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136 第125話

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「どうされました?」
背後から声をかけられた古田は振り返った。
黒衣をまとった住職らしき男性が立っていた。
「あ、どうも。」
古田は彼に向かって頭を下げる。
「あたながご覧になっていたこの銀杏の木は、藩政期に植えられたものと言われています。」
住職は銀杏の巨木を仰ぎ見る。
「はぁー…んでこんなに大きいんですな。この辺りを歩いとってら、ずいぶん立派な木があるなって思って、ついふらっと境内の中に入り込んでしましました。」
「あぁいいんですよ。どなたでも自由にお参りいただければいいんです。ご縁ですから。」
「あ、はい…。」
「どちらから?」
「駅の方からです。地元の人間です。」
「あぁそうなんですか。」
「仕事もリタイヤして、地元のことをちょっと見つめ直してみようかとこの通りをぶらぶらしとるんです。」
「どうです?」
「近すぎて当たり前すぎて何が良いのかわからんかった地元の景色。あらためてそれと向き合うとその良さを感じることができます。」
「それは結構なことです。」
銀杏の巨木の下にある木製のベンチに住職はよっこらしょっと言って腰をかけた。
「私のような人、結構いらっしゃるでしょう。」
「まぁポツポツですかね。なにせ観光地からはすこし離れてますから。」
「たしか私の先にも若い男性がこちらに入ったような気がしたんですが。」
「あぁあの方はお墓参りです。」
「お墓参り?」
「えぇ。奥に墓地があります。そちらでお参りされています。」
「あ…そうですか…。」
「気の毒な方なんです。」
「…と言いますと。」
「5年か6年前ですかね。あの人、妹さんを事故で亡くしてましてね。」
「それは気の毒に。」
「ちょっとこちらの方に来る用事があったようで、ついでにお参りに来られたようです。」
聞きもしない朝戸の身の上話をスラスラと話す住職に古田は違和感を感じた。
「そうですか…。」
「その妹さんの三回忌の法要をここで執り行ったとき、ちょっとけったいなことをあの人言ってましてね。」
「けったいなこと?」
「ええ。」
「それは?」
「妹は事故で死んだんじゃない。殺された。」
「殺された!?」
住職はうなずく。
「どういうことです。」
「警察のお偉いさんの息子がひき殺した。証拠は持ってる。誰なのかも特定している。警察に直談判したけど取り合ってくれなかった。」
「で?」
「法的措置も検討したけど時間がかかる。だから別のアプローチを考えている。」
「別のアプローチとは?」」
「それはわかりません。」
こう言うと住職は立ち上がった。
「なんのご縁でしょうか…。」
「?」
「警察関係者がここで彼の前に現れるとは。」
「え?」
「とぼけなくてもいいですよ。」
「え…何のことですか。」
「警察を敵視している者の前にその対象がひょっこり出現。なんまんだぶなんまんだぶ…。」
こう念仏を唱えながら、住職は庫裏の方へ姿を消した。
「なんでワシのことを見抜いた…。」
古田は思わず本堂を見た。
「御仏が引き合わせた…か…。」
砂利の音
墓地の方から砂利の音が聞こえたため、古田は身構えた。
ー妹の事故死。警察に対する怨恨。法的措置では時間がかかるから別のアプローチ。そして最上さんの仇であるとの情報。
ーまさかその警察のお偉方が最上さんやったと?
ーほやけどなんでほんなノビチョクなんてややっこしいもんを使った…いや、使えたんや…。
ーノビチョクなんて化学兵器、ツヴァイスタン経由でしか手に入らんぞ…。
ー一個人が仇討ちに使うには入手も困難やし、なにせ回りくどすぎる。
砂利の音はもうすぐそこだ。
ーとにかく目の前に重要参考人がおる。
ーどうする…ワシ…。
うつむき加減の朝戸が現れた。
ー朝戸慶太…。
古田の視線に気がついたのか、彼はこちらのほうをチラリと見た。
頭痛音
突如、古田の側頭部に痛みが走る。
「あイタ…タタ…。」
目の前がブラックアウトした古田はよろめき、その場で膝をついた。
と同時に誰かに身体を支えられたようだ。
「大丈夫ですか。」
「あ…大丈夫大丈夫…。」
すぐに回復した視界に飛び込んできたのは朝戸だった。
「あ…。」
「救急車呼びましょうか。」
「あ…いえ…。」
朝戸が自分の顔をのぞき込んでいる。
ようやく状況をつかんだ古田はとっさに立ち上がった。
「申し訳ありません。」
「なんで謝るんですか。」
「申し訳ない、ご迷惑をおかけしました。」
「いや、本当に大丈夫ですか。」
「はい大丈夫です。」
と言いながら若干足下がふらつく様子を見逃さなかった朝戸は心配そうに古田を見る。
「あー血圧がね、ちょっとあれでして、稀にあるんです。」
「だったら尚のこと心配です。すこし休憩された方が。」
「いえ本当に大丈夫…。」
古田の視界はぼやけ、またも黒く閉ざされてしまった。
目覚めの音
「はっ!」
天井が自分の目の前にあることから、自分が仰向けになっていることが瞬時にわかった。
身を起こすとそこは6畳の和室だった。
どこだここはと思った瞬間、部屋の引き戸が開かれた。
「あぁ目が覚めたみたいですね。」
「ここは…。」
「ここはあなたの部屋ですよ。」
「ワシの部屋?」
「はい。」
「え?どういうこと?」
「あれ?覚えていない?」
古田は目をつぶって記憶を呼び起こす。
そうだ。朝戸を追って寺に行った。
いやその前に朝戸が滞在する宿に部屋をとった。
…そうだここはその自分の部屋だ。
記憶が断片的で、時系列的にそれを呼び起こすことができないでいる自分に気がついた。
「藤木さんとおっしゃるんですね。」
「あ?」
「宿のオーナーから教えてもらいました。自分、朝戸って言います。」
「あ、はい。」
「急にいびきかいて寝ちゃうんだから、こっちもびっくりしましたよ。」
「え?」
「救急車呼んだんですが、寝てるみたいだから、どこかで寝かせればしばらくしたら起きるだろうって言われてタクシーで自分の泊まる宿まで運んだんです。そしたらまさかまさかであなたもここのお客さんだったって。」
「あ…。」
「オーナーに聞きました。仕事でここに滞在するとか。」
「はい…。」
「働きすぎなんじゃないですか。」
「…よく言われます。」
「ま、無事目が覚めてよかった。」
「ありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしました。」
朝戸はミネラルウォーターのペットボトルを古田の前に差し出した。
「ここのオーナーさんからです。」
「あぁ、何から何までお気遣いいただいて…。」
「じゃあ自分は部屋に戻りますんで。」
引き戸に手をかけた朝戸に古田は声をかけた。
「あの。お礼と言ってはなんですが、お食事でもいかがでしょうか。」
「いやそこまでのことはしていませんよ。」
「いやいや、ご迷惑をおかけして何もしないなんていけません。」
「んー…。」
「付き合いのある喫茶店が郊外にあるんです。よかったらそこで昼飯なんか。」
70過ぎた老人が43の自分に頭を下げてお願いをしている。
「喫茶店…いいですね。」
「ありがとうございます。」
「お願いします。ちょうど私も金沢グルメ巡りに疲れていたところだったので。」
「ちょっと待ってください。すぐに予約とります。」
電話呼び出し音
「もしもし。」
「あぁ古田さん。お久しぶりです。」
「藤木ですけどランチあいてる?」
「…藤木さんですか。」
「大丈夫?」
「了解。」
「じゃあしばらくしたら行きます。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。
皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。
すべてのご意見に目を通させていただきます。
場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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背後から声をかけられた古田は振り返った。
黒衣をまとった住職らしき男性が立っていた。
「あ、どうも。」
古田は彼に向かって頭を下げる。
「あたながご覧になっていたこの銀杏の木は、藩政期に植えられたものと言われています。」
住職は銀杏の巨木を仰ぎ見る。
「はぁー…んでこんなに大きいんですな。この辺りを歩いとってら、ずいぶん立派な木があるなって思って、ついふらっと境内の中に入り込んでしましました。」
「あぁいいんですよ。どなたでも自由にお参りいただければいいんです。ご縁ですから。」
「あ、はい…。」
「どちらから?」
「駅の方からです。地元の人間です。」
「あぁそうなんですか。」
「仕事もリタイヤして、地元のことをちょっと見つめ直してみようかとこの通りをぶらぶらしとるんです。」
「どうです?」
「近すぎて当たり前すぎて何が良いのかわからんかった地元の景色。あらためてそれと向き合うとその良さを感じることができます。」
「それは結構なことです。」
銀杏の巨木の下にある木製のベンチに住職はよっこらしょっと言って腰をかけた。
「私のような人、結構いらっしゃるでしょう。」
「まぁポツポツですかね。なにせ観光地からはすこし離れてますから。」
「たしか私の先にも若い男性がこちらに入ったような気がしたんですが。」
「あぁあの方はお墓参りです。」
「お墓参り?」
「えぇ。奥に墓地があります。そちらでお参りされています。」
「あ…そうですか…。」
「気の毒な方なんです。」
「…と言いますと。」
「5年か6年前ですかね。あの人、妹さんを事故で亡くしてましてね。」
「それは気の毒に。」
「ちょっとこちらの方に来る用事があったようで、ついでにお参りに来られたようです。」
聞きもしない朝戸の身の上話をスラスラと話す住職に古田は違和感を感じた。
「そうですか…。」
「その妹さんの三回忌の法要をここで執り行ったとき、ちょっとけったいなことをあの人言ってましてね。」
「けったいなこと?」
「ええ。」
「それは?」
「妹は事故で死んだんじゃない。殺された。」
「殺された!?」
住職はうなずく。
「どういうことです。」
「警察のお偉いさんの息子がひき殺した。証拠は持ってる。誰なのかも特定している。警察に直談判したけど取り合ってくれなかった。」
「で?」
「法的措置も検討したけど時間がかかる。だから別のアプローチを考えている。」
「別のアプローチとは?」」
「それはわかりません。」
こう言うと住職は立ち上がった。
「なんのご縁でしょうか…。」
「?」
「警察関係者がここで彼の前に現れるとは。」
「え?」
「とぼけなくてもいいですよ。」
「え…何のことですか。」
「警察を敵視している者の前にその対象がひょっこり出現。なんまんだぶなんまんだぶ…。」
こう念仏を唱えながら、住職は庫裏の方へ姿を消した。
「なんでワシのことを見抜いた…。」
古田は思わず本堂を見た。
「御仏が引き合わせた…か…。」
砂利の音
墓地の方から砂利の音が聞こえたため、古田は身構えた。
ー妹の事故死。警察に対する怨恨。法的措置では時間がかかるから別のアプローチ。そして最上さんの仇であるとの情報。
ーまさかその警察のお偉方が最上さんやったと?
ーほやけどなんでほんなノビチョクなんてややっこしいもんを使った…いや、使えたんや…。
ーノビチョクなんて化学兵器、ツヴァイスタン経由でしか手に入らんぞ…。
ー一個人が仇討ちに使うには入手も困難やし、なにせ回りくどすぎる。
砂利の音はもうすぐそこだ。
ーとにかく目の前に重要参考人がおる。
ーどうする…ワシ…。
うつむき加減の朝戸が現れた。
ー朝戸慶太…。
古田の視線に気がついたのか、彼はこちらのほうをチラリと見た。
頭痛音
突如、古田の側頭部に痛みが走る。
「あイタ…タタ…。」
目の前がブラックアウトした古田はよろめき、その場で膝をついた。
と同時に誰かに身体を支えられたようだ。
「大丈夫ですか。」
「あ…大丈夫大丈夫…。」
すぐに回復した視界に飛び込んできたのは朝戸だった。
「あ…。」
「救急車呼びましょうか。」
「あ…いえ…。」
朝戸が自分の顔をのぞき込んでいる。
ようやく状況をつかんだ古田はとっさに立ち上がった。
「申し訳ありません。」
「なんで謝るんですか。」
「申し訳ない、ご迷惑をおかけしました。」
「いや、本当に大丈夫ですか。」
「はい大丈夫です。」
と言いながら若干足下がふらつく様子を見逃さなかった朝戸は心配そうに古田を見る。
「あー血圧がね、ちょっとあれでして、稀にあるんです。」
「だったら尚のこと心配です。すこし休憩された方が。」
「いえ本当に大丈夫…。」
古田の視界はぼやけ、またも黒く閉ざされてしまった。
目覚めの音
「はっ!」
天井が自分の目の前にあることから、自分が仰向けになっていることが瞬時にわかった。
身を起こすとそこは6畳の和室だった。
どこだここはと思った瞬間、部屋の引き戸が開かれた。
「あぁ目が覚めたみたいですね。」
「ここは…。」
「ここはあなたの部屋ですよ。」
「ワシの部屋?」
「はい。」
「え?どういうこと?」
「あれ?覚えていない?」
古田は目をつぶって記憶を呼び起こす。
そうだ。朝戸を追って寺に行った。
いやその前に朝戸が滞在する宿に部屋をとった。
…そうだここはその自分の部屋だ。
記憶が断片的で、時系列的にそれを呼び起こすことができないでいる自分に気がついた。
「藤木さんとおっしゃるんですね。」
「あ?」
「宿のオーナーから教えてもらいました。自分、朝戸って言います。」
「あ、はい。」
「急にいびきかいて寝ちゃうんだから、こっちもびっくりしましたよ。」
「え?」
「救急車呼んだんですが、寝てるみたいだから、どこかで寝かせればしばらくしたら起きるだろうって言われてタクシーで自分の泊まる宿まで運んだんです。そしたらまさかまさかであなたもここのお客さんだったって。」
「あ…。」
「オーナーに聞きました。仕事でここに滞在するとか。」
「はい…。」
「働きすぎなんじゃないですか。」
「…よく言われます。」
「ま、無事目が覚めてよかった。」
「ありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしました。」
朝戸はミネラルウォーターのペットボトルを古田の前に差し出した。
「ここのオーナーさんからです。」
「あぁ、何から何までお気遣いいただいて…。」
「じゃあ自分は部屋に戻りますんで。」
引き戸に手をかけた朝戸に古田は声をかけた。
「あの。お礼と言ってはなんですが、お食事でもいかがでしょうか。」
「いやそこまでのことはしていませんよ。」
「いやいや、ご迷惑をおかけして何もしないなんていけません。」
「んー…。」
「付き合いのある喫茶店が郊外にあるんです。よかったらそこで昼飯なんか。」
70過ぎた老人が43の自分に頭を下げてお願いをしている。
「喫茶店…いいですね。」
「ありがとうございます。」
「お願いします。ちょうど私も金沢グルメ巡りに疲れていたところだったので。」
「ちょっと待ってください。すぐに予約とります。」
電話呼び出し音
「もしもし。」
「あぁ古田さん。お久しぶりです。」
「藤木ですけどランチあいてる?」
「…藤木さんですか。」
「大丈夫?」
「了解。」
「じゃあしばらくしたら行きます。」
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