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129 第118話

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10年前 
警視庁捜査第一課の管理官として赴任早々、3件の捜査本部の指揮を執る羽目になった陶の疲労は極限に達していた。
「管理官。ひどく疲れた様子です。さすがにお休みになった方が良いかと思います。」
ある係長が気を利かせて声をかけてきてくれた。
「そら休みたいさ…。けど不眠不休で動いてる現場を尻目に俺だけスヤーってわけにいかないだろ。」
「いやいや、管理官は捜査本部の頭脳。頭脳が疲弊してしまっては、正常な判断ができなくなります。半日でもいいですから休んでください。」
「そんなに俺ヤバい?」
「はい。顔に疲れたって書いてあります。」
陶は窓ガラスに映り込んだ自分の顔を見た。
ぼんやりと映り込む自分の目は充血し、その下にははっきりとクマのようなものが見える。
「ヤバいね…。」
「はい。その外見、現場の士気に影響します。」
「わかった。少し休む。」
陶は係長の進言通り、半日だけ自宅で休息をとることとした。
都会の雑踏
携帯電話の着信
ー休むって言ったろ…。
表示されるそれを見ると電話帳未登録の番号からだった。
一時的とはいえ仕事から解放されたことで気が緩んでいたのだろうか。
陶は警戒することもなくそれに出た。
「はい。」
「陶晴宗さんですね。」
「どちらさまですか。」
「朝倉と申します。」
「朝倉?」
「はい。」
「なぜこの電話を。」
「そんなことはたいした問題じゃありませんよ。むしろ何の警戒もなく電話に出る。そのあなたの不用心さの方が問題です。」
突然の電話でありながら自分を試すような物言い。
いつもの陶ならばここで相手をやり込める発言を展開するのだが、いまは疲労の局地。そんな余裕はない。くだらない電話に付き合う暇はないとして、そのまま無言でそれを切ろうとした。
「キャリアで捜一の管理官。久しぶりの逸材でもさすがに疲労困憊ですか。」
ーなんだこいつは。中の人間か。
「おまえは誰だ。」
「朝倉ですと言いました。」
「どこの朝倉だ。」
「石川。」
「イシカワ?」
「ああ。」
「イシカワなんて捜査本部はない。」
「くくく…。」
「何がおかしい。」
「お疲れだなぁ。」
ー何者だ。
「何者だっていわれても石川の朝倉としか言いようがない。家に帰って休息をとったら私のところに連絡をくれ。」
ーなんだ…。なんでこいつは俺の思っていることがわかるんだ。
「疲れてたら碌なことはない。電話もかけ間違える。だから私から先に電話をかけた。」
「…。」
「貴様はここの番号にかけ直すだけ。」
「…。」
「待ってるよ。」
電話は切られた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アラーム音
「んっ…。」
アラーム止める
見覚えのある天井。カーテン。壁紙。
自分を包み込む天国のような寝具。
周りには誰もいない。
間違いない自分の家だ。
ーそうだ。休めって言われて家に帰ったんだった…。
どの道を通ってどうやって家にたどり着いたかわからない。
途中、何かを食べた記憶もない。
目が覚めるとここにいた。
「ヤベぇわ…俺…。」
携帯電話を見ると誰からの着信も入っていない。
こんな穏やかな時間を過ごすのはいつぶりだろうか。
ギリギリまでこの平穏な時間を過ごそう。そう思った陶は枕に顔を埋めた。
「待てよ…。」
とっさに身を起こした彼は再び携帯電話を見る。
着信履歴に見覚えのない電話番号があった。
「家に帰って休息をとったら私のところに連絡をくれ。」
「夢じゃなかったのか…。」
「何者だっていわれても石川の朝倉としか言いようがない。」
「イシカワの朝倉って何なんだ…。イシカワ…朝倉…。朝倉ってのが名前だろう…。ってことはイシカワって…なによ?」
「貴様はここの番号にかけ直すだけ。」
「貴様だってよ。偉そうに…。」
陶は表示されている番号に電話をかけた。
呼び出し音*2
「おぉゆっくり休めたか?」
「あんた誰だ。」
「だから言っただろう。石川の朝倉って。」
「だからイシカワって何なんだ。」
「…。」
「おい。」
「あらあらまだお疲れか?陶管理官。」
「こっちは質問してんだ。質問に質問で返すな、このタコ。」
「無礼だな。」
「は?」
「確かに頭頂部は昔に比べて寂しい事になっているのは事実だが、タコ呼ばわりされるほど禿げ上がってない。」
「だからそんなこといっれる訳じゃ…。」
「県警本部長の朝倉だ。」
「は?」
「石川の本部長、朝倉忠敏だ。」
「え?」
「鈍いぞ。陶。」
「え?は?」
血の気が引いた瞬間だった。
「あ…いや…あの…。なんで石川の本部長が…。」
「だめなのか?電話をかけたら。」
「あ、いえ…。」
「キャリアで桜田門の捜一管理官。さぞ優秀な人材かと思って様子伺いの連絡したらこの程度か。」
「も、申し訳ございません!」
「何が?」
「朝倉本部長とはいざ知らず、非礼の数々。誠に申し訳ございません!」
「あー。」
「本当に申し訳ございま…せんでした…。」
「いい。たいした問題じゃない。こちらも説明不足だった。」
「いやいやいや…。私が愚かでした。この非礼、伏してお詫びいたします。」
「もういい。」
「…。」
「どうだ?捜一は。」
「重責です。」
「あぁそういう建前のことを聞いているんじゃなくて。」
ーなんだこの男。会ったこともない俺に、なんでこんなにグイグイ来るんだ…。
「電話では無理か。」
「いや…。」
「貴様の家の近くに公園があるだろう。そこで10分後待っている。」
「え?」
電話は切られた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
犬の散歩でそこを通過する者。
子供の求めに応じてここに連れ出された感じの母親。
肩を寄せ合うカップルなど
陶の自宅から徒歩で5分の場所にある平日夕方のこの公園は賑わっていた。
ふとある人物が陶の視線に入ってきた。
仕事をさぼって休憩中と見える、頭頂部がいい具合にはげ上がったうだつが上がらない中年男性がひとり、ベンチに腰をかけていた。
「確かに頭頂部は昔に比べて寂しい事になっているのは事実だが、タコ呼ばわりされるほど禿げ上がってない。」
ーあれか…。
彼の横にかけた陶は静かに声をかけた。
「朝倉本部長ですか…。」
「どうしてわかった。」
「完全に周囲に同化してました。これは公安経験者じゃないとできません。」
「ほう…。ここに来るまでのわずかな時間に俺のことを調べたか。」
「大まかですが。」
「ふっ…。」
「スパイ防止法の成立に尽力したが残念ながらそれは廃案。法律の成立の可能性が消えてしまったのを見て、あなたは日本海側の警察本部の勤務を願い出ました。そう。現場の実力でそれを封じ込めることにしたのです。そして現在石川の本部長となっています。」
「半分正解。半分間違い。」
「はい?」
「で、どうだ?捜一の管理官は。」
「…正直激務過ぎます。」
「抱え込みすぎだ。」
「といいますと?」
「司令塔は司令塔の仕事をしろ。現場に首を突っ込みすぎるな。役職に応じた役割ってものがある。貴様は管理官だ。その名の通り管理、そして指揮に徹しろ。」
「しかし…。」
「他の管理官の仕事ぶりをみて、自分もそうあらねばならんと思い込んでいるに過ぎん。よく見ろ。そいつら、貴様以外はみんなノンキャリだろう。」
「はい…。」
「あいつらのほぼ上がりのポストが管理官だとすれば俺らはまだ始まりの途上。とすればパワーのかけ方も違う。その辺りをわきまえるんだな。でないとすぐに潰れるぞ。」
「…。」
「いいかあいつらもおまえを見てるんだ。自分たちの首を預けるに値する人間かどうかって値踏みしてるんだ。いくら苦楽を共にしてくれても、結果が伴わなければ上司として無価値だ。そんなもんだぞ陶管理官。」
「それは捜一の課長からも言われています。」
「捜一の課長はノンキャリ指定席だからな。あいつらのいうことはノンキャリの総意と思って差し支えない。せいぜい味方に取り込むんだ。」
「はい。」
「ま、いまの貴様を見ていると昔が懐かしくなるよ。俺も貴様のような時期があった。」
「え?本部長もですか?」
「あぁ俺は警視庁じゃなかった。その点貴様は俺より優秀ってことだよ。」
「あ…いえ…。」
「とにかくキャリアで警視庁捜一管理官なんてもんはなれるもんじゃない。自信を持て。陶管理官。」
「は。はいっ。」
「ははは。素直でいいぞ。」
「ありがとうございます。」
「ただ、いまの貴様がいっぱいいっぱいになっているのも事実。まずは早急に貴様の分身となる人材を発掘しろ。そしてそいつを格別の待遇を持って取り籠め。自分の負担を分散させろ。」
「それはキャリア、ノンキャリ関わらずですか。」
「できればノンキャリがいい。キャリアになると妙な利害関係を持ち出す可能性がある。」
「わかりました。アドバイスの通りにいたします。」
「まずは一人のノンキャリを貴様に紹介する。」
朝倉は一枚の写真を陶に見せる。
「これは?」
「佐々木統義警部補。こいつは俺の石川の分身だ。」
「本部長の…。」
「ああ石川における…な。こいつを貴様に紹介する。俺の分身だと思って気軽に話してくれ。きっと貴様の力になるはずだ。」
「どうしてそんなことまで。」
「有望だからだ。」
「?」
「警視庁捜査一課課長はノンキャリの指定席。そこをキャリアの貴様がまず押さえるんだ。」
「え?」
「そのために自分の分身を作れ。早急にな。」
まぁ肩の力を抜いて適度に頑張れ。そう言って朝倉は立ち上がった。
「本部長。」
「なんだ。」
「捜一課長はノンキャリの指定席。これは長年の伝統です。これを崩すのは並大抵の事ではありません。」
「貴様は並の人間ではない。だから捜一の管理監に抜擢された。自分が背負っている宿命を感じたまえ。」
「宿命?」
「鈍いぞ陶。」
そう言って朝倉は姿を消した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから10年経った現在
ノック音
「どうぞ。」
ドア開く
「ご多用のところ失礼いたします。」
「内調の人間がなぜ私のところに?」
中に入ってきたのは内閣情報調査室の陶だった。
「今日は先生だけにお耳に入れたいことがありまして、伺った次第です。」
「わたしだけに?」
「はい。野党前進党の幹事長を務める英才、仲野康哉先生でなければ、我が国に降りかかる災厄を収拾できません。」
「我が国に降りかかる災厄?」
「はい。」
「なんですか。それは。」
「アルミヤプラボスディア。」
「アルミヤプラボスディア…。」
「ご存じですね。」
「存在は。」
「さすがロシア通の仲野先生です。」
「官邸マターです。なんで官邸じゃなく私なんですか。」
「現政権には期待できません。」
「…。」
まぁ掛けてと仲野に促されて、陶はソファに座った。
「内調の人間が官邸に期待できないという発言。耳を疑いますね。」
「期待できないものを期待できないと正直に言うことさえできないようだと、これまた非常にマズい状態であるとお思いになりませんか?」
「何事も立場というモノがあるでしょう。」
「…確かに。」
「で、私に何ができると?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【Twitter】
https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM
ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。
皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。
すべてのご意見に目を通させていただきます。
場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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129 第118話

オーディオドラマ「五の線3」

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警視庁捜査第一課の管理官として赴任早々、3件の捜査本部の指揮を執る羽目になった陶の疲労は極限に達していた。
「管理官。ひどく疲れた様子です。さすがにお休みになった方が良いかと思います。」
ある係長が気を利かせて声をかけてきてくれた。
「そら休みたいさ…。けど不眠不休で動いてる現場を尻目に俺だけスヤーってわけにいかないだろ。」
「いやいや、管理官は捜査本部の頭脳。頭脳が疲弊してしまっては、正常な判断ができなくなります。半日でもいいですから休んでください。」
「そんなに俺ヤバい?」
「はい。顔に疲れたって書いてあります。」
陶は窓ガラスに映り込んだ自分の顔を見た。
ぼんやりと映り込む自分の目は充血し、その下にははっきりとクマのようなものが見える。
「ヤバいね…。」
「はい。その外見、現場の士気に影響します。」
「わかった。少し休む。」
陶は係長の進言通り、半日だけ自宅で休息をとることとした。
都会の雑踏
携帯電話の着信
ー休むって言ったろ…。
表示されるそれを見ると電話帳未登録の番号からだった。
一時的とはいえ仕事から解放されたことで気が緩んでいたのだろうか。
陶は警戒することもなくそれに出た。
「はい。」
「陶晴宗さんですね。」
「どちらさまですか。」
「朝倉と申します。」
「朝倉?」
「はい。」
「なぜこの電話を。」
「そんなことはたいした問題じゃありませんよ。むしろ何の警戒もなく電話に出る。そのあなたの不用心さの方が問題です。」
突然の電話でありながら自分を試すような物言い。
いつもの陶ならばここで相手をやり込める発言を展開するのだが、いまは疲労の局地。そんな余裕はない。くだらない電話に付き合う暇はないとして、そのまま無言でそれを切ろうとした。
「キャリアで捜一の管理官。久しぶりの逸材でもさすがに疲労困憊ですか。」
ーなんだこいつは。中の人間か。
「おまえは誰だ。」
「朝倉ですと言いました。」
「どこの朝倉だ。」
「石川。」
「イシカワ?」
「ああ。」
「イシカワなんて捜査本部はない。」
「くくく…。」
「何がおかしい。」
「お疲れだなぁ。」
ー何者だ。
「何者だっていわれても石川の朝倉としか言いようがない。家に帰って休息をとったら私のところに連絡をくれ。」
ーなんだ…。なんでこいつは俺の思っていることがわかるんだ。
「疲れてたら碌なことはない。電話もかけ間違える。だから私から先に電話をかけた。」
「…。」
「貴様はここの番号にかけ直すだけ。」
「…。」
「待ってるよ。」
電話は切られた。
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アラーム音
「んっ…。」
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見覚えのある天井。カーテン。壁紙。
自分を包み込む天国のような寝具。
周りには誰もいない。
間違いない自分の家だ。
ーそうだ。休めって言われて家に帰ったんだった…。
どの道を通ってどうやって家にたどり着いたかわからない。
途中、何かを食べた記憶もない。
目が覚めるとここにいた。
「ヤベぇわ…俺…。」
携帯電話を見ると誰からの着信も入っていない。
こんな穏やかな時間を過ごすのはいつぶりだろうか。
ギリギリまでこの平穏な時間を過ごそう。そう思った陶は枕に顔を埋めた。
「待てよ…。」
とっさに身を起こした彼は再び携帯電話を見る。
着信履歴に見覚えのない電話番号があった。
「家に帰って休息をとったら私のところに連絡をくれ。」
「夢じゃなかったのか…。」
「何者だっていわれても石川の朝倉としか言いようがない。」
「イシカワの朝倉って何なんだ…。イシカワ…朝倉…。朝倉ってのが名前だろう…。ってことはイシカワって…なによ?」
「貴様はここの番号にかけ直すだけ。」
「貴様だってよ。偉そうに…。」
陶は表示されている番号に電話をかけた。
呼び出し音*2
「おぉゆっくり休めたか?」
「あんた誰だ。」
「だから言っただろう。石川の朝倉って。」
「だからイシカワって何なんだ。」
「…。」
「おい。」
「あらあらまだお疲れか?陶管理官。」
「こっちは質問してんだ。質問に質問で返すな、このタコ。」
「無礼だな。」
「は?」
「確かに頭頂部は昔に比べて寂しい事になっているのは事実だが、タコ呼ばわりされるほど禿げ上がってない。」
「だからそんなこといっれる訳じゃ…。」
「県警本部長の朝倉だ。」
「は?」
「石川の本部長、朝倉忠敏だ。」
「え?」
「鈍いぞ。陶。」
「え?は?」
血の気が引いた瞬間だった。
「あ…いや…あの…。なんで石川の本部長が…。」
「だめなのか?電話をかけたら。」
「あ、いえ…。」
「キャリアで桜田門の捜一管理官。さぞ優秀な人材かと思って様子伺いの連絡したらこの程度か。」
「も、申し訳ございません!」
「何が?」
「朝倉本部長とはいざ知らず、非礼の数々。誠に申し訳ございません!」
「あー。」
「本当に申し訳ございま…せんでした…。」
「いい。たいした問題じゃない。こちらも説明不足だった。」
「いやいやいや…。私が愚かでした。この非礼、伏してお詫びいたします。」
「もういい。」
「…。」
「どうだ?捜一は。」
「重責です。」
「あぁそういう建前のことを聞いているんじゃなくて。」
ーなんだこの男。会ったこともない俺に、なんでこんなにグイグイ来るんだ…。
「電話では無理か。」
「いや…。」
「貴様の家の近くに公園があるだろう。そこで10分後待っている。」
「え?」
電話は切られた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
犬の散歩でそこを通過する者。
子供の求めに応じてここに連れ出された感じの母親。
肩を寄せ合うカップルなど
陶の自宅から徒歩で5分の場所にある平日夕方のこの公園は賑わっていた。
ふとある人物が陶の視線に入ってきた。
仕事をさぼって休憩中と見える、頭頂部がいい具合にはげ上がったうだつが上がらない中年男性がひとり、ベンチに腰をかけていた。
「確かに頭頂部は昔に比べて寂しい事になっているのは事実だが、タコ呼ばわりされるほど禿げ上がってない。」
ーあれか…。
彼の横にかけた陶は静かに声をかけた。
「朝倉本部長ですか…。」
「どうしてわかった。」
「完全に周囲に同化してました。これは公安経験者じゃないとできません。」
「ほう…。ここに来るまでのわずかな時間に俺のことを調べたか。」
「大まかですが。」
「ふっ…。」
「スパイ防止法の成立に尽力したが残念ながらそれは廃案。法律の成立の可能性が消えてしまったのを見て、あなたは日本海側の警察本部の勤務を願い出ました。そう。現場の実力でそれを封じ込めることにしたのです。そして現在石川の本部長となっています。」
「半分正解。半分間違い。」
「はい?」
「で、どうだ?捜一の管理官は。」
「…正直激務過ぎます。」
「抱え込みすぎだ。」
「といいますと?」
「司令塔は司令塔の仕事をしろ。現場に首を突っ込みすぎるな。役職に応じた役割ってものがある。貴様は管理官だ。その名の通り管理、そして指揮に徹しろ。」
「しかし…。」
「他の管理官の仕事ぶりをみて、自分もそうあらねばならんと思い込んでいるに過ぎん。よく見ろ。そいつら、貴様以外はみんなノンキャリだろう。」
「はい…。」
「あいつらのほぼ上がりのポストが管理官だとすれば俺らはまだ始まりの途上。とすればパワーのかけ方も違う。その辺りをわきまえるんだな。でないとすぐに潰れるぞ。」
「…。」
「いいかあいつらもおまえを見てるんだ。自分たちの首を預けるに値する人間かどうかって値踏みしてるんだ。いくら苦楽を共にしてくれても、結果が伴わなければ上司として無価値だ。そんなもんだぞ陶管理官。」
「それは捜一の課長からも言われています。」
「捜一の課長はノンキャリ指定席だからな。あいつらのいうことはノンキャリの総意と思って差し支えない。せいぜい味方に取り込むんだ。」
「はい。」
「ま、いまの貴様を見ていると昔が懐かしくなるよ。俺も貴様のような時期があった。」
「え?本部長もですか?」
「あぁ俺は警視庁じゃなかった。その点貴様は俺より優秀ってことだよ。」
「あ…いえ…。」
「とにかくキャリアで警視庁捜一管理官なんてもんはなれるもんじゃない。自信を持て。陶管理官。」
「は。はいっ。」
「ははは。素直でいいぞ。」
「ありがとうございます。」
「ただ、いまの貴様がいっぱいいっぱいになっているのも事実。まずは早急に貴様の分身となる人材を発掘しろ。そしてそいつを格別の待遇を持って取り籠め。自分の負担を分散させろ。」
「それはキャリア、ノンキャリ関わらずですか。」
「できればノンキャリがいい。キャリアになると妙な利害関係を持ち出す可能性がある。」
「わかりました。アドバイスの通りにいたします。」
「まずは一人のノンキャリを貴様に紹介する。」
朝倉は一枚の写真を陶に見せる。
「これは?」
「佐々木統義警部補。こいつは俺の石川の分身だ。」
「本部長の…。」
「ああ石川における…な。こいつを貴様に紹介する。俺の分身だと思って気軽に話してくれ。きっと貴様の力になるはずだ。」
「どうしてそんなことまで。」
「有望だからだ。」
「?」
「警視庁捜査一課課長はノンキャリの指定席。そこをキャリアの貴様がまず押さえるんだ。」
「え?」
「そのために自分の分身を作れ。早急にな。」
まぁ肩の力を抜いて適度に頑張れ。そう言って朝倉は立ち上がった。
「本部長。」
「なんだ。」
「捜一課長はノンキャリの指定席。これは長年の伝統です。これを崩すのは並大抵の事ではありません。」
「貴様は並の人間ではない。だから捜一の管理監に抜擢された。自分が背負っている宿命を感じたまえ。」
「宿命?」
「鈍いぞ陶。」
そう言って朝倉は姿を消した。
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それから10年経った現在
ノック音
「どうぞ。」
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「内調の人間がなぜ私のところに?」
中に入ってきたのは内閣情報調査室の陶だった。
「今日は先生だけにお耳に入れたいことがありまして、伺った次第です。」
「わたしだけに?」
「はい。野党前進党の幹事長を務める英才、仲野康哉先生でなければ、我が国に降りかかる災厄を収拾できません。」
「我が国に降りかかる災厄?」
「はい。」
「なんですか。それは。」
「アルミヤプラボスディア。」
「アルミヤプラボスディア…。」
「ご存じですね。」
「存在は。」
「さすがロシア通の仲野先生です。」
「官邸マターです。なんで官邸じゃなく私なんですか。」
「現政権には期待できません。」
「…。」
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「…確かに。」
「で、私に何ができると?」
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