116 第104話

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金沢郊外のとあるテナントビル。
その中のひとつの扉には一枚の紙が貼られていた。
「体調不良のためしばらくの間休講とさせていただきます。」
この貼り紙をみた塾生たちは皆、それをスマホで撮りどこかに送っている。
その場で親に電話で連絡を取るものもいるし、これ幸いと友達と遊びに行く連中もいる。
その行動は人それぞれだ。
事前に案内が出ていなかったのだろう。皆、驚きを隠せない様子だった。
「千種の死を受けて急の休み。(゚ν゚)クセェな。」
踵を返した古田は外に出た。
ここ数日振りっぱなしだった雨がようやく上がったようだ。
濡れた地面に街灯の明かりが反射して、キラキラと輝いて見える。
こころなしか空気もいつもより澄んでいるようだ。
しかし彼の心はそれとは対照的に晴れない。
「っても、今のワシには空閑を追う術がない…。」
携帯が鳴る。
ちゃんねるフリーダムの加賀からだ。
「すまんな…。いまは電話に出る気になれんわ。」
着信音が切れる
近くに止めてあった自分の車に乗り込んだ古田はため息をついた。
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「しばらく休暇をとれ?」
「はい。」
「なんですか突然。」
「業務に支障が出てまして。」
「なんで?」
「古田さんお疲れでしょう。」
「いいえ。疲れてなんかいません。」
「いや疲れとる。」
「なにが。」
「あの、さっきも同じやり取りしてるんですけど。」
「…へ?」
「えぇ…。」
「…。」
「とにかく古田さんは休んでください。古田さんの代わりは冨樫をあてます。」
「んな、マサさんやと…。」
「心配はあるでしょうが、それ以上に自分は古田さんの身体が心配です。」
「…そんなに、ですか。」
「はい。」
「はぁ…。」
「まずはしっかり食べて、7時間以上の睡眠をとってください。ゆっくり風呂入って、ただダラダラしてください。」
「その後は?」
「ですからそういう先のこととかは考えんととにかく休むんです。」
「ですが。」
「命令です。」
「…。」
「いいですか。命令ですよ。」
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目の前に中華料理屋が見えた。
そのすぐ横にはコンビニもある。
「岡田のだらまの言うとおりにしてやるか…。」
このとき彼の口元は僅かながら緩んでいた。
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「はっ!」
突然背後から自分の肩を叩かれた坊山は驚き振り返る。
そこには相馬がいた。
「あ!ああ!」
「しーっ。」
とっさに相馬は坊山を鎮め、彼と一緒に聞き耳を立てる。
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「え?ナイトって何?」
「…。」
「…ナイトって何よ。」
「朝戸のことだ…。」
「なに?それ。あだ名みたいなやつ?」
「そう…。」
「あ、そう。」
「朝戸だけは僕のことをまっさらの目で見てくれたんだ…。」
「…。」
ナイトというあだ名を口走ってなぜ一瞬黙ったのだ。ひょっとしてこのナイトというあだ名が外に知られるのはまずいことなのか。三波の直感はそこにひっかかるものを感じた。
「お願いだ。朝戸を助けてくれ。」
「だから何遍も言ってるでしょう。助けるのは俺じゃない。」
「頼むって。」
堂々巡りの会話が続くこの状態に三波は思わずため息を付いてしまった。
「はぁー…。」
「お願いだ。」
「自分がなんとかしろよ。」
「え?」
「人ばっかり頼るんじゃないよ。自分がそのナイトを引っ張り出してやれよ。」
「いや、それは…。」
「さっきから何なんだよ。自分で蒔いた種じゃねぇかよ。瞬間催眠の実験をそこらじゅうでやっておいて、気づいたらとんでもないことになってて怖くなって、収集つかんくなって助けてください。アホかよ。」
「…。」
「じゃあさ、どうすりゃそのナイトを助けたことになんの?テロを思いとどまらせればそれでめでたしめでたしなの?そりゃあそのテロによる被害者が出ないんだから、それはそれでいいことなんだけどさ。そのナイトってやつはそれで救われるわけ?」
「ってかナイトって言うのやめてくれないか…。」
「は?」
「なんか第三者にその名前言われたくない。」
「なんで。」
「なんでも。」
ーなんだこいつ…。やっぱりナイトってなんか意味ありげだな。
「で、どうしたいのさあんたは。警察は駄目ってどうすりゃいいんだよ。そもそもなんで警察にそいつ恨みなんか持ってんだよ。」
光定は口をつぐんだ。
3日後の5月1日、金沢駅で何かしらのテロ事件が発生する。それはこの光定という男と旧知の仲である朝戸という男、別名ナイトの手で決行されるらしい。それを主導しているのが空閑という男。三波に妙な接触を図った男だ。
空閑は光定によって鍋島能力すなわち瞬間催眠を自在に操れる力を手にしたかに見えた。
が、それは不完全のものだということがわかった。
三波はあらためて呆れた。
突然自分と直接コンタクトを取って来たかと思えば、空想のような話を並べ立てる。
なんだこの男。
客観的に見れば彼の発言はただの異常者による戯言。中二病を拗らせた妄想の爆発でしかない。
しかしこの男、事実をしっかり抑えている。
午前中に東一で小早川と会っていたこと。空閑に妙な接触をされたこと。
これらは自分しか知り得ない事実だ。
この機密情報を知る術を彼は持っている。
この事実だけは彼の発言に一定の説得力をもたせた。
「なぁなんで朝戸は警察のこと恨んでるんだ。」
「警察が揉み消した。」
「え?」
「警察がナイトを作り出した。」
ーおや?またナイトが出てきたぞ。
「どういうことよ、それ。」
「朝戸の妹を殺したのは警察のお偉方の倅。そのことを警察はもみ消した。」
「待て待てありえんでしょ。そんなの都市伝説のたぐいでしょ。」
「違う。僕は証拠をみた。」
「証拠?」
「そしてその証拠は警察からリークされた。」
「え?身内から?」
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「かなり香ばしい展開やなぁ…。」
ボソリと独り言をつぶやく坊山とは対象的に相馬の表情は険しいものだった。
おじさん二人が病室の扉を背にして、地べたにペチャっと座り込んで聞き耳を立てる姿を不審に思わないものは居ない。
看護師がときおり怪訝な顔を見せながら彼らの前を通過した。
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「見たんだ。朝戸の妹を轢き殺した車が警察幹部が借りる駐車場に止められている写真を。」
「その写真が警察の内部からリーク?」
「そう。その写真を持っても捜査中ってひとことで朝戸は追い返す。ここで朝戸の警察に対する恨みは決定的になった。」
「で、ナイトになった。」
「…。」
「ナイトになるって具体的にどういうことなんですか。」
「…。」
「言いたくないんですか。」
光定は黙ってしまった。
「ふーっ…。」
息をついて窓の際に経った三波は闇の部分が大きい金沢の夜景を見下ろした。
無言の時間は3分ほど続いた。
「俺ひとりに何ができるってんだ…。」
こう三波が自分にしか聞こえないほどの声でつぶやいたときのことである。
ドアがノックされた。
「光定先生。人事の坊山です。先生にお客様でして。」
二人は顔を見合わせた。
光定のほうが三波に何やらうなずき口を開いた。
「そういうことはスマホで連絡してって言ったでしょう。」
「あの…先生、スマホ持ってらっしゃらないようでして…。」
光定は白衣の胸のあたりを弄る。
あるはずのスマホがない。
どうやら失念したようだ。
「東一のお客様ですので、私の方でお引取りいただくわけにもいきません。いかが致しましょうか。」
「ちっ…。わかりました。すぐ行きます。」
また来ますと言って光定は病室を後にした。
外には坊山だけが待っていた。
「東一のお客様は、応接室で待ってらっしゃいます。」
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光定が居なくなった病室は静寂だった。
その静けさが情報が渋滞する三波の頭の中をさらにかき乱した。
「だからって俺に何ができるってんだ…。」
ドアを開く音
「三波さん。」
自分の名前を呼ぶ声がしたのでそちらを見る。
三波は言葉を失った。
「相馬…?」
「時間がないので手短に行きます。ご協力お願いします。」
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