111 第99話

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東京都と埼玉県にまたがるように自衛隊の駐屯地がある。
リュックを担いだ男がひとり、そこに歩いて入っていった。
「なるほど。今川は心当たりがあると。」
「はい。我が国のツヴァイスタンシンパに鍋島能力の研究を委託した可能性があると言っています。」
「しかしそれはあくまで今川の個人的な予想。」
「その個人的な予想の裏を取るのは警察の仕事です。」
「ツヴァイスタンによる重大犯罪に加担した男の見過ごせない発言。事件の真相を明らかにすることを職務とする警察は動かざるを得なくなる。」
「普通ならば。」
「そう。普通ならば。」
肘を付き、両手を口の前で組む彼の表情の細かな様子は2メートル離れたここからは窺いしれない。
「今回は法務省の方にも手を回しています。おそらくそこからもNSSに報告が入るでしょう。」
「ならば今度ばかりは警察は普通の対応を取らざるを得ないか。」
「はっ。」
「なにかと足を引っ張るな、警察は。」
「組織自体は職務をまっとうする意志があるのですが…。」
「が?」
「その中にはいろいろと拗らせた奴がいるみたいでして。」
「朝倉みたいなやつか。」
「はい。」
「そいつが足を引っ張っていると…。」
「引っ張るだけなら良いのですが。」
「無能な働き者か。」
「はい。」
「我々の世界では部隊の全滅を招きかねない、問題のある人間。」
「しかもその人間が中枢にいる。」
「せっかくの予算も人事とセットでなければ、有効たりえんか。」
「おっしゃるとおりです。」
「しかし小寺。警察には警察の職務を全うしてもらわねば困る。我々はあくまでも自衛隊。犯罪を未然に防ぐのはあいつらの仕事だ。この分野で我々がでしゃばるわけにはいかない。」
「はい。我々は状況が発生したときの対応に備えるまでです。」
「しかしできることならその状況は未然に防ぎたい。」
「そうも言ってられないかもしれません。」
「というと?」
「ベネシュの姿を目撃したとの報告が上がっています。」
「ベネシュ!?」
「はっ。」
「どこで。」
「石川です。」
組んでいた両手を解いて、彼は天を仰いだ。
「いよいよ本体の上陸ときた…。」
「状況はこちらにとって着実に良くない方に進んでいます。」
「防衛出動の可能性か。」
「その可能性はいつでも念頭に置いておく。それが我々の職務でございます。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バイブ音
自分の懐が震えたため彼はそれを手にした。
画面に表示される名前を見て彼は思わず足を止めた。
ーえ?百目鬼理事官?
片倉は基本的に百目鬼との連絡は古田というハブを通して行っている。
先方から直接電話連絡が入るというのは、平常ではない何かが身内に起こっていることを示している。
片倉と百目鬼が直接連絡をとるのは、先日、気配を消して突然自分に声をかけてきた渋谷駅以来だ。
彼はイヤホンを装着し即座にそれに出た。
「お疲れさまです。どうしました。」
「良くないことが起きている。」
「…でしょうね。理事官直々のお電話です。」
「トシさんのことだが。」
「え?トシさん?」
「認知症の疑いがある。」
「は!?」
「肝心のハブを介しての情報伝達が難しい状態だ。だから俺からお前に直接連絡した。」
「え、トシさんが認知症?んな突然…。だらな…。」
「あぁ言っておくが、天宮とか千種に認知症じゃないかって言われた件じゃないぞ。」
「え?他にもトシさんを認知症っていうやつが?」
「あぁ。」
「誰が?」
「神谷。」
「神谷?神谷って…あの仁熊会の神谷ですか。」
「うん。まぁそのあたりはちょっと置いておくとして、神谷から聞いたそのトシさんの症状を専門家にぶつけてみた。完全にそれらしい。しかしこの手の病気の場合、徐々にその症状が表面化する。専門家も突然の発症に疑問をいだいていた。」
片倉は歩きながら頭を抱えた。
ことが急であるのと同時に、受け入れがたい情報。この2つが彼の思考能力を急激に低下させた。
「俺らのハブが認知症。絶望以外の何物でもない。」
「はい。」
「さっきまではな。」
「…は?」
「この認知症。怪しいぞ。」
「怪しい?何が。」
「刑務所に収監されている今川いるだろう。」
「あぁ今川惟幾ですか。」
「そう。その今川、興味深い発言をした。ついさっき法務省から連絡が入った。」
こう言って百目鬼は先程法務省からもたらされた、今川とその面会者のやり取りの一部始終を片倉に披露した。
「急に認知症のような症状が出た...ですか。」
「あぁ疼痛を抑えるための催眠治療を受けた直後から。」
「トシさんはその疼痛に?」
「いや、アイツは高血圧と狭心症だ。」
「じゃあ。」
「片倉。石川大学病院だぞ。トシさんがかかってんのは。」
「でもなんでトシさんに催眠治療なんか。」
「だから言ってるだろうが。石川大学病院だって。」
「あのぅ…理事官。自分、ちょっと頭の整理がつかんがです。」
「天宮。」
「天宮?」
「天宮なんだよ。その難治性疼痛を抑える催眠療法を施したのが。」
「天宮が…催眠療法を?」
「そうだ。ちなみに天宮はツヴァイスタンのシンパだ。催眠と聞いて片倉、ピンとこないか。」
「瞬間催眠。」
「そう。」
「え…まさか…。」
「石川大学病院がその今川が言っていた外注先と考えられないこともない。」
「もしもそれが本当にそうやったとしたら…。」
「患者を適当に見繕って、瞬間催眠の人体実験を行っていた可能性がある。」
「MKウルトラ異聞にある瞬間催眠。その人体実験ですか。」
「ああ。」
「その対象の一人が、その今川と面会した男の父親。」
「そして古田登志夫。」
「いや待ってください。理事官。」
「なんだ。」
「トシさんとは自分長い付き合いです。自分はあの人のことは把握しています。あの人、つい最近も石大にいつもの高血圧と狭心症でかかっとりますが、仮にその、瞬間催眠の人体実験的なもんをそん時に受けたとしたら、誰がその施術をしたというんでしょうか。天宮はすでに引退しとります。」
「何いってんだ。トシさんは天宮本人と直接接しているだろう。」
「いやいや。ほれやったら天宮本人がトシさんを認知症呼ばわりなんかせんでしょう。その催眠療法の副作用が認知症やとしたら。自分で催眠療法のまずい部分をあえて被験者に暴露しとることになる。」
「なるほど…確かにそうだな。自分にとって都合の悪いことをあえて披露するのは天宮にとってなんの得もない。」
「となるとトシさんはどのタイミングで、催眠療法を…。」
「いや、タイミングなんていつでもあるだろう。トシさんは石大病院をかかりつけにしてんだから。」
「いやだから天宮は引退しとるんです。」
「弟子筋の奴がいるじゃないか。」
「曽我ですか。」
「曽我もあるだろうし…。」
「小早川…。」
「全滅か。」
「いや。まだいますよ。」
「確かに…もうひとりいるな。」
「光定公信。」
片倉が光定の名前を口に出すと二人に沈黙が流れた。
「光定は相馬がマークしている。」
「ですね。」
「司令塔のトシさんがあまり芳しくない。ここは直属の上司である片倉。お前が相馬の指揮をしてやってくれ。」
「いや、ちょっと自分もういっぱいいっぱいです。」
「じゃあどうする。」
「ケントクにお願いできませんか。」
「ケントクか…。岡田か。」
「はい。」
百目鬼は何を考えているのか、暫く返事をしない。
「理事官?」
「あ、あぁ…岡田だな。わかった。だが岡田が相馬の管理をするのはちょっと避けたい。」
「なぜ?」
「理由は言えない。ケントクは良いが他に信頼できるヤツいないか。」
「富樫はどうでしょう。」
「富樫?」
「はい。トシさんと個人的に交友関係があるベテランです。」
「できるのか、その男。」
「できるもできる。あの三好さんのバディですよ。」
「三好。ツヴァイスタンハンターのあの三好か。」
「はい。あと椎名ウォッチャーでもあります。」
「椎名…。」
「はい。椎名賢明。本名、仁川征爾です。」
「仁川…。」
「どうしました?」
「いや…ちょっと気になることがあってな。」
「なんです?」
「いや…。」
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