118.1 第106話【前編】

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Wi-Fiスポットである一階ロビーにいるはずの相馬。その彼の姿が見えない。
このまま応接に戻っても光定しかいないとなると、これまた自分が叱られる。
一応、探すだけ探したというアリバイは作らねばなるまいと坊山は周辺を探った。
といってもここには暗くなった2件の喫茶店。郵便局、受付、外来の一部など限られたものしかない。
お客人の姿はどこにも見当たらなかった。
バイブ音(短い)
「うん?」
坊山は足を止めた。
妙な音が聞こえた気がする。
ここは外来の廊下。その長い廊下先は暗闇が待ち構えている。
ー勘弁してくれ…。夜の病院、そんなに得意じゃないんやって…。
と心のなかでつぶやいた瞬間、その廊下の先に二人の幼女が手をつないでこちら見て立っている。
なんてどこかで見た映画の1シーンが頭をよぎり、更に彼の恐怖心を増幅させた。
バイブ音(短い)
「はっ!」
確かに聞こえた。
短いバイブレーションの音だ。
ーマジかいや…。これ、俺その音の出どころを調べる展開じゃないんけ…。
またもバイブ音(短い)
自分はいま外来の長い廊下にいる。バイブ音はどうやらこの外来診察室のなかのどこかから聞こえるようだ。
坊山は音の聞こえたほうを見た。
「心療内科…。なんや…光定先生、スマホ外来に置きっぱなしやってんな…。」
バイブ音(短い)
「あぁ…でもこの暗い病院に不気味に鳴るバイブ音…マジで気味悪い…。」
短いバイブ音連続
「おいおいおいおい…。で、この引戸開けたらバーンって無しやぞ…。」
恐る恐るドアを開いた彼は暗闇の中、照明のスイッチを探す。
長いバイブ音
「ひぃっ!ってかなんでこのタイミングで!?」
スイッチ音
真っ暗な部屋の中が瞬く間に昼間のように明るくなった。
「あーまだ鳴っとる…。」
音の出どころは光定のデスクの中だ。
引き出し開ける音
バイブ止まる
スマホに表示されていた着信表示を見た坊山の動きは止まった。
「B i s h o p…ビショップ…。」
「え?ナイトって何?」
「…。」
「…ナイトって何よ。」
「朝戸のことだ…。」104
「ナイト、ビショップってきたら…これチェスじゃん。ナイトがアサトって奴なら、このビショップってのもナントカって奴なんけ…。」
スマホを手にした坊山はその画面を指でタップする。
見たこともないアプリの通知が無数に来ているのがわかった。
そこから先は進めない。
それが顔認証であるためだ。
「あ、俺ひとの携帯勝手に何やっとれんて…。」
余計なことをするところだった。
坊山は手にしたそれをポケットにしまって部屋を出ようとする。
ガンッという音
自分の腿を机に思いっきりぶつけてしまった。
「あ…ああ…。」
彼はうずくまった。
「ってぇ…。なんねんて…なんで俺、こんな目ばっかに…。」
ふと坊山は視線を感じた。
今ほどの衝撃で光定の机の引き出しが僅かに開いていた。
「なんだよ…。」
固唾を飲んだ坊山は恐る恐るそこに手をかける。
そしてそおっとそれを開いた。
「なんだ…これ…。」
坊山は身動きが取れないでいた。なぜなら誰のものかわからない眼球だけを写された写真が一枚、そこにあったかたらだ。
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「いらっしゃい。あ、古田さん?」
「おう大将。わしのこと覚えとってくれたんけ?」
「もちろんですよ。久しぶりですねぇ。」
「いつ振りかいね。」
「そうですねぇ...確か村上さんのアレがあってしばらくしていらっしゃった、あの時ぶりですか。」
「って事は...。」
「8年9年ってところですか。」
「うわーそんなに。言われてみれば大将。随分頭に白いモン混じった感じするね。」
「まぁ孫生まれましたから。」
「孫!?」
「えぇ。」
「うへぇ…。そりゃ変わるわ。」
「それに引き換え、古田さんは何も変わってないですね。なんかまだまだこう…オーラみたいなのが出てますよ。」
「あらそう?」
「え?どうしたんですか。その言い方。」
「あ、いや。気にせんといて。」
「熱いのでいいですか。」
大将は9年ぶりのいつもの対応を見せた。
「いや今日はいい。」
「え?」
「今日は酒なしや。酒なしで大将んところの餃子を腹いっぱい食べたい。塩焼きそばと餃子二人前で頼む。」
「わかりました。」
古田はおしぼりで顔を拭う。
「だから一緒に来ないか東京。そんな財団の専務理事になったところで、俺ひとりだと生きる上で何の張り合いもない。」
「えー困ります。」
「それとも何?まさか気になる人とかいるの?君は。」
「まぁ居ないことはないですけど。」
「…おいおい。さっきは誰も声かけてくれないって嘆いていたじゃないの。」
「ごめんなさい。」
「うそだろ…。こっちは期待したんだぞ。」
「わかってますよ。」
「う…。」
井戸村はビールを飲み干した。
「ぷはーっ。」
「部長みたいにスパッと自分の気持を表に出してくれたらいいんですが。」
「なんだ…そいつ、はっきりしないのか。」
「わざとはっきりしないのか、本当に奥手なのかわからないんです。」
「年は。」
「わたしよりちょっと上くらいです。」
「ってことは…。」
「40くらい?」
「40にもなってそんな感じなの?」
「はい。」
「そりゃある種病気だな。」
「そうかも。」
「でもそいつが良い?」
「はい。」
「どういうところが。」
「全部受け入れられる度量の大きさみたいな。」
酒が入ったためか、それとも照れか、楠冨は頬を赤らめているようだった。
「君みたいな魅力的な女性を虜にする男か…。どんな奴なんだろうな。」
「部長ほど魅力も渋さもありません。ただのそこら編の野郎です。」
「でも器が大きい…だろ。」
「…。」
「羨ましい限りだよ。まったく…。」
井戸村はビールのおわかりを注文した。
「はいお待ち。」
古田の前に塩焼きそばと餃子が一度に出された。
「おーこれこれ。これやって。」
割り箸を割る音
「いただきます。」
「ふーっふーっ…はふっはふっ、おう、うん…。ごくん。これこれ。これやって。」
餃子のタレを小皿に注ぐと、ついでに彼は焼きそばにもそれをさっとかけた。そして再びそばを口に運ぶ。
「(´~`)モグモグ。」
「んと古田さんってうまそうに食べるよね。」
「うん?」
「いやぁ俺が言うのも何だけど、古田さんが食うところ見てると、こっちまで腹減ってくるんですよ。」
「んならワシ、ここの宣伝してやっか。ネット動画とかで。」
「あぁそれいいですね。いい宣伝になるかも。」
「3兆円。」
「はい?」
「3兆円やぞワシの出演料。」
「いいですよ。3兆円ですね。3兆年払いで。」
「ふっ…。」
「何なんですか。この小学生みたいなやり取り。」
「ちょっとやってみたかったんや。」
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