119.2 第107話【後編】

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個人が警察組織を打倒する。そんなものどう考えても無理だ。
ただでさえ非正規雇用の身分で経済的に不安定。それが故に精神状態も不安定。
そこに妹の仇を討つために警察組織を打倒するという壮大な野望を植え付けられた彼は、自身の現実と目標との果てしない距離に絶望し、社会に対する怨みを増幅させる。
この状態が続けば朝戸の精神は消耗しきる。
それが光定には見えていた。
だから鍋島の複製を作り出すための実験を、朝戸に行った。
もしも鍋島能力を朝戸が手に入れることができたとしたら、彼なりの復讐を成し遂げることができるだろう。
なぜなら対象を意のままに操ることができるようになるのだから。
警察のお偉方が処罰されるよう鍋島能力を使えばいい。
自分が直接的な手を下すことなく、相手を絶望のそこに突き落とすことができる。足がつくことなど考えなくていい。
そして警察からは然るべき謝罪と賠償を得ればいい。
そうすれば心の安寧は取り戻せるはずだ。
しかし結果は失敗だった。
朝戸には鍋島のような力を与えることはできなかった。
彼に残ったのは記憶障害と猛烈な頭痛だけ。
東一の患者へのテストから、朝戸の末路は見えている。
耐え難い頭痛、記憶障害から開放されるために自死するのみだ。
結果的に光定は朝戸を死もたらす死神となったのだ。
「ナイトを救う方法を探してたんじゃないのか。クイーン。」
「…。」
「ナイトが催眠の副反応に悶え苦しむ姿。それを作り出したのは自分だってお前言ってたよな。お前は悪くはないさ。ナイトが勝手に望んだんだ。お前はそれに応えただけだ。応えて催眠をかけた結果、ああなった。ナイトもそれは理解している。でもそれはあいつが本当に望んでいた結果じゃないよな。あいつは警察への復讐を遂げることを本当は望んでいたんだよな。」
「…。」
「だったらその復讐が果たせそうなチャンスを逃すな。いま目の前に、世の中をガラガラポンしようとしてる奴がいるんだ。チャンスだろう。」
「…俺らみたいなちっぽけな存在が何をできるって言うんだ。できっこないことを夢想して悦に浸っていても、現状はちっとも変わりやしないよ。」
「そういう諦めの良さが世の中を変えることに何の役にも立たないことくらい、賢いお前なら分かるよな。」
この空閑のメッセージには光定は反論できなかった。
「夢想でも何でもない。俺にはプランがある。そしてそれを実現するための資金もコネクションも。」
「何だそれ。」
「俺はあの日以来、この日のためだけに全ての時間を費やしてきた。悦に浸る名ばかりの活動家とは違うんだ。」
「どうだか…。」
「証明しようか。」
ここでメッセージは止まった。
今、光定は自分の車の中にいる。
時刻は21時。病院の駐車場だ。
暗闇の車内でラップトップを開き、コミュ専用のメッセンジャーアプリを使用して空閑とチャットをしていた。
古いものから徐々に消えていく、チャットのタイムライン表示を眺め彼は大きくため息をついた。
突然車の助手席のドアが開かれ、目出し帽を被った男が乗り込んできた。
流れるように胸元から拳銃を取り出した彼は、その銃口を光定の口に差し込んだ。
「こういうこともできる。」
空閑からメッセージが届いていた。
「あ…が…。」
恐怖しか感じない。
目からは涙が溢れ、口からは涎が滝のように流れ落ちる。
「いつでもできるんだ。ただやんないだけ。」
「あ…あ…。」
「どう?夢想かな?」
光定はパソコンを指差して空閑に返信したいと精一杯のジェスチャーで伝える。
しかし男は光定の口から銃を抜かない。そのままの状態で返信しろと言う。
「ごめん。僕が悪かった。」
この文章を打つとしばらくして助手席の男の携帯が鳴った。
それを受け目出し帽の男は光定の口に突っ込んでいた銃を引き抜き、音もなくその場から姿を消した。
咳き込む音
「何はともあれ、とりあえず大川尚道をこちらに取り込みたい。だからいい方法教えてくれないか。」
「…わかった。」
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「随分と思い悩んでいらっしゃるみたいですね。クイーン。」
「…。」
「だったら継続したほうが良いんじゃないんですか。このままナイトとビショップを観察し、実験の結果を見守るって具合に。」
「…。」
「反論をしないあたり、心はどうも決まってるみたいですね。」
「…。」
「一度この世界に足を踏み入れたら。ね、クイーン。わかってますよね。」
「…。」
「そう。止めると言うことは、ね。」
光定は相馬の前で頭を抱え唸り声を発するしかなかった。
「うー…うー……。」
ノック音
「坊山です。相馬さんいらっしゃいますか。」
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