105.1 第93話【前編】

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5年前…
「はい。」
「光定先生ですか。外来に先生を訪ねてきた方がいらっしゃってまして。」
「だ…れ?」
「あの…朝戸さんとかおっしゃっています。」
「朝戸?」
「はい。どうします。」
「あ…じゃあ…僕の部屋まで案内してあげて…。」
「え、いいんですか。」
「う…ん…。」
「でも第2小早川研究所の立ち入りは小早川先生から厳重に管理せよと言われているんですが。」
「問題ない。その人は信頼できる人だ。」
ドアが開く音
「よう。」
「どうしたの。」
「どうもこうもない。」
そう言うと朝戸は1枚の写真を写真を光定に見せた。
「なにこれ?」
「犯人。」
「え!?」
「紗季を殺した犯人さ。」
「…本当なのか。」
朝戸は首を縦に振る。
「じゃあさっそく警察に…。」
「ダメだった。」
「え?なんで?」
「もう行ってきた。何回も。でも警察として捜査は十分に行っているってさ。」
「どういうこと?それ。」
「俺の訴えは却下ってこと。」
「はぁ!?何いってんの!?警察の捜査が不十分だから朝戸、君が個人的に調べたんだろ。」
「そう。」
「なに?その写真の奴の証拠が…とか?」
「証拠はある。」
「じゃあ。」
「とにかく警察としては十分に捜査をしている。警察に任せてほしいってさ。」
「ってことは…。」
「体の良いお断りさ。」
「バカか!」
光定は声を荒げて机を叩いた。
「お前…そんな怒ることあるんだ…。」
「当たり前だ!こんなの怒らずにいられるか!遺族だぞお前は。遺族の訴えに耳を貸さない警察だと?ふざけんな!」
鼻息荒く部屋の中をうろつく光定はふと朝戸を見た。
彼の目にはいっぱいの涙が湛えられていた。
「悔しい…悔しいよ…光定…。」
「朝戸…。」
「この写真のガキ…。警察のお偉方の倅なんだってさ…。」
「え…。」
「これ見てくれ。」
光定はペラ紙の資料らしきものを受け取った。
「事故当時、ボンネットあたりを凹ませた車両が走り去っていったって目撃情報がある。そこにあるのが多分その車両の写真。で、その下にあるのがその車が止めてある写真。」
「この止めてある写真って…普通に駐車場じゃん。」
「そう。そこの契約者が警察のお偉方ってわけ。」
「十分な証拠じゃん。こんだけ揃ってて警察動かないの!?」
朝戸はうなずく。
「マジかよ!!」
「マジ。」
「バカかよ!!死ねよ!!」
「それ。」
「え?」
「それなんだ。」
「うん?」
「俺、今回ばっかりはマジでぶっ殺そうかと思ってんの。」
光定は朝戸からただならぬ殺気を感じた。
「そこで光定。君に相談があってここに来たんだ。」
「ちょっと待って…殺すって…ははは…冗談だろ。」
「ううん。本気。」
「ダメだろ…いくらなんでも…。」
「なんで?さっきお前死ねよって言ったじゃん。」
「言ったけど…。」
「考えてみてくれ。ほらのうのうと生きてんの。こいつ。」
朝戸は犯人と言われる人物が写った写真をペラペラと光定に見せる。
「方やこっちは犯人を突き止めたのにそれもみ消され、泣き寝入り状態。妹の紗季は犬死。不平等だよ。」
「う…うん…。」
「不平等じゃない?」
「不平等…さ…。」
「不平等はもう懲り懲りさ…。」
「朝戸…。」
「何なんだよ!ふざけんな!どいつもこいつも甘い目に会いやがって。俺は人より努力してんだよ!物心ついたときから受験勉強頑張ってやってきて、それなりになんとかいい大学に行ったんだ。そしたら氷河期だよ。何なんだよ!何のために勉強したんだって!ゴミみたいなところに就職するために勉強してきたんじゃねぇんだよ!ゴミしかないなら始めっから勉強なんかしなかったって!で、一旦非正規でその場を凌ごうと思ったら何?非正規は職歴に入らない?アホか!?誰も好きで非正規やってんじゃねぇ!お前らがしくじったから俺は非正規なんだって!おかげさまで俺は未だに非正規。バイトの掛け持ちなんざしてる。そんな中で妹がひき逃げ。ひき逃げした当人は警察のお偉方の倅。その身分故にお咎めなし。なにこれ!?どこの階級社会だよ!どこの中世だよ!ふざけんな!どいつもこいつも死んでしまえ!この国なんか滅んでしまえ!もううんざりなんだよ!」
感情の爆発だった。
錯乱にも近い状態の彼を光定は黙って見るしかなかった。
大声で叫ぶ朝戸であったがしばらくして静かになった。
「警察の倅。このネタは警察からもらった。」
「え?警察から?」
「俺のことは警察の中のあるルートから聞いたって。突然俺のバイト先に来てさ。これが紗季のひき逃げの真実だって言って、この資料を俺にくれた。」
「それって…なんで?」
「ワカンネ。ただ見るに見かねたってさ。」
「で?」
「自分には警察の中の闇を正す力はない。でも俺にはできるかもしれないって。」
「え?どういうこと?」
「俺も同じ質問をそいつにした。するとそいつはこう言った。『光定を知ってるかって』」
「俺?」
「ああ。」
「なんで俺のこと…。」
「コミュで会ったことがあるって。」
『コミュ?俺がその警察官に?」
「うん。」
「なんて名前?」
「名前は職業柄明かせないって。」
「誰だろう。」
「とにかくお前を頼れって。お前なら俺の思いを成就させてくれるって言ってた。だから今日ここに来た。」
その警察官とは一体誰なのか。光定は皆目検討もつかなかった。
「光定。お前、なんかすごい研究をしてるんだって?」
「え…。」
「そいつ言ってたよ。それが役に立つって。」
ーえ…なんでその警察が俺の研究のことを…。
「何研究してんだ?お前。」
「あ…いや…別に…。」
「もったいぶらずに教えてくれよ。でその力俺に分けてくれないか。」
「いや…これはまだ実用化できる代物じゃなくて…。」
「光定…。」
彼は気がついた。目の前の朝戸が絵に書いたようにがっかりしていることを。
「ど、どうしたの。」
「だめか。」
「だめって…。」
「お前も結局は俺を見放すんだ。」
「ちょ…チョット待って。何言ってんの?そもそもなんで、君はそんなどこの誰かもわかんない人の言う事を鵜呑みにするんだ。」
「でたらめなのか、その研究ってやつは。」
「デタラメとは言わないけど…。」
「俺はぶっ壊すんだ!」(かぶせて)
「朝戸…。」
「はっきり言ってもう法的手続きとかどうでもいいの!とにかく破滅させたいの!警察を!そうすりゃ少しは溜飲も下げれるって!」
「…。」
「どんだけ我慢すればいいんですか!?どんだけ待てばいいんですか!?」
「…。」
「生まれてこの方我慢することしかしてこなかった俺に、なお我慢しろと!?もうできねぇよ!」
そう言うと朝戸は光定に渡していた資料を奪いとり、それをかばんに片付けた。
そして踵を返した。
「もういい。実力行使する。」
「何言ってんだよ。待って。」
「待たない。もうお前と会うことはないだろうよ。」
研究室の扉に手をかけたときのことである。
「待って!」
「…。」
「待ってくれ朝戸。実力行使ってなんだよ。」
「…言わせんな。」
「殺すのか。」
「だから言わせんな。」
「殺すのか!」
振り返った朝戸は光定に向かってうなずいた。
「殺したらどうする。」
「…警察に捕まるのも癪だ。どこかで俺も死ぬ。」
「やめろ。」
「なんで。」
「汚物を消毒して、なんで君が死ななければならないんだ。」
「なに?」
「朝戸。君が死ぬ必要はない。死ぬのはそいつと警察だけでいい。」
「ふっ…おいおい。流石にオレ一人で警察に突撃かまして全滅させるなんてできねぇぞ。」
「わかってる。別のアプローチがある。」
「別のアプローチ?」
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