107 第95話

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「あぁ。ご報告ありがとうございました。え?それはもう…ええ。東京のとある財団の専務理事に空席が出るらしくてですね。話しはすでについていますからご心配なく。え?あぁ…勿論、東一出身者の特別ポストですよ。理事長さんはただの飾りですから、井戸村さん。そこならあなたの予てからの希望の通り、石川なんて田舎じゃなく、東京でやりたいようにやれますよ。」
石大病院の外、バスのりばのベンチに腰を掛けて電話をする相馬の姿があった。
「私ですか?私はこのとおりしがない人材コンサルタントです。これが私の仕事ですので仕事をしたまでですよ。」
「いや、突然電話をかけてきたかと思えば、どうしてこうも私の心情の内幕までも全て知ってるんですかね。此処ってところにズバッと提案を投げてくる。すごい人ですねあなたは。あなたのような人材が側にいれば、その組織はまさに百人力。」
「お褒めに預かり光栄です。あの、ところで小早川先生の後任人事の件は?」
「わかりませんよ。東一とのパイプは光定先生だけになってしまったんで。」
「東一出身は井戸村さん、あなたもそうだし他にも職員でも複数いるでしょう。」
「いや、なんだかんだ言って事務方は影響力はありません。あくまでも教授や医師側がこの病院では力をもっていますから。」
「そうなんですか。」
「はい。御存知の通り光定先生はあんな感じです。こうなった今、このままこの病院にいても東一出身として大きな顔していられるとは思えません。何せ東一に冷ややかな目を向ける勢力もありますから。」
「一刻も早く泥舟から逃げたい。と。」
「はい。」
「でも本当に機を見るに敏。」
「それはあなたの方です。こうもタイミングよく私にこんなうまい話を持ちかける。すべてあなたの掌の上なんてことはありませんよね。」
「ありません。偶然です。」
「そういうことにしておきましょう。」
雨影に白衣姿らしきものを見た。
「おいでなすった。」
「はい?」
「光定先生のご帰還です。」
「まったく…どこに行ってたんだ…。」
「そこのところよろしくおねがいします。」
「了解。」
病院内に吸い込まれていく光定を見届け、彼もまた病院内に入っていった。
「なに?光定先生が帰ってきた?」
「はい。なんかぼーっとして誰もいない外来にいます。」
「外来に?」
報告を受けた坊山は診療時間が終了した人気のない、心療内科の外来に向かった。
ノック音
「総務人事課の坊山です。失礼します。」
スライドドアを開いた坊山は言葉を失った。
そこには雨でびっしょりになった白衣を纏い、力なくただ呆然と壁を見つめる光定が座っていたのだ。
「光定…先生…?」
返事がない。
「光定先生。大丈夫ですか。」
呼びかけても反応がないため坊山は彼の体を擦った。
「先生!しっかりしてください!おいだれか!タオルか何か持ってこい!」
「やめ…て…。」
光定は彼の手を振り払った。
「先生。でもそれやと風邪ひきます。」
「課長どうぞ。」
「…おうありがとう。」
坊山は光定の頭を拭き出した。
「やめろ。」
「何いってんですか。」
「やめろ!僕にさわるな!」
ガシャーン音
「せ…先生…。」
「なんで僕の言うことが聞けないんだ!」
「あ…は、はい…。」
「何で君は僕の言うことが聞けないんだって言ってるんだ!」
こんなに感情を顕にする光定を見たことがない坊山は、目の前の光景に戸惑うしかなかった。
それは勿論この場に居合わせた職員においても同様だ。
「あ…いえ…それは…。」
「ほっといてくれ!」
「ほっとけるか!風邪引くだろうが!」
「え…。」
「理由もクソもあるか!体冷えたら風邪引くでしょうが!そうなったら私は責任問題なんですよ!クビが飛ぶんですよ!」
「あ…。」
「いいからじっとしててください!」
そう言うと坊山は強引に光定の頭を拭いた。そして看護師から渡された検査着を光定に突き出す。
「これに着替えてください。」
「え…。」
「先生の服はこちらで乾かします。それまではこれで凌いでください。」
「で…も…。」
「服が乾くまでここにおればいいじゃないですか。このまま検査着着て病院の中ウロウロすると先生もそうですけど他の人がびっくりしますから。」
「はい…。」
内線を押す音
「あー坊山です。心療内科の外来にだれかひとり看護師よこして。できるだけ気が利くやさしい感じの人。え?何で?理由は聞くな。は?やましいこと?ダラなこと言うな!人事の俺がなんでそんなことするんだよ!」
電話を切った坊山が振り返ると全裸の光定が検査着に着替えていた。
「小早川先生は天宮先生の代わりに東一から来られる優秀な先生だ。光定先生も天宮先生の秘蔵っ子。とにかく東一のお客様には粗相の内容にしろ。」91
ーこれ…大丈夫か…。東一の先生に裸になれって言って実際そうなっとる…。
ノック音
「はい。どうぞ。」
ドアが開かれ現れたのは私服姿の楠冨看護師だった。
「え?楠冨さん?」
「はい。」
「なんで?」
「病院部長直々のご指名です。」
「病院部長?」
「はい。嫌とは言わせません。」
「は、はぁ…。」
ー何だよ…こいつ部長にも色目使ってんのか…。
坊山は改めて楠冨の姿を見た。
制服姿のときと違って、流行りのダボッとしたシルエットの服装だ。
業務時のセクシャルさを感じさせない。
ーこいつ何でまた、こうも隙あれば噛んでくるんや…。
ーなにが目的なんや…。
「さ、さ。後は私にお任せください。坊山課長は通常業務にお戻りください。」
「はぁ…。」
「とっとと出てけま。」
「あ…よろしくおねがいします…。」
ドアを閉める音
「光定先生。なにか用があれば何なりとおっしゃってください。私は隣で熱いお茶の用意でもしてますので。」
光定は楠冨には何の反応も示さなかった。
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雨の音
「はい。光定はいま井戸村に任せています。」
「大丈夫なんか。その井戸村は。」
「わかりません。」
「ちょっとうまい話ふったらコロッとこっちに転ぶってのはどうも…。」
「古田さんの懸念することもわかります。その逆もしかりってことですよね。」
「ああ。」
「そのための古田組のヘルプなんでしょ。」
「まぁそうねんけど。」
「自分はその方がどんな人かは知りませんけど、古田組ですから間違いないです。」
「あらそう?」
「なんです?そのオネェ言葉。」
「あ…。」
「自分は一旦、光定から離脱します。」
「わかった。井戸村の管理はウチのエス経由で行う。」
「よろしくおねがいします。」
「相馬。んでお前はこれからは。」
「個人的な方を。」
「個人的な方?」
「はい。」
「さっきから何なんや、そのお前の個人的な用向きって。」
「それ聞きます?」
この相馬の問いかけに古田は自分の野暮さを恥じた。
「あ…。」
「あぁ京子の件じゃありませんよ。」
「…そう。なの?」
「何なんですか古田さんさっきから、その変な話し方。」
「あ、いえ…。」
「ま、ちゃんフリ関係であるのは間違いないんですけどね。」
「ちゃんフリ関係?」
「はい。」
「待て、相馬。」
「なんです?」
「ちゃんフリって言うと実は気になる話が入っとってな。」
「なんですか。」
「ついさっきワシのところにはいってきたんや。三波って記者が行方不明になったらしい。」
「え!」
相馬は思わず声を出してしまった。
しかし幸い彼がいる石川大学病院のバス停には誰もいなかった。
「なんやその反応。」
「あ…いえ…。」
「まさかその三波ってやつに用事があったとか。」
「は…はい。」
「つい1時間ほど前に金沢駅の防犯カメラに映ったのを最後に、行方がわからんくなっとる。」
「なんで三波さんをマルトクが。」
「片倉関係。」
「課長ですか。」
「ああ。詳しいことはまた今度。とにかくその三波はケントクが追っとる。相馬。お前もその三波に要があるんやったら、探してくれま。」
「あ、はい。」
「とにかくヤバい山に首突っ込んだ関係ねんわ。」
「ヤバい山に首を…。」
「おう。ほやから頼む。」
「了解。」
電話を切る音
ーなんだ…なんで三波さんが…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クラクションの音
「あ。」
信号が青になっていたことに気がついて、三波はアクセルを踏み込んだ。
ルームミラーを見ると後続の車の運転席の男が、なにやら不機嫌極まりない顔つきである。
「ごめんよ。ちょっとボーッとする事くらいあるって。」
携帯バイブの音
携帯を手にした三波はそれが黒田からの着信であることを確認して、それをそのまま放置した。
シャッター音
「ありがとうございました。」
「いえ…。」
「今日手に入れた情報はすべてデタラメだ。小早川は気が狂っていた。お前は疲れている。このままおとなしく家に帰るんだ。そこでじっとしていろ。」94
「何だったんだ…あれ…。」
「ってか、誰だよあいつ…。」
三波の運転する車は自宅に向かって走行していた。
「とにかくいま、俺が独自の動きを見せるのはよくない。とりあえずあいつが言ったように動こう。そうすればアイツは尻尾を出す。」
再び携帯が震える。
今度は片倉だった。
「はい三波です。」
「あっ。出た。」
「はい。すいません。ちょっといろいろありまして。」
「おい、どうしたんや。迎え寄越したんに急に消えやがって。」
「いきなり向こう側から接触してきましたよ。」
「は?」
「とりあえず自分は向こうの言うとおりにしようと思います。」
「おい待て。あんた何言っとるんや。」
「すいません。片倉さん。自分一旦自宅に帰ります。」
「おいおい。」
「帰ってから改めて連絡します。僕の動物的な勘がそう言っています。」
「勘か。」
「はい。」
「で俺は。」
「自分と接触したあいつ調べてください。」
「今やっとる。」
「あ・・・。」
急に三波は無言になった。
「おいどうした?」
「あの…なんか頭が痛いんです。」
「頭が痛い?」
「はい。で、ボーッとする。このままだとしんどいのもあって家に帰ります。」
「わかった。気をつけてな。」
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