遺伝⼦特許①

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今日は遺伝子の特許について話します。特許は何かすごい機械やよく効く薬などのモノに与えられるイメージがあるかと思います。そもそも遺伝子は特許になるのか、遺伝子の特許とはいいかなるものか、という事について今回と次回で話します。 遺伝子の特許の前に遺伝子と特許についてそれぞれ簡単に説明します。遺伝子というのは生物の設計図とも言われており、生物が生命活動を営む上で必要不可欠なものです。人間で言うと、皮膚を作る遺伝子や、心臓を働かせる遺伝子など、その遺伝子の情報を基にその機能や働きが制御されています。遺伝子の情報というのは、ＤＮＡやＲＮＡと呼ばれる塩基という配列によって表されます。ＡやＴというのがそうですが、これ自体は科学化学物質で実は人工的にも合成可能です。 一方特許ですが、日本には特許法という法律があります。その第１条には「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」と書いてあります。平たく言えば、一生懸命頑張って見つけた発明は、法律によってその使用の権利を保護します、そしてそれによって他者に模倣されることなくビジネスを行う事が可能となり、発明する事にインセンティブを与えて更に産業が発展するようにしますという法律です。では、ここでいう発明とは一体何なのか、これが今日の話のポイントです。 特許法上の発明には主に３つの要件が設定されています。自然法則の利用、技術的思想、創作の３つです。自然法則というのは自然界において、経験的に見出だされる物理的、科学的、生物的な法則です。逆に自然法則ではない事例を出すと、例えばゲームのルール、商売の方法や数学の公式などで、これらは自然法則が利用されていないので発明の対象にはなり得ません。２番目の技術的思想というのは、これは具体的な手段を指しており、誰が行なっても同じ結果が得られるものです。なので、ヤクルトの村上選手のホームランを打つ方法や、人間国宝の方の伝統工芸などは誰でも出来るものではないという点からこの技術的思想に当てはまらず、発明の対象にはなりません。最後の創作、これは文字通り新しく作り出す事です。よく発見と区別されます。例えば、ダイヤモンドのような鉱石や野に咲く花は自然界に存在するものなので、そういった天然物や自然現象自体はこれに当てはまりません。 では今日の問題です。、遺伝子は特許になり得るのか。結論をまず申し上げるとから言うと、遺伝子そのものは特許にはなり得ません。その理由として、遺伝子は自然界に存在するもので、こはまさんの体の中にも僕の体の中にも全ての人の体に有るもので、人工的に作られたものではないという理由から遺伝子は特許の対象にはなりません。先程の発明の要件として創作というものが求められ、自然界に存在するものは発明対象になり得ないと説明しましたが、自然界に存在するモノでも人為的に合成したり、または管理したり、更に有用性を見出した場合は創作と認められる場合があります。ですので、体内の遺伝子を取り出したもの、細胞から取り出したものは、実は自然界に存在するものとは違うというカテゴリで、特許として認められる場合が過去にはありました。過去にはあったというのは次の回に話します。企業はこのような技術を知的財産として保護します。ですので、遺伝子を体内から抽出する技術や遺伝子に高い活性を持たせる、体内には無い活性を持たせる方法などは発明対象になります。 ただ、実は遺伝子を含めて、生物の世界と特許は非常に馴染まない関係です。特許制度という概念は1474年、ずいぶん昔ですが、中世のベニスで生まれたと言われています。いろいろ技術が発展して1700年代後半からアメリカやヨーロッパで本格的に特許に関する規定が設けられました。この時代はイギリスで産業革命が起こった時期で、機械や装置などが特許保護の主な対象となっていました。ですので、遺伝子自体を特許の保護対象とすることについては、この当時には必ずしも考慮されていなかったと考えられます。というのはそもそも、遺伝子という概念が本格的に生まれたのが1900年以降で、それよりも随分前に特許による規定が設けられたので、遺伝子を特許対象にするという議論が起こらなかったということです。あと、どこまでが天然物でどこからが人工物かというのも色んな議論の余地があり、この点からも生物の世界と特許は機械や装置に比べて親和性が低いというふうに言われています。 今日のまとめです。特許法における発明は主として、自然法則の利用、技術的思想、創作であることが要求されます。遺伝子は生命の根幹ともいえる情報で、人工的に作り出されたものではなく自然界に存在するので、それ自体が特許になる事はあり得ませんが、遺伝子を効率よく抽出する方法や高い活性を持たせる方法、高い活性を持たせた遺伝子などは発明の対象となる事があります。