117 第105話

18:00
 
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ノックする音
「失礼いたします。」
ドア開く
「あれ?」
坊山が立ち止まったため、光定は彼の背中にぶつかった。
「あの…坊山さん?」
「あーそうやった…。」
「はい?」
「Wi-Fiスポットどこやって言っとったんでした。お客さん。」
「Wi-Fi?」
「ひょっとしたら一階のロビーに居るんかも。」
「はぁ…。」
「ちょっと呼んできます。先生はこちらでお待ち下さい。ついでにお茶も用意しますんで。」
ただひたすらに呆れた顔を見せる光定には目もくれず、坊山はその場から姿を消した。
「ダラなこと言っとんなや!それのどこが報道ねんて!結局洗脳して上書きしとるだけやろうが!」
「…。」
「自分の思うようにいかんくなったら他人の記憶を催眠で上書き。なんちゅうご都合主義なんや。ひとを変える前に自分変えれまこのボケ。」103
「自分がなんとかしろよ。」
「え?」
「人ばっかり頼るんじゃないよ。自分がそのナイトを引っ張り出してやれよ。」104
「言いたいこと言ってくれるよ…。」
三波の言うことは最もだ。
しかしそんなことぐらいわかっている。
わかった上で理性的な行動が取れない自分があるのだ。
「自分を変えるなんてかんたんなこと言うけどさ、そんなことできるんだったら僕みたいな医者なんてこの世に必要ないんだよ。」
「…なんとかしたい。なんとか朝戸を止めたいんだ。けど、あいつとはもう関わりたくない自分がいる…。」
光定は深くソファに座り、そのまま目を瞑った。
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「先生も先生やけど、あの東一の輩も輩やわ。ほんとに勝手なんやって。こっそり俺の後付けてきたかと思えば一緒に部屋の中盗み聞きして、共犯ですねって。」
暗くなってしまった外来の廊下を歩いく坊山は饒舌だった。
「ちょい自分、事務局と連絡とりますのでどこかWi-Fi使える所ありませんかって…。用を済ませたらすぐ応接室に戻りますんでって待っててくださいって言うけどさ、応接お通し完了の報告せんかったらせんかったで、東一のお客様に無礼があったとかで、俺が怒られるの。井戸村病院部長に。あんたは良くてもよく思わん人間がいるんやわ。んとあの人コマけぇんだよ。」
ロビーに着いた坊山は肩を落とした。
「なんで居らんがや…。どこ言ってんて…。」
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「っくしゅん!」
「あらどうしました病院部長。」
「なんだろう。急にむず痒くなって。」
「にんにくが刺激強すぎましたかね。」
「確かにマシマシにしたけど…でもそんなもんでクシャミなんか出るか?」
「あ、風邪気味なんですよ。ほら人間、体が欲するものを自然と摂取したくなるって言うじゃないですか。多分、最近の激務で身体が悲鳴あげてるんですよ。だから精のつくにんにくを食べたくなった。」
「いや…そうじゃなくて…。」
「私、部長の身体が心配ですぅ。」
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「そう…片倉さんの下で…。」
「はい。」
「だったら光定のことの大体は知ってるんだ。」
「はい。」
「いまの会話、どこまで聞いた。」
「ナイトって何よってあたりからは聞いています。」
「あぁ…そこからか。」
「テロってなんですか。」
「今週の金曜にそのナイトがテロを起こすらしい。金沢駅で。」
「え?」
「え?だろ。」
「はい。」
「にわかには信じられない。でもそういったことの連続なんだよな。ここ数日。つい数時間前も空閑に変なことされてこの病院に来たんだし。」
「空閑が三波さんを…。」
「思い出しました。そう言えばその時光定先生、写真か何か見せながら話していました。」
「そう。写真見せながら羽交い締めにしてたんです。で、最後にこうやり取りしたんです。」
「この間、君空閑のところに資料届けてきてくれただろう。」
「はい。」
「あれは天宮から入手した写しだ。原本があいつの自宅かどこかにあるはず。」
「わかりました。自分が探して来ましょう。」53
「誰です?クガって。」
「知りません。聞いたことありません。」71
ーここで空閑か…。
「数日前の俺なら、んなダラなこと言っとんなまで片付く話なんだけど、いまの俺にとっては別にって感じで普通に受け入れられるんだわ。」
相馬も三波も自分らを取り巻く状況の異常性を理解している。
だが事態はそれを超える形で事は進行している。
異常な状態を更に異常な状態で覆い被せてくる。
いっそこの波に乗っかってしまおう。随分と楽になるのではないか。
そう思ったことは何度もある。
だが二人は思いとどまっている。
何がそうさせるのか。
彼らは恐れているのだ。
戻ってこれなくなることを。
ギリギリの精神バランスを保つこと。これがいまの二人にとって最も苦痛であるのかもしれない。
「空閑ってどういう人間なんですか。」
「わかんね。ま、なんかそいつが不完全な鍋島能力を持ってるらしい。テロを防ぐと同時にその空閑のガラも抑えたほうが良さそうだ。」
「ですね。ところで朝戸はどこに。」
三波は首を振る。
「そんなもん…三波さんひとりで何ができるっていうんですか。」
「でもあいつマジで警察だけはやめてくれって言ってる。」
「んじゃあ警察が動いたってわからんければいいんじゃないですか。」
「うん?」
「俺に任せてください。三波さんが警察にチクったって感じにはしません。だって俺が勝手に聞きに来たんですから。」
「相馬…。」
「三波さんはとにかくここでひとまず安静にしてください。その鍋島能力の影響で何かあると具合悪いですから。」
「わかった。」
で、と言って相馬はメモ用紙の切れ端を三波に手渡した。
「自分の連絡先です。ご存知の情報は随時ここに。」
「お、おおう。」
「くれぐれも京子には内密にお願いします。」
「そうか。京子もお前のこと。」
「多分知らんとおもいます。」
「多分?」
「ええ多分。」
「ふっ…。」
「何かあれば構わず連絡ください。」
じゃあといって相馬は部屋から出ていった。
「ふぅ…。かつてのバイト君に気ぃ使われるようになっちまったか…。」
「6年経って随分頼りがいのある感じになってたんだな…。」
渡されたメモ用紙に目を落とし彼はそれを握りしめた。
「頼んだぜ。相馬。」
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「あぁお待たせしました。」
待たせたことに申し訳無さもなにもない感じで相馬は光定と向かい合うように座った。
「ちょっと事務局と連絡をとってまして。」
「僕に何の用ですか。」
「小早川先生がお亡くなりになられたのはご存知ですよね。」
相馬はスマートフォンに目を落としながら光定に話しかける。
「はい。」
「例のアレですよ。」
「例のアレ?」
「とぼけないでください。アレです。アレの今後をどうするか、その指示をいただきに来たんです。」
部屋に入ってきてから禄に目も合わせない。光定はこの男の態度にさすがに頭にきた。
そもそも事務局とは連絡をとったのだろう。なのになぜ今、見せつけるように自分の前でスマホをいじっているのだ。
「あー気にしないでくださいね。これでも自分ビビってるんです。先生になんか変なことされないかって。」
相馬はちらりとだけ光定を見て、またスマホに目を落とした。
「目が何かのキーなんでしょう。自分、具体的なこと知らないんで用心のためです。悪く思わないでくださいよ。」
「…。」
「で、アレどうするんですか。こちらはもう先生にしか指示を仰げないんです。」
「一旦終了です。」
「終了…?」
「はい。」
「成果は。」
「十分でしょう。」
「…。」
「十分じゃないですか。鍋島能力はその目の写真だけでも一定の効果を持つ。その事は実証済みです。それだけでも十分じゃないですか。」
「本当に十分ですか?」
「整理します。あなたは瞬間催眠の実用化を研究していた。その研究の集大成が自分にその瞬間催眠を仕掛けた彼。名前は確か…。」
「空閑です。」
「そう空閑。彼は熨子山で死んだはずの鍋島とシンクロし、あなたにその瞬間催眠をかけた。ここ石川大学病院に戻ってじっとしてろと。熨子山に居たはずのあなたは気づくとここに居た。」
「はい。」
「この時点であなたは空閑の瞬間催眠は不完全だと悟った。なぜなら鍋島は催眠をかけられたことすら相手に気づかせなかったから。」103
十分なわけがない。自分が目指すのは鍋島惇の複製だ。不完全なものはただの催眠でしかない。鍋島能力とは言わない。
「あなたは本当にそれでいいんですか。」
「いいわけ無いだろう!」
突如として大声を出す光定を前に相馬はスマホから目を上げた。
「俺の最愛の友人を実験台にまでにしたんだ!とっておきの実験台だ!東京のしょうもない患者連中とか、そこいらの何も考えていない市中の人間とはワケが違うんだよ!」
「…。」
「でも、もう無理なんだ…。ビショップまで実験台にした。でもそれも不完全だった。僕のお人形さんはまた壊れる…。お人形さんは壊れるんだ!」
ービショップ?
「空閑ってどういう人間なんですか。」
「わかんね。ま、なんかそいつが不完全な鍋島能力を持ってるらしい。」105
ここで相馬は木下とのやり取りを再び思い出した。
「千種くんがその場からいなくなるのを見計らって、光定先生は電話をかけたんです。そこであの人はこう言ってました。」
「ビショップ。僕だ。」
「頼みがある。」
「違う。それはもういい。」
「曽我を消せ。」
「悪いことは言わない。すぐにアイツを消すんだ。」
「天宮が死んだ。話は後だ。あれのことが曽我から漏れるとまずい。こっちは天宮周辺の証拠隠滅の手を打った。」
「早急に。」53 71
「待て。空閑とビショップは同一人物なのか。」
「?」
「空閑はビショップなのか?」
光定は口をつぐむ。
相馬は再びスマホに目を落としながら続けた。
「そうなんだな。」
「…だったらなんですか。」
「いや。」
「あなた、空閑を知ってるんですか。」
相馬はうなずく。
「なぜ。」
「コミュで。」
「コミュで…。」
「彼はコミュの運営側だった。」
「そう…。あなたもコミュ。」
「で、これからアレどうするんですか。」
「え?」
「せっかくの研究。ここで終わらせていいんですか。」
「良いわけがない。でも…。」
「でも?」
「もう自分ではどうしようもない。」
先程から送られてきていたテキストの配信が止まったのを見計らって、相馬はスマホを胸元にしまった。
そして光定と面と向かって口を開いた。
「自分が聴きますよ。あなたのすべてを。」
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