102.1 第90話【前編】

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「素早い仕事ごくろうさん。」
「ありがとうございます。」
「これなら自殺ってことで大事にもならないだろう。」
「はい。」
「続いてもう一件頼む。」
「はっ。」
紀伊の携帯にPDFが送られてきた。
「これは?」
「ちゃんねるフリーダムというネットメディアの記者、三波宣明(のぶあき)だ。」
紀伊はちゃんねるフリーダムという言葉を聞いて表情が固くなった。
「この男が何を。」
「石川大学の総務の中村であると偽って、今朝小早川と接触をしていた事が判明した。」
「なんと…。」
「この三波を消すんだ。」
「え?」
「身分を偽ってまで小早川と接触をする奴だ。普通の取材じゃない。」
「あの…專門官。待ってください。それだけで消すんですか。」
「なんだ?」
「あの、この三波という男、石川のネットメディアの記者でしょう。石川といえば天宮の死亡があります。天宮から小早川にたどり着くのは普通の流れです。」
「ではなんで身分を偽ってまで、この段階で小早川と接触する必要があるんだ。」
「その本意はわかりませんが、なんとかして他社に先駆けて話を聞き出したかったのでは。」
「紀伊。」
「はい。」
「甘い。」
「甘い?」
「俺がなんの考えもなくこの三波を消せと言ってると思うのか?」
「い、いえ…。」
「お前、最近俺によく意見するな。」
陶の声に凄みを感じた。
「あ…あの…。」
「ま、俺の取り巻きがただのイエスマンだけだといろいろ具合も悪いからな。お前のような人材もいないと困るんだ。が、しかし。」
電話口から圧倒するものを感じた紀伊は思わず唾を飲み込んだ。
「俺も俺なりの考えがあって、お前に命令出してんだよ。」
「はっ!」
「多少の気遣いもしてくれ。」
「はっ!申し訳ございません!」
反論の余地を挟まない、陶の怒りと絶対の服従を強いる空気を感じ取った紀伊はその場で膝を折り、平謝りした。
それが彼に伝わったのか、押しつぶされそうな空気感は少し和らいだ。
「今朝、小早川が三波を仲間に入れてやってくれと俺に電話をかけてきた。」
「え?なぜ?」
「何かに付けて自分に便宜を図ってくれているってな。」
「しかしこの男は石川大学人間ではないんでしょう。」
「そうだ。」
「となれば…この三波という男。小早川と石川大学の関係や、東一での立場をかなり把握してやつに接触をした。」
「そうだ。しかも。」
「しかも?」
「この三波。ウルトラに個人的に関心があるって言っててな。」
「なんですって…。」
「小早川のMKウルトラ異聞って著作があるだろう。」
「はい。」
「あの自費出版に近い著作のファンだってさ。」
「あのオカルトマイナー本のファンと?」
「そうだ。」
「ありえない。本当だとしてもありえない確率です。」
「怪しいだろう。」
「怪しすぎます。」
「俺が懸念することはわかるな。紀伊。」
「はい。三波はネットとはいえ報道関連の人間です。」
「そういうことだ。」
紀伊はため息を付いた。
「やってくれ。」
「いや…專門官。」
「なんだ。」
「いま一度、ここは思いとどまるわけには行きませんか。」
「なぜだ。」
「あまりにも立て続けになってしまいます。天宮の周辺で人が死にすぎです。」
「…。」
「それにちゃんねるフリーダムという点がまずいです。」
「例のあれとリンクしてしまう…か。」
「はい。仮に三波を消したとしても、あそこには…。」
「片倉の娘か。」
「はい。」
「それの手綱は椎名が握っているんだろう。」
「はい。ですがちゃんねるフリーダムの人材は片倉だけではありません。他にもジャーナリストとしてのプライドを持った連中が在籍しています。あの手の人間に燃料を投下するとどうなるか。それは專門官もよくご存知のはず。」
「確かに。だがどうする。」
「別の方法で、三波の行動を牽制します。」
「策があるんだな。」
この問いかけに紀伊は間をおいて返事をした。
「はい。」
「わかった。三波については紀伊。お前に一任する。」
「はっ。」
「この際、三波がウルトラの何をどこまで知っているかはどうでもいい。とにかく奴の口を封じろ。」
「御意。」
電話を切った紀伊は大きく息をついた。
「実在の人物を怪しまれることなく成りすます。背乗りか…。この三波の裏にはプロが居ると見て間違いない。」
「プロって誰だ…。」
そう言うと彼はイヤホンをつけたまま携帯を操作し、続けて電話をかけた。
「今度はどうした。」
「もう一件頼みたい。」
「また?」
「あぁ。」
「今度はなんだ。…ってなんだこいつ。うん?ちゃんフリの記者?」
「そうだ。」
「こいつをどうするんだ。」
「口封じ。」
「何?またコロシか?」
「いやそれはまずい。」
「…だよな。」
「とにかくこいつの口を止めたい。」
「何があった。」
「石川大学の職員になりすまして小早川と接触していた。」
「なんだって?」
「記者風情がこのタイミングで実在の人物に成りすまして、怪しまれることなく小早川と接触。この三波、小早川の周辺の事情を相当把握しているようだ。」
「記者ごときがそんなプロの背乗りができるわけがない。なんだ。協力者でもいるのか。」
「おそらく。」
「ならばその協力者を抑えよう。」
「いやそれよりも口止めだ。三波の動きを指揮する存在はいまはどうでもいい。三波そのものの動きを封じたい。」
「しかし…このタイミングでちゃんフリか…。弱ったな…。」
「どうした。」
「実はちょっと具合の悪いことが起きててな。」
「なんだ。」
「そのちゃんフリ見てくれよ。」
紀伊はスマホを操作した。
「なんだ…これ。再生できない動画がたくさんあるじゃないか。」
「そうなんだ。少し前からこの状況だ。」
「これは?」
「わからん。キングいわくメンテナンスかもしれない。メンテナンスだとするとその部署に明るい協力者はいないから様子を見るしかないと言ってる。」
「じゃああの動画は。」
「あぁあれはあれで今日配信されるのは間違いない。」
「しかし…なるほどこうなるとここで、ちゃんフリの中で立ち振る舞うのはリスクが大きいってわけか。」
「いろんな面でな。」
「ならばちょっとだけ行方をくらましてもらうか。」
「またもヤドルチェンコ…か?」
「どうした?」
「いや待ってくれルーク。いまヤドルチェンコは大仕事の前だ。いろんな仕事をあいつに発注して、気が散ってヘマされるわけには行かない。今のあいつは例のあれに集中させてくれ。それにあいつの下請けのウ・ダバは力仕事はうまいが、その手の頭を使った工作活動は不得手だ。」
「じゃあどうするんだ。」
「様子を見よう。」
「バカ言え!様子見てたら奴は口を閉ざしているっていうのか。」
「なんだ…どうしたルーク。なに焦ってる。」
「…いつになったら実用化できるんだ。」
「え?」
「あぁ。いつになったら瞬間催眠は実用化できるんだって!」
「おい…お前…そんな大きな声…。」
「問題ない。車の中だ。それにしても…どんだけ待たせるんだお前らは!さっさと結果出せよ!」
「うるせぇ!サツの中の調整ひとつできねぇ奴がデケェ口叩くんじゃねぇよ!」
「クイーン?ナイト?んでビショップにキング?あーおれはルーク。アホか。ガキの遊びじゃねぇんだよ。ぶっ壊せとかぶっつぶせとか言ってっけど、なんかそこらじゅうでちょこちょこテロっぽいもんが発生してるだけ。今んとこしょぼいんだよ結果が。そもそもノビチョク使っても結果微妙って時点でお察しなんだけどな。」
「おいてめぇ。いまなんつった?」
「しょぼいんだ。結果が。俺がほしいのは破滅だ。」
紀伊が破滅という言葉を発した瞬間。二人に交わされていた激しい言葉の応酬は止まった。
「そのための5月2日だ。」
「わかってる。だが5月2日まで待てないんだ。三波の件は。」
空閑は紀伊が待てない理由をここで聞かなかった。
聞いたところで譲れないのだろう。だから感情を自分にぶつけた。
「わかった…。俺が動く。」
「お前が?」
「ああ。キングもクイーンもナイトもヤドルチェンコも今は動けない。いや動かないほうがいい。俺が動く。ルーク。お前はそのままサツの中の調整と報告を頼む。」
「…すまん言い過ぎた。」
「なぁに。俺も言い過ぎた。ま、本心だけどな。」
「俺も本心だ。」
「はっ…すこしは遠慮しろよ。」
「遠慮するようになっちまうと、俺らの関係はそれで終わりだ。」
「そうだな…。」
「本当に頼めるのか。」
「任せてくれ。これでも元コミュの運営側だぜ。」
「悠里の片腕…か…。」
「片腕と言えるほどかどうかはわからんがな。」
「頼んだ。」
「ああ。ところでその三波はいまどこにいる?まだ東京か。」
「正直言うと把握できていない。しかしヤツの裏に今回のなりすましの指南役がいるとするなら、そいつは石川にすぐに戻れと指南してるだろう。」
「なぜ?」
「身バレした瞬間危険な立場に立つのは明白。アウェイにいるよりホームにいたほうが何かと身を守りやすい。なにせ田舎は人と人とのつながりが密接だからな。」
「なるほど都会のように人知れずこっそりと拉致され消されるなんて可能性も低くなる…か。」
「大丈夫かビショップ。結構難易度の高いミッションとなるが。」
「問題ない。完遂する。」
やり取りを終えた空閑は紀伊から送られてきていた三波の周辺情報に目を落とす。
「もうこっちに向かっているとすれば、着いてそのままちゃんフリに入るだろう。だったらその前にガラを抑えるしかないか…。」
「いや待て…三波が突然消息を絶ったとなったら、それはそれでちゃんフリの中で騒ぎになる。それはまずい…。」
独り言をつぶやきながら部屋の中をうろうろと歩きまわっていた空閑は、足を止めた。
「あれを三波にも使うか…。」

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