企業変革との向き合い方2

QTnetモーニングビジネススクール

前回は「企業変革」というテーマでお話しました。どの企業も、良い時でも悪い時でも変革を迫られる時期が必ずあります。前回は私自身がこれまで企業変革に携わってきた経験を基に、一体何を行ってきたのかをお話しましたが、今回は変革をリードするための課題、そしてそれにどう対処したらいいのかについてお話しします。 「企業変革」を実施するにあたっては、お客様や社員がこれまで慣れ親しんできたやり方を変えなければならないという点に難しさがあります。人の行動を変えるためには時間が掛かります。すぐに結果は出ません。寧ろ、今まで成功してきた人達、そしてこれまでの成功によって重要なポジションにいる人達からは、間違いなく抵抗や反発が生まれます。そうなりますと、企業変革の初期にはネガティブな出来事が間違いなく起こります。一定期間それが起きるということを変革のリーダーはトップマネジメントにきちんと伝え、いつ頃まで続くのかを理解し納得してもらい、耐えてもらう準備をしてもらう必要があるのです。こうした状況は通常６ヶ月から１年程度続きますが、その後確実に状況は改善していくはずです。問題は、この期間を耐えられるように出来るかということだと思います。この点がおそらく教科書には載っていない、変革における最も重要な部分ではないかと思います。 では、これを実際にリーダーとして乗り切っていくためにどのようなスキルが必要になるかというと、一つ目は「ファクトとロジックで今起きていることをきちんと整理して、冷静に対応方法が考えられる思考能力」です。物事は長期的に見れば論理的に正しい方向に行くようになっています。しかしながら、短期的にはそういかない事が多いのです。そこをしっかりと見極めることが必要だと思います。 二つ目は、透明性、つまり情報を出来る限り隠さないということです。この点については私と一緒に変革のリーダーをした仲間の中で違った方法を採る方も多くいらっしゃいました。敢えて情報を隠すことによって、自分の期待する方向に進めていこうというリーダーは間違いなくいらっしゃいます。それで成功している方もいるのではあるのですが、私自身の経験的に言えば、長期的に見て誰に対してもきちんとリアルな情報、透明性のある情報が共有されている時の方が、組織の中で納得感が生まれ、全体として正しい道へ進むのではないかと考えています。このテーマにはまだ正解はありません。しかし、私はそのように信じています。 最後は、悲観的に物事を見過ぎない、特に人、あるいは現場に関しては良い所をしっかり見るようにするということです。どうしても悪い事が続いた時や、組織で苦しい事が起きている時には、人はどうしても悲観的な眼鏡で物事を判断しがちです。が、長い目で見て正しい方向に進んでいるとすれば、確実に良い事が起きて来るはずです。良いことにもしっかりと目を向けて、そして現場の方々には「あなた方は正しい方向に行っているから今のままで大丈夫、一緒に成功しましょう」という事を自分が心の中から信じて相手に接する必要があると思っています。 変革のリーダーを担うということは、簡単なことではないと思います。自分の中で確固たるものを持って決断していかなければなりません。 私はビジネススクールで「変革のリーダーになりたい」という方に対して、「本当に心から変革のリーダーになりたいと考えているかどうか、覚悟が必要だよ」という事をお話しています。変革のリーダーというと、スポットライトを浴びるロックスターのようなイメージを持っている方もいるかもしれませんが、一番大切なことは「会社を正しい方向に持っていきたい」、「会社の為に（犠牲を払ってでも）リーダーの役割を担いたい」と心から思って、自分の私利私欲ではなくて、会社にとって正しい事をしようと思う信念や志が大切だと思います 一方で、「ぜひ変革のリーダーの元で働きたい」という相談も持ち込まれるのですが、その方々には、「あなたは実現すべき変革そのものを自分自身心から信じきれますか？つらい時でも変革をやりきろうという覚悟を持てますか？」と問いかけています。自分が納得していない変革に、ただ単に変革に関わりたいからという理由で関わることに私は強く反対をしています。結果的にそれが自分も会社をも不幸にすると思っているからです。もしも本当にあなたが心からその変革に賛同できるのであれば、そして自分にはその十分なスキルがあり、ファクトとロジックでちゃんと考えて透明性を持って情報を隠さない覚悟があり、悲観的だけではなく全体を客観的かつ前向きに見る力があるというのであれば、そして何よりも自分自身を信じられるのであれば、是非取り組んでいただきたいと思います。 変革という仕事は、決して楽な仕事ではありません。新規事業と比べてもやはり時間が掛かる仕事だと思っていますし、高い複雑性の中で判断をしていかなければならない仕事です。本当に取り組むかどうかはよく考えて取り組んでいただきたいと思います。一方で、この仕事ほどある意味で実践知、実践の力が得られる経験はありません。この経験を通して大きな成長が出来るということも併せて皆さんにお伝えしておきたいと思います。 変革に取り組みたいという方、是非そういった覚悟を持って取り組んでいただきたいと思います。