組織社会化の効果における2ステップ

 
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前回は、人が組織に馴染んでいく組織社会化を促進するための「オンボーディング」という施策について、国内事例をいくつかご紹介しながらお話しました。その際、効果的なオンボーディングをデザインするための重要ポイントとしてナッジという考え方を示しました。 ナッジとは行動経済学の概念の一つで、個人が意識したり組織が強制したりしなくても、自然と望ましい行動が実践されるような仕掛けのことをいいます。さらにナッジの事例の一つとして、メルペイやサイバーエージェントといった企業のランチ補助制度をご紹介しました。元々ランチに行くのは誰にとっても毎日必須の活動です。その一方で、普段接点の無い他部署の社員と一緒にランチに行けば会社から補助金が出るというメルペイやサイバーエージェントのランチ補助は、社員にとって福利厚生上の一つの権利となっています。この特権は利用しなければそのまま消失するので、昼食をとるなら権利を行使しようという心理が当然働きます。そして、それに伴う副産物として、普段接点の無い社員同士がコミュニケーションを取り、社内ネットワークが構築されていくという仕掛けになっています。 このようにオンボーディング促進のためには、他の社員とランチに行く等望ましい行動のハードルを低くして、強い意志や努力の必要を無くすことがポイントです。逆に、ランチ補助というごく少額な投資すらしないで、ひたすら「部署の垣根を越えてコミュニケーションしましょう!」と呼びかけていても、なかなか効果というのは期待できません。 同じく自然と望ましい行動をとるようになる仕掛けとしてメルカリやクックパッド等で実践されている「ウェルカムバルーン」という仕掛けがあります。新入社員が組織に馴染むためには、既存社員の人が積極的に声をかけて、「何かあったら言ってね」とサポートの姿勢を示すことが非常に効果的です。これはお分かりになると思いますが、実際にはなかなかそれが実践されているとは言い難いケースのほうが多いものです。むしろ、一度部署全体に挨拶をして、その日の夜歓迎会があって、その後は直接一緒に仕事をする人か、たまたま近くの席に座る人としか声を交わさないというケースのほうが多いのではないかと思います。 ウェルカムバルーンはそうならないようにするための仕組みで、新入社員の研修期間中、彼女ないし彼のデスクに名前付きのカラフルな風船を設置します。これだけです。これだけなんですけれど、カラフルな名前付きの風船がオフィスにプカプカ浮かんでいると、遠目からでもどこに新入社員がいるのかすぐわかります。この「すぐ一目でわかる」というのがポイントです。特に大きな企業で一つの部署の中に何十人も社員がいる場合、なかなか新入社員の存在は意識しづらいものです。しかし、バルーンを設置すると、近くを通りかかった時に自然と「あ、そっか。あそこに新入社員さんいたね。」ということで、「どう、もう慣れた?」と自然と声をかけたくなる。結果、コミュニケーションが促進されて、新入社員が周囲の方々と関係性を築きやすくなります。必要経費は風船代だけです。 一方、こうしたオンボーディング施策が功を奏して組織社会化が順調に進むと、本当に組織としてメリットがあるのかというのが気になるかと思います。その答えは「確かにあります」というもので、ここに吃驚はありません。新入社員が組織に馴染んで周囲の社員とも良好な関係性を構築すると、彼女ら彼らの仕事のパフォーマンス、そして、チーム全体の業績も向上します。しかし、そこには二段階のステップがあります。これは割と見過ごされがちだったりするので、この点を説明させてください。組織社会化が順調に進むと、まず、「組織社会化の一次的成果」と呼ばれる変化が生じます。これは人間関係が出来たり、組織内で誰の発言権が強いかや意志決定にウエイトを持っているかという政治的理解が進んだり、あるいは社内で多用される専門用語や独特の言い回しといった言語面に関する習得が進んだりといった形で、組織の中でコミュニケーションを図るために重要な文化的な理解が深まるというものです。 この会社ってこういう文化だなというのがなんとなくわかってくる。ここでうまくコミュニケーションを図るならこういう話し方がいいとか、何か決めるときにはあの人が首を縦に振ればコトが進むと理解するとかですね。そしてこの一次的成果に伴って組織内でのコミュニケーションが円滑になっていくと、先程申し上げたように、新入社員自身に加えてチーム全体のパフォーマンスや職務満足度がアップしていきます。組織への心理的な愛着と一体感も向上するので離職率も下がる。さらに、組織の一員として貢献度を高めようという気持ちが動きますので、厳密には自分の仕事ではないかもしれないけどそれをやるとチーム全体に良い効果があるといった類の、「プロアクティブ行動」と呼ばれる自発的な行動も増加していきます。こうした好影響が出ることを「組織社会化の二次的成果」と言います。 重要な点は、この2つのステップに順番があるということです。今ご説明したように、あくまでも社内文化に精通し、他の社員とスムーズにコミュニケーションが出来るようになり、組織の目標やビジョンを深く理解するといった一次的成果を確立することがまず先決です。それが出来て初めて実際のパフォーマンスとか、職務満足度の向上、離職率の低下、行動の変容といった具体的な成果が現れるようになる。この順番は変えられません。しかし、往々にして一次的成果はいいから、早く具体的な成果を出したいというケースがまま見受けられるのも、事実なのですよね。社員同士の関係性構築のためのランチ補助なんておままごとはいいから、とにかく一刻も早く売上が伸びて離職率が下がる施策を教えてください先生、みたいな。しかし、組織社会化にもコミュニケーションにも近道はありません。強い関係性に裏打ちされた良い組織を作ろうと思うならば、経営者の方々はしっかりハラをくくって、そのために時間とリソースを投資する、これが重要かと思います。 今日のまとめです。本日は、組織社会化を効果的に進めるためのコツであるナッジについてご説明しました。効果的な組織社会化がなされると、まず社員同士の関係性とコミュニケーションの質が向上する「一次的成果」が現れます。次いで、改善されたコミュニケーションに伴う形で職務満足度の向上などの具体的な成果、すなわち「二次的成果」が現れます。言い換えると、社員の働きぶりを向上させて、売上アップや離職率の低下等の成果を実現させようと思うならば、まずはコミュニケーションの改善に時間とリソースを投資する必要があります。

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