多角化戦略の選択条件(2):階層的統治

 
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今回は、全社戦略の一つである多角化についてお話したいと思います。全社戦略とは、ある特定の事業の戦略を超えて、複数の事業をカバーする会社全体レベルで企業をどういった方向に導くかを考えていく戦略のことです。その中で、多角化はある企業が商売の幅を広げて複数の事業を持つようになることをいいます。成長を図る方法には色々な選択肢がありますが、例えば、本業の事業に専念して事業規模を拡大していくというのも一つの方向です。更に、他社との戦略的提携によって事業の幅を広げる方法もあるわけです。多角化はこれまでにない事業の経営に自ら乗り出す方法となり、戦略的提携よりもコミットメントの度合いが強いと言えます。 色々な選択肢がある中で、企業成長の手段として多角化を選ぶには幾つかクリアすべき条件があります。前回はその内の一つについてお話をしました。その一つというのは、範囲の経済が存在するか否かということでした。範囲の経済とは、色々な事業があるときにそれを個別の企業がそれぞれ営むよりも、一つの企業がまとめて運営した方が経営資源を共通利用できる為に効率的に運営できることです。 今回お話するのは、もう一つの条件である階層的統治についてお話してみたいと思います。大変聞き慣れない言葉ですが、要するに、複数の事業を一つの組織体の中で運営することです。一つの組織の中で運営するわけですから、そこには例えば事業部と本社といった縦の関係があるわけです。組織の中のいわゆる指揮命令系統を通じて、事業活動を統制するというわけです。階層的統治はしばしば市場取引と対比して使われています。市場での取引においては、企業同士は少なくとも建前上はお互い対等の相手です。これをやれ、あれをやれという指揮命令系統ではなくて、ある取引がお互いにとって利益があるときにそこに経済取引が発生するという、ある種フラットな関係があるわけです。これの反対になるのが組織ということで、組織階層を通じて経済活動をコントロールする、つまり統治する点が組織の組織たる所以というわけです。 では、どのような時に市場を通じた経済取引ではなくて、組織の指揮命令系統を通じた経済活動の方が有利になるかという点が問題になってきます。その一つの根拠を取引コスト経済学という学問が提示しています。取引コストについては、実は以前、垂直統合や戦略的提携の回にもお話したことがあります。取引コストとは、ある経済取引において、取引にかかわる個人や組織がその取引を成立させるために、負担しなければならない色々な手間のことを意味します。これは単に金銭的な費用だけを意味するわけではありません。例えば、取引相手の信用度を調べたり、取引条件を契約に落とし込んでいったり、合意した内容を相手が守っているかどうかをモニターしたりといった全ての手間を含むわけです。相手がどのような行動に出るか分からない状況、言い替えると相手が裏切るかもしれない、そういった危険性が高いほど取引コストは大きくなると考えられます。ですので、取引コスト経済学では、取引コストが大きい場合ほど、信頼できない相手と市場を通じて取引するよりもいっそ自分でその経済活動を取り込んでしまった方が効果的だと考えるのです。 その方法は色々あります。自前で事業を立ち上げたり、あるいは取引先をM&Aで買収したりといった形があるわけですが、いずれにしても、自分の会社内に経済活動を取り込むことで、組織の指揮命令系統を通じて活動をコントロールすることになるわけです。これが多角化にも当てはまります。市場を通じた経済取引やパートナーとの協業による戦略的提携では、相手を十分にコントロール出来なかったり、あるいは裏切られるかもしれない。こういった場合には自ら手掛けてしまった方が効果的になるでしょう。逆に、もしある経済取引においてパートナーが十分信頼できて裏切られる心配もない、そういった状況であればこれは相手に任せてしまった方がずっと効率がいいかもしれません。苦労して多角化して自らその事業活動をやる必要はないということになります。その為、相手をコントロール出来るのかどうか、信頼できるか、裏切られる心配がないか、その辺りを考えて使い分ける必要があります。この様な取引コストが高いかどうかということが、相手に任せるのかそれとも自ら多角化して自分の手の内で事業を行うのかを決めることになってくるわけです。 今日のまとめです。企業が多角化戦略を正当化するためには、まず複数の事業を手掛けることそのものに経済的価値がなければなりません。それが前回お話した範囲の経済が存在するか否かという条件です。今回お話したのは、そうした複数の事業を一つの組織の傘の中で行う合理性があるかどうかということです。それが事業の階層的統治、つまり複数の事業を組織の指揮命令系統の中で運営するかどうかという条件だったのです。もし複数事業を営むことに経済的な価値があったとしても、階層的統治の必然性がなければ、企業はむしろ多角化ではなくて、市場取引といったフラットな経済取引であるとか、戦略的提携といったより緩やかな組織統治の方法をとるべきだということになります。

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