115 第103話

18:30
 
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「どうしたんですかヤスさん。」
「三波の居場所がわかったぞ黒田。」
「え!?どこですか。」
「家だよ。」
「家?」
「自宅で引きこもってる。」
「は?」
「なぁあいつの住所ってどこだよ。俺行くから。」
突然の電話と三波の情報、黒田は状況を飲み込めないでいた。
彼の前に座る加賀はそのまま続けろと合図をする。
「住所って言われても俺もあいつの家なんて知りません。調べて俺が行きます。」
「いや俺が行く。」
「何言ってんですか三波は俺の部下です。俺が行きます。ヤスさんは会社に戻ってください。」
「なんでだよ。俺が引っ張ってきたネタだ。俺がやる。」
「ヤスさんはヤスさんの仕事があるでしょう!」
「…。」
「ヤスさんは制作の頭なんだから。そこを仕切るのが本文じゃないですか!」
「なんだよ!俺が突き止めたんだぞ!」
「三波は家になんかいませんよ。」
「は?」
「あいつはいま大学病院です。」
「だ…い…がく病院?」
「はい。救急車で搬送されたみたいです。さっき石大病院から会社に連絡ありました。」
安井は言葉を失った。
「命に別状はない状態のようですが、しばらくは入院しないといけないようです。」
「…なにがあった。」
「わかりません。詳しい様子を聞いていませんので。」
「お前はいま病院にいるのか。」
「いや。病院からは来られても困るということで、会社で待機しています。一応、三波の親御さんにも連絡はしました。」
「いつそれ知った。」
「ついさっきです。ついさっき病院から会社に連絡がありました。」
「そうか。」
「ヤスさん。一旦会社に戻ってきてください。通常業務が残っています。」
「だな…。」
「ヤスさん?ヤスさん!?」
電話は切られていた。
「素直に会社に戻ってくるとは思えないね。」
「はい。おそらく大川のところにカチコミに行くんじゃないでしょうか。」
「どうする。」
「大川についても警察に通報済みです。」
「なるほど。それなら安井君が大川と接触しても取り押さえられておしまいだな。」
「はい。」
「で、サブリミナル加工されたコンテンツの配信停止の進捗は?」
「完了しました。」
「ご苦労さん。これでウチが世間様に迷惑をかけるようなことは一応なくなったってわけか。」
「はい。」
「じゃあ早速元のやつに差し替える作業を始めてくれないか。」
「それなんですが…。」
黒田は奥歯に物が詰まったような表情だ。
「どうした。」
「マスターデータが見当たらないんです。」
「え?」
「マスターに差し替えるって、ヤスさん大川に言ってたんでどこかにあるはずなんですが。」
「制作のスタッフもわかんないの。」
「はい。おそらく安井さんしかわからない形でがどこかにしまったんだと思います。」
加賀は頭をかいた。
「安井君が大川のところにカチコミに行ったら、そのまま署まで連行ってことになるぞ。」
「そうなったら差し替え作業ができなくなります。」
「安井君を連れ戻すんだ。」
「ですがどうやって。」
「君も大川のところに行くんだ。先回りして安井君をここまで引っ張ってこい。」
「しかし自分は大川の居場所は…。」
「じゃあ俺が話たがってるって安井君に言って連れてきて。」
「それで戻ってきますかね。」
「駄目かな。」
「いくら社長でも…。」
「まダメ元で言ってよ。俺、戻ってくると思うよ彼。」
「なんでですか。」
「だって安井君、僕らを守るために大川の悪さの片棒を担いだんだ。俺らは彼にとっては守る対象。ってことは俺らの本気のお願いには耳を傾けてくれるんじゃないのかな。」
確かに加賀の言うことも一理ある。
「やってみますか。」
「うん。やってみようよ。」
「わかりました。」
黒田は部屋から出ていった。
「さてと…。」
机の上にある固定電話。
そこから加賀は電話を掛ける。
呼び出し音つづく
「あれ?」
呼び出し音
「おかしいな…出ない…。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「三波を診ているのは光定?」
「はい。」
「で。」
「あ…すいません。自分、今日はもう帰ってるんで詳しいことはわかりません。」
「そう…ですか。」
「申し訳ない。今日はちょっとはずせない用がありまして。」
「いや、こちらこそお取り込み中に電話して申し訳なかったです。またよろしくおねがいします。」
「あ…。」
「なんです?」
「私の部下の坊山というものがまだ残っています。よかったらその男を使ってください。」
「坊山さん…ですか?」
「はい。坊山には私から話を通しておきます。」
「あ、いやそれは結構です。」
「え?いいんですか。」
「ええ。あまり他の人を巻き込みたくないんでそれはやめてください。」
「わかりました。」
「またよろしくおねがいします。」
「誰ですかぁ病院部長。」
助手席に座っていた女性が井戸村が置いた携帯を覗き込んだ。
「あ、あぁ…まぁいいじゃないか。」
「光定先生のご報告。坊山課長をご指名。結構重要人物じゃありません?」
「いい。君には関係ない。」
「冷たいんですね。せっかくこうやって二人っきりになったのに。」
「何いってんだ。光定先生に帰れって言われたくせに。」
「あら一応、これでも先生に信頼されたんですよ。だから先生の服を直接ロッカーまで取りに行ったんですから。」
「…そうだな。」
「で、どちらに連れて行ってくれるんですか。」
「あぁ、中華なんかどうかなぁって思って。」
「中華?」
「うまいんだそこの餃子。」
「にんにくですか…。」
「大丈夫。次の日まで残らないから。」
「そんな精のつく物食べてどうするんですか病院部長。」
井戸村の頬は少し赤くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
タクシーのドアが閉まる音
走り去るタクシー
「またここか…。」
相馬の眼前には石川大学病院がそびえ立っていた。
夜間受付でしばらく待っているとカーディガン姿の男がこちらに歩いてきた。
「相馬さんですか。」
「はい。」
「坊山です。」
坊山は自分のネームプレートを相馬に向けてみせる。
「話は井戸村病院部長から聞いています。どうぞ。」
相馬は坊山に続いた。
「光定先生はいま病棟です。救急搬送された患者とお話しています。」
「えっと…光定先生は心療内科の先生です…。その先生が救急?」
「あぁもともとは脳神経の方なんですよ。なのでそっちのほうの対応もできます。」
「へぇ、知らなかった。」
「知らなかった?え?そうなんですか。」
「はい。」
「あの…光定先生って東一やとどういう扱いなんですか?」
「どういう扱いって?」
「あ、その…。」
「僕ら職員にはわからないこともたくさんあります。」
「あぁ、確かにそんなもんですね。」
「はいそんなもんです。」
「ま、なんで今はちょっとこちらでお待ち下さい。」
相馬は応接室に通された。
「先生にお知らせしてきます。東一からのお客さんやって。」
「よろしくおねがいします。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
病棟ナースステーション。
「どうも。」
「あ、課長。」
「どう?先生。」
「あぁ光定先生ですか。」
「うん。」
「三波さんの部屋に入ったきりですよ。かれこれ15分は経ってますかね。」
「そうか…。」
「どうしました。」
「いやね、先生に急なお客さんでね。」
「こんな時間に?」
ナースステーションの時計は19時を回っている。
「うん。」
「改めてもらったらどうです。」
「そうもいかんがやわ。なんせ東一の職員さんやし。」
「あらら…。」
「しゃあない。ちょっと様子みてくるか。お客さん待たすわけにもいかんし。」
ナースステーションを後にした坊山は光定が入っている三波の病室の前に立った。
「だら!」
ノックをしようとした瞬間部屋の中から声が聞こえたため、彼はそのまま止まった。
なぜならこの個室部屋。遮音性が高い部屋であるからだ。
ーどんだけでかい声で話とれんて…。
坊山は思わずそれに聞き耳を立ててしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「整理します。あなたは瞬間催眠の実用化を研究していた。その研究の集大成が自分にその瞬間催眠を仕掛けた彼。名前は確か…。」
「空閑です。」
「そう空閑。彼は熨子山で死んだはずの鍋島とシンクロし、あなたにその瞬間催眠をかけた。ここ石川大学病院に戻ってじっとしてろと。熨子山に居たはずのあなたは気づくとここに居た。」
「はい。」
「この時点であなたは空閑の瞬間催眠は不完全だと悟った。なぜなら鍋島は催眠をかけられたことすら相手に気づかせなかったから。」
「そうです。」
「この話、オカルトだと思わない人はいません。オカルトと判断された時点でこのことはエンタメ消化されます。」
「あなたは我が身をもって瞬間催眠の存在を認めるのに、ですか。」
「だからもどかしいんです。」
光定はため息をつく。
「警察です。やはりあなたが警察に自首するしか友人を止める方法はありません。」
「警察は信用できません。」
「なんで。」
「朝戸は警察に恨みを持っています。それも尋常じゃないほどの恨みです。その恨みの対象である警察に僕が駆け込む。彼の精神は間違いなくぶっ壊れます。ぶっ壊れるとそれが引き金になって何をするかわかりません。」
「それなら先にその朝戸を取り押さえるよう、僕の方から警察に…。」
「駄目だ!!」
びっくりするほどはっきりとした声を出した光定を三波は見つめるしかなかった。
「警察は駄目だ。認めない。」
「でもそれ以外に方法はありません。」
「どうして。あなたは報道記者でしょう。真実を世の中に伝えるのが仕事なんでしょう。」
「だから言ったじゃないですか。オカルトなんですよ。いま僕ら二人が話していることは世間一般にはただのオカルトなんです。」
「じゃあ信じるように仕向ける催眠をかけましょう。」
「は?」
「僕が処方します。三波さん。あなたはその処方された映像を挟み込みだけでいい。大衆はそれで潜在的に真実だと刷り込まれる。」
「だら!」
沈黙が流れた。
「だ…ら…?」
「ダラなこと言っとんなや!それのどこが報道ねんて!結局洗脳して上書きしとるだけやろうが!」
「…。」
「自分の思うようにいかんくなったら他人の記憶を催眠で上書き。なんちゅうご都合主義なんや。ひとを変える前に自分変えれまこのボケ。」
「ぼけ…。」
「ここに戻ってくる前に調べさせてもらったわ。ヒカリ。あんたコミュの人間やろ。」
「ヒカリ…。」
「あんたそこで何勉強したんけ?聴く力ってもん身につけたんじゃないんけ?…あぁそうか。運営側か。運営側やし聴くと見せかけて洗脳する。そっちがわの考え方が染み付いてしまったなやな。お気の毒に。そりゃに潰れるわけや。コミュ。」
「コミュをバカにするな!」
光定は三波の胸ぐらを掴んだ。
「おうおう威勢のいいことで。でもそのコミュで知り合った仲間である朝戸ひとりの暴走も止めることができんのは事実ですよ。」
「言うな!」
「そのお仲間も随分と中二病拗らせたもんですな。ひとりの個人がどんなテロできるっていうんですか。んでそれをすることで何が変わるっていうんですか。いいですか。就職氷河期って言うけど、俺だって立派な氷河期世代なんやしな!自分だけが悲劇のヒロインみたいな考えしとんなやって、せめてそいつに言ってやれま!」
瞬間、光定の拳が三波の頬を捉えた。
しかしそれは頬に触れるだけだった。
彼はその場に崩れ落ちた。
「言わないでくれ…。」
「なんだよ…。」
「言わないでくれよ。ナイトのことは悪く言わないでくれよ…。」
「ナイト?」
「あ…。」
「え?ナイトって何?」
病室の前で立ち尽くす坊山の首筋には妙な汗が流れていた。
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