到。」
「はい。行って良いですか。」
「…。」
「デスク。」
「今回はパスしよう。」
「え!?」
「もう無理。人がいない。」
「私がいます!」
「お前が出て行ったら、もう完全に余力が無くなっちまう。」
「安井さんの制作部は健在です。」
「安井さんは無理なの。」
「何でですか。」
「いろいろあるんだよ。それには首突っ込むな。」
「じゃあ外部委託すればいいでしょ。」
「どこにだよ。」
「例えば椎名さんとか。」
「椎名…。」
「はい。」
「でもあの人編集の技術者でしょ。記事とかいけるの?」
「一応、私のゲラみてここは良い、ここは駄目って結構的確な指摘します。」
人差し指でトントンと机の上を叩く黒田はフロアにあるテレビを眺める。
「それにしてもこんな大きなネタ、なんで地上波、取材行ってないのかな…。」
「わかりません。」
「旧来メディアの凋落で、テレビも大分人員削られてるみたいだけど、それにしてもなんだよな。」
「と言いますと?」
「いや、ここ数日の報道ぶりを調べたんだ。そしたらさ昨日のほら熨子町のネットカフェの爆発事件。」
「ええ。」
「あれキー局で放送してないの。」
「えっ?」
「でかい話じゃん。画的にも映えるしネタ的にもかなりでしょ。」
「はい。」
「それが石川の放送局止まりなの。」
「なんで?」
「わかんない。石大の光定先生死亡の件もなんだよ。」
「変ですね。」
「だから今ひとつなんだ。地元でも。で、いまのこの石大病院の取り付け騒ぎ的なやつもさ、今度はろくに取材すら来ていないって感じでしょ。どうなってんのって。」
「私、そっちを調べてみます。新聞、テレビにもツテありますんで。それならここから電話とかでできますから。」
「じゃあ頼むよ。」
「はい。」
黒田の携帯が鳴った。
画面の表示されるそれを見て彼は席を外した。
「おつかれさまです。片倉さん。」
「至急対応して欲しいことがある。」
「…なんでしょう。」
「京子の奴、特集とかなんかの仕事、外部委託しとるやろ。」
「よくご存じで。」
「それいつ流す。」
「今日の夜流して完了です。」
「止めてくれ。」
「え?」
「今すぐそれの配信を止めて欲しい。」
「アーカイブもですか。」
「おう。」
「まさかこれにもサブリミナルが?」
「わからんが念のため。」
「サブリミナルを仕込んでたウチのスタッフは今は警察です。今の時点でそういった仕込みは出来ません。それにすでに片倉さんに言われたとおり、そのアーカイブは全部ストップしています。サブリミナルによる影響排除は完了しています。」
「まだ可能性がある。」
「片倉さん。あなたの娘さんの仕事ですよ。」
「既に止めたアーカイブの中にも京子の仕事はあったと思うが。」
「しかしこれには彼女は並々ならぬ思いがあるようで。」
「その並々ならぬ思いが仇となって返ってくるかもしれんぞ。」
「可能性だけをあげつらって、彼女の思いを潰すのは…。」
「逆もしかり。思いだけをあげつらって、危険に目を瞑るのはいかがなもんか。」
「ぼんやりしすぎです。」
「…。」
「もっとはっきりした脅威を示してください。」
「椎名賢明。」
「既に名前もご存じでしたか…。」
「極めて危険な人物や。」
「…極めて危険?」
「黒田。お前を真に信頼できる協力者として打ち明ける。」
「…どうぞ。」
「椎名賢明は仁川征爾や。」
「仁川征爾…?」
「覚えてないか。」
聞いたことがある名前だ。
黒田が記憶を呼び起こすのに時間は不要だった。
「…まさか…。」
「そう。6年前、下間悠里が成りすましとった仁川征爾。その本人や。」
「うそでしょ…。」
「本当。」
「え…でも…ありえない…。仁川はツヴァイスタンに拉致されたままのはず...。」
「はぁー(ため息)」
二人の間に沈黙が流れた。
「仁川征爾はすでにこの日本に亡命している。」
衝撃的な情報は黒田の言葉を失わせた。
彼はこの後に話される片倉の言葉に耳を傾ける事しかできなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【Twitter】
https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM
ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。
皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。
すべてのご意見に目を通させていただきます。
場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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155 第144話

オーディオドラマ「五の線3」

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6時47分 6時47分
鞍月1丁目1番地中心の10キロ圏警戒態勢を発令する。
実施署は金沢北、金沢南、松任、野々市、津幡中央、川北、寺井、辰口 の各署とし同一に体制はいずれも甲号とする。」
「ケントク岡田から相馬。」
「はい相馬。」
「いまの無線の通りだ。相馬も冴木亮の警戒に当たって欲しい。」
「わかりました。」
「いま何やってる。」
「石大病院の様子を伺っています。」
「人体実験の件か。」
「はい。」
「あまりそれには首を突っ込むなとの指示のはずだが。」
「上層部の調整はいかがでしょうか。」
「厚生省との調整を図っているとだけは聞いている。それ以外情報は無い。」
「酷い状況です。」
「…そんなにか。」
「外来は混乱しています。全然捌けていません。連携先に協力を仰いでいるようですがうまくいっていないようです。」
「くそったれ…。」
「冴木の件了解しました。すぐに動きます。しかしこの石大の状況はなんとかしないと…。」
「暴動に発展する…ということか?」
「可能性は十分にあります。怒号が飛び交っています。」
「マジか…。」
「警察が万が一に備えた方が良いかもしれません。」
「わかった。」
「あともうひとつ気になる事が。」
「なんだ。」
「マスコミがいません。」
「ん?」
「こんな騒動が起きてるってのに、マスコミの姿がありません。」
「なぜ?」
「それはこちらが聞きたいくらいです。」
「…ったく…しょうもない話は取り上げるくせに、肝心なときに機能せんよ…。」
「どういう事情か分かりませんが、この状況は世間に知ってもらうのが一番だと思います。」
「しかし混乱を助長することになりやしないか。」
「おそらく石大が連携先の協力を取り付けられていないのは、この状況が世の中に知られていないからじゃないでしょうか。この状況を見て黙殺する医療機関なんてないでしょう。むしろこれを見て、我関せずを貫く医療機関はむしろ患者から捨てられる。」
「そうだな。」
「なので自分、さっき匿名でちゃんフリに動画送りました。ネットやSNSはここから火がつくと思います。あとは地上波です。」
「よしそれはこっちで対応する。」
「では自分は冴木確保に動きます。」
「すまない。」
無線を切った相馬は電話をかける。
「お疲れ様です相馬です。」
「あぁ…。」
「どうしたんですか。元気がありませんよ片倉班長。」
「いま病院なんだよ。」
「え?」
彼は自分の周囲を見る。
まさか片倉がここにいるというのか。
「あの、自分も病院ですが。」
「は?どこの。」
「石大病院です。班長は。」
「警察病院。」
もしや片倉がここにいるのではと思ったが、その期待は瞬時に砕かれた。
「ちょっと色々あってな。詳しい話はまた今度ってことで。…で、なんや。」
「石大病院が大変なことになっています。」
「どう。」
「例の人体実験の被害者と思われる患者が押し寄せています。」
「…そうか。」
「岡田課長には私から暴動に備えた方が良いのではと進言しました。」
「そんなにか。」
「はい。患者は別として、その家族の不満は相当のものです。」
「ふうむ…。」
「上の調整はどうなっていますか。」
「それは俺まで下りてこんげんわ。」
「と言うと?」
「察庁とかの話。」
「でもこれヤバいですよ。」
「ほうやな。」
「どうすれば良いでしょうか。」
「相馬。お前岡田に言ってんろ。警察は準備した方が良いって。」
「はい。」
「お前としてはそれで十分や。お前はお前の事だけを考えてベストを尽くせ。」
「あ…はい…。」
「その為にお前を岡田にレンタルしとるんや。お前は岡田を信じて動け。」
「…。」
「岡田はやる男やぞ。」
「…わかっています。」
電話を切った相馬は顔を上げる。
外来に押し寄せた群衆と病院職員が押し合いへし合いしていた。
「責任者出せ!受付すら出来んってどういうことなんや!」
「一体どれだけ待たせるのよ!」
「近くの医者に行っても予約してもらわんとの一点張りやからここに駆け込んどれんに、ほったらかしかいや!」
患者の群衆からは苦情の怒号が投げられる。
「あーうるさい!うるさい!黙れ!静まれ!静まれー!」
病院職員の一人が群衆に叫んだ。
先ほどまですいませんだとか、申し訳ございません。お待ちください、順番ですからと丁寧な言葉遣いを駆使して、なんとかその場を制止しようとしていた病院側だったが、ここで強い言葉を発する者が現れた。
「順番やって言っとるがいや!順番つけば診る!」
「こんなに人居るげんにいつになったら診てくれるんや!」
「んなもん知らんわ!こっちはあんたら診れる先生、ひとりしか居らんがや!ほやから他当たった方が良いぞって言っとるやろうが。」
「ひとり?ひとりしか居らんがか?」
「おいや。あんたらもテレビで見たやろ。あんたら診る先生が死んでしもうたんや。」
「どいや大学の附属病院やろうが。それっぽい人間たくさん居るやろうが。」
「あのな。あの人が主力なんやって。雑魚ばっか集めたって役に立たんわ。それに普通の状況でさえ人が足りんげんぞ。そこにこんなバーゲンセールみたいにいっぺんに来られても、対応できる訳ねぇやろ。」
「だからてったいとかは学生でも出来るやろって話しとるんや。」
「いくら手伝いつけても診る先生居らんかったら話ならんやろうが!何遍言わせるんや!順番付けって!順番に診るー!どんだけ時間かかるか分からんけど。」
病院側が強い言葉を発することで、群衆の反応がエスカレート。最悪の事態に発展することも想定された。
しかしやがて自然と群衆は列を形成しだした。
「ん?どした?」
群衆の中に携帯を見ている者が散見される。彼ら彼女らはそれを見るや冷静さを取り戻し、順番をつくよう他者にも働きかけているようだった。
「なんか分からんけど、一先ずヨシ。…で良いんかな。」
場を後にしようとしたとき、電話をする相馬の姿が彼の視界に入ってきた。
「あの野郎、この騒ぎもちゃっかり東一に報告しとるんけ?クッソ…チョロチョロしやがって。」
吐き捨てると、携帯が鳴った。
「病院長…。なんねん…こっちはそれどころじゃないんやって…。」
渋々彼はそれに出た。
「お疲れ様です。坊山です。」
「よくやった。」
「へ?」
「何言ってんだ。坊山、お前が場を静めたんだろう。」
「え?あ…あぁ…。まぁ。」
ー情報はやっ…。
遠くに見える相馬は電話を終えており、こちらに向かってガッツポーズをした。
「なんじゃありゃ。」
「どうした?」
「あ、いえ…。」
「プロも最大級の評価をしていたぞ。」
「は?プロ?」
「あ…いや…。ま、と、とにかく…よくやった。ありがとう。」
「あ、いえ…。」
電話切る音
シャツの袖口で自分の額を拭った坊山の視界からは相馬の姿は無くなっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「脳神経の先生が死んだタイミングで、その診療科に患者が殺到。」
「はい。行って良いですか。」
「…。」
「デスク。」
「今回はパスしよう。」
「え!?」
「もう無理。人がいない。」
「私がいます!」
「お前が出て行ったら、もう完全に余力が無くなっちまう。」
「安井さんの制作部は健在です。」
「安井さんは無理なの。」
「何でですか。」
「いろいろあるんだよ。それには首突っ込むな。」
「じゃあ外部委託すればいいでしょ。」
「どこにだよ。」
「例えば椎名さんとか。」
「椎名…。」
「はい。」
「でもあの人編集の技術者でしょ。記事とかいけるの?」
「一応、私のゲラみてここは良い、ここは駄目って結構的確な指摘します。」
人差し指でトントンと机の上を叩く黒田はフロアにあるテレビを眺める。
「それにしてもこんな大きなネタ、なんで地上波、取材行ってないのかな…。」
「わかりません。」
「旧来メディアの凋落で、テレビも大分人員削られてるみたいだけど、それにしてもなんだよな。」
「と言いますと?」
「いや、ここ数日の報道ぶりを調べたんだ。そしたらさ昨日のほら熨子町のネットカフェの爆発事件。」
「ええ。」
「あれキー局で放送してないの。」
「えっ?」
「でかい話じゃん。画的にも映えるしネタ的にもかなりでしょ。」
「はい。」
「それが石川の放送局止まりなの。」
「なんで?」
「わかんない。石大の光定先生死亡の件もなんだよ。」
「変ですね。」
「だから今ひとつなんだ。地元でも。で、いまのこの石大病院の取り付け騒ぎ的なやつもさ、今度はろくに取材すら来ていないって感じでしょ。どうなってんのって。」
「私、そっちを調べてみます。新聞、テレビにもツテありますんで。それならここから電話とかでできますから。」
「じゃあ頼むよ。」
「はい。」
黒田の携帯が鳴った。
画面の表示されるそれを見て彼は席を外した。
「おつかれさまです。片倉さん。」
「至急対応して欲しいことがある。」
「…なんでしょう。」
「京子の奴、特集とかなんかの仕事、外部委託しとるやろ。」
「よくご存じで。」
「それいつ流す。」
「今日の夜流して完了です。」
「止めてくれ。」
「え?」
「今すぐそれの配信を止めて欲しい。」
「アーカイブもですか。」
「おう。」
「まさかこれにもサブリミナルが?」
「わからんが念のため。」
「サブリミナルを仕込んでたウチのスタッフは今は警察です。今の時点でそういった仕込みは出来ません。それにすでに片倉さんに言われたとおり、そのアーカイブは全部ストップしています。サブリミナルによる影響排除は完了しています。」
「まだ可能性がある。」
「片倉さん。あなたの娘さんの仕事ですよ。」
「既に止めたアーカイブの中にも京子の仕事はあったと思うが。」
「しかしこれには彼女は並々ならぬ思いがあるようで。」
「その並々ならぬ思いが仇となって返ってくるかもしれんぞ。」
「可能性だけをあげつらって、彼女の思いを潰すのは…。」
「逆もしかり。思いだけをあげつらって、危険に目を瞑るのはいかがなもんか。」
「ぼんやりしすぎです。」
「…。」
「もっとはっきりした脅威を示してください。」
「椎名賢明。」
「既に名前もご存じでしたか…。」
「極めて危険な人物や。」
「…極めて危険?」
「黒田。お前を真に信頼できる協力者として打ち明ける。」
「…どうぞ。」
「椎名賢明は仁川征爾や。」
「仁川征爾…?」
「覚えてないか。」
聞いたことがある名前だ。
黒田が記憶を呼び起こすのに時間は不要だった。
「…まさか…。」
「そう。6年前、下間悠里が成りすましとった仁川征爾。その本人や。」
「うそでしょ…。」
「本当。」
「え…でも…ありえない…。仁川はツヴァイスタンに拉致されたままのはず...。」
「はぁー(ため息)」
二人の間に沈黙が流れた。
「仁川征爾はすでにこの日本に亡命している。」
衝撃的な情報は黒田の言葉を失わせた。
彼はこの後に話される片倉の言葉に耳を傾ける事しかできなかった。
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