第181回:朗読|カンガルー日和・村上春樹

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作品:『カンガルー日和』村上春樹

主播:中村纪子

BGM:松田彬人 - 青臭い


节目原稿节选:

 柵の中には全部で四匹のカンガルーがいた。一匹が雄で二匹が雌、あとの一匹が生まれたばかりの子どもである。

 カンガルーの柵の前には、僕と彼女しかいない。もともとたいして人気のある動物園でもないし、おまけに今日は月曜の朝だ。入場客の数よりは動物の数のほうがずっと多い。これは誇張ではない。本当にそうなのだ。

 我々の目あてはもちろんカンガルーの赤ん坊である。それ以外に見るべき何があるだろう?

 我々はひと月前の新聞の地方版でカンガルーの赤ん坊の誕生を知った。そして一か月間、カンガルーの赤ん坊を見物するにふさわしい朝の到来をじっと辛抱強く待ちつづけていたのである。しかし、そんな朝はなかなかやってはこなかった。ある朝には雨が降っていた。次の朝にもやはり雨は降っていた。その次の朝には地面がぬかるんでいたし、それに続く二日間は嫌な風が吹いていた。ある朝には彼女の虫歯が痛み、ある朝には僕が区役所に出かけねばならなかった。僕はあまり大きなことは言いたくない。でもあえて言わせていただくならそれが人生なのだ。

 そんなふうにしてーか月が過ぎた。

 一か月なんて、まったくのところ、あっという間に過ぎてしまう。このーか月のあいだいったい何をしていたのか、僕にはまるで思い出せない。いろんなことをやったような気もするし、何もしなかったような気もする。月末になって新聞の集金人がやってくるまで、一か月が過ぎてしまったことにさえ僕は気づかなった。そう、それが人生なのだ。

……

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